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皆の自己肯定感を上げていきたい――ぎんしゃむ・ぷうたんによるアイドル・MMが白キャンPと組んだ理由

宗像明将音楽評論家
ぎんしゃむ(左)とぷうたん(右)(MM提供)

11月にZepp DiverCity(TOKYO)でのワンマンライヴをひかえた真っ白なキャンバス(通称・白キャン)。そのプロデューサーである青木勇斗が、新しいアイドルをプロデュースするという。しかも、そのアイドルとは、インフルエンサーやYouTuberとして活躍してきた「ぎんしゃむ」と「ぷうたん」だというではないか。私は、ぎんしゃむが参加していた「ヘンジンマジメ」のYouTubeチャンネルを登録していた関係で、YouTubeのおすすめに出てきた「ぷうたんとぎんしゃむのちゃんねる」の1本目の動画も見ていた。しかし、白キャンのプロデューサーが、何をどうしたら「男の娘」のふたりをプロデュースすることになるのか……。混乱を抱えたまま、3人に話を聞きに向かった。9月の暑さがまだ残る日のことだった。

性別でアイドルのオーディションに応募できずにいた

――ぎんしゃむさんとぷうたんさんは、中学生のときにSNSで知り合ったんですよね。

ぎんしゃむ  そうです。

ぷうたん  Twitterで、ぎんしゃむからぷうたんにフォローが来て。うちはぎんしゃむのことを知ってて、フォローを返したのがきっかけですね。

――初めて会ったのはいつ頃なんですか?

ぷうたん  その頃は、ぎんしゃむが大阪、うちが静岡で遠くて。高1のとき、ぎんしゃむがイベントの仕事で東京に来て、うちも中学を卒業して東京に来てたんです。

――2020年2月から、ふたりでYouTubeチャンネル「ぷうたんとぎんしゃむのちゃんねる」をスタートしましたが、どういう経緯で始まったんですか?

ぎんしゃむ  「ふたりでアイドルをしたい」ってなったんで、そのために知名度を上げて、プロデューサーさんに見つけてもらおうってなって、YouTubeを始めてみました。

――アイドルに憧れはじめたのはいつ頃でしょうか?

ぎんしゃむ  小学生のときにアイドルをけっこう見てたので、そのときからアイドルには憧れてて。そのときNMB48に履歴書を送ったら入れると思ってたんですけど、自分が男の子だったので諦めて。でも、「今の知名度をいかしてアイドルをしたい」ってなって、近くにこのかわいい逸材がいたんで誘ってみたって感じです。

ぷうたん  うちも小学校の低学年ぐらいからAKB48とかがめっちゃ好きで。「ちゃお」の付録で、紙でアイドルの衣装を作れる冊子があって、それを欲しいけど親に言えなくて、いとこのお姉ちゃんに内緒で言って、買ってもらってこっそり着てました。

――今までオーディションに応募したことはあったんですか?

ぎんしゃむ  応募まではしてないです。

――性別の壁もありますしね。

ぎんしゃむ  そうなんですよ。

ぷうたん  うん、そうです。

ぎんしゃむ。2001年12月7日生まれ、大阪府出身(MM提供)
ぎんしゃむ。2001年12月7日生まれ、大阪府出身(MM提供)

青木は2018年に男の娘のアイドルを手がけようとしていた

――そこからどういう経緯で青木さんにたどり着いたんですか?

ぎんしゃむ  知り合いから、「青木さんがアイドルのプロデュースをしてみたいって言ってるよ」って聞いて、つなげてもらって、話を聞いた感じです。

――真っ白なキャンバスって知ってましたか?

ぎんしゃむ・ぷうたん  知ってました、知ってました。

――今、ふたりとも事前に言い含めていたかのようなリアクションでしたね。

ぎんしゃむ  いやいやいやいや、知ってました。

ぷうたん  まじで知ってるし、歌もめっちゃ聴いてます。「パーサヴィア」って曲が一番好きで。めっちゃ格好いいし、「うわ、こういうアイドル、めっちゃ素晴らしい」って。振り付けもちょっと分かるもん。それぐらい好き。

ぎんしゃむ  みんなかわいいな、顔ラン高いな、っていうイメージです。

――ふたりは白キャンの妹グループになるんですか?

青木  そんなことはしないし、白キャンは今後もたぶん妹グループは作らないです。完全に独立遊軍ですね。上下関係とか嫌いなんですよね。

――そんな白キャンのプロデューサーである青木さんと初めて会ったとき、どんなことを話したんですか?

ぷうたん  自分たちはこういうアイドル像に憧れてて、こういうアイドルをしたいとか、男の娘のアイドルとして自分たちの良さをいかして発信していきたい、って。

ぎんしゃむ  LADYBABYさんもふたり組でやってたじゃないですか。そういう感じで人気になれたらいいな、って伝えました。

――ちなみに、青木さん以外のプロデューサーにも会ったんですか?

ぎんしゃむ  話しました、いろいろ。でも、「ふたりはちょっと。せめて3人がいいかな」みたいな感じで言われて。別にメンバー増やしたくないわけじゃなかったんですけど、クオリティーの高い男の娘を探すっていうのはけっこう大変なので、「厳しい」ってなって流れました。

――ふたりだとコストの回収が難しいですもんね。青木さんと出会うまでに「無理なのかな?」と思うこともありましたか?

ぷうたん  ほぼ諦めてました。

ぎんしゃむ  でも、絶対諦めたくなくて、ずっと探して。

ぷうたん  一回セルフプロデュースでやるってなったけど、きつい部分があるし、うちらも全然お金ないし。シビアな話だけど無理だなって。

――そこに青木勇斗という人が現れて。

ぷうたん  そうそう、神様。

ぎんしゃむ  救世主。

ぷうたん  光って見えた。

――最終的に青木さんと手を組んだ最大の理由はなんだったんですか?

ぎんしゃむ  青木さんが、男の娘のアイドルをプロデュースしてみたいって前から思ってたらしくて、それで「ふたりでもやろう」ってなってくれたんだと思ってるんですけど、どうですか?

青木  僕は、実は2018年ぐらいに男の娘のアイドルを一回やろうとしたんですよ。そういう面白いコンセプトでやってみたいと思ったけど、メンバーが集まらなくって、「無理だ」ってなってやめました。メンズアイドルを集めるよりも何倍も難しくて。

ぷうたん。2002年3月18日生まれ。静岡県出身(MM提供)
ぷうたん。2002年3月18日生まれ。静岡県出身(MM提供)

傷ついてきたからこそエールを送りたい

――青木さんが、今回このふたりをプロデュースしようと思った理由はなんだったんですか?

青木  いい子そうだったから。

ぎんしゃむ  イエーイ!

ぷうたん  イエーイ! 超うれしい。

青木  人が大事じゃないですか。あと、ふたりっていうのが良くて。マネジメントしやすい。

――白キャンは5人いて、手が掛かって大変だということですか?

青木  いや、今は全然大丈夫ですよ。ふたりっていうのと、面白さ、斬新さっていうのと、メジャーにしやすいだろうなと思って。

――ふたりの青木さんに対する印象って、どんな感じでした?

ぎんしゃむ  今まで会ってきたプロデューサーさんよりすごい若かったんで(青木は23歳)、「話しやすいな」って感じました。

ぷうたん  「優しそうだな」って思ったのが第一印象で。ちゃんと意見を聞いて「なるほどね」って言ってから話してくれるから、「すっごいいい」って思いました。

ぎんしゃむ  不安はあったんですよ。今までも「決まり」みたいな雰囲気になっても、結局流れることも多かったから、「今回は大丈夫かな?」みたいな。

ぷうたん  「今回も流れちゃったら、うちら危ういよね」とか言って。

ぎんしゃむ  「もうないよね」みたいになってたんですけど、ちゃんと話を進めてくれて安心しました。

――青木さん、ぎんしゃむさん、ぷうたんさんの間で、「こういう活動をしよう」というイメージはもうできているんですか?

青木  コンセプトは共有してますけど、このグループでは僕の色を薄めたいんです。白キャンって、僕の色が強いじゃないですか。でも、彼女たちってゼロからの人じゃない。それを僕がプロデュースするって感じなんです。彼女たちのグループ名も、僕が決めてないんですよ。

――グループ名は決まったんですか?

ぎんしゃむ  昨日決まりました。「MM」って書いて「メイメイ」って読むんです。中国語でメイメイが「かわいい子」みたいな意味なんです。ふたりとも中国や台湾でバズってるんですよ。だから「中国語を入れればいいのでは?」って思って提案して決まりました。

――コンセプトはどんなものでしょうか?

ぎんしゃむ  自己肯定感を上げる。自分たちも自己肯定感を上げるし、自分たちを見てみんなにも自己肯定感を上げてほしいっていう、前向きでポジティブなコンセプトです。

ぷうたん  「男の子でもないし、女の子でもない」みたいな扱いを受けてきたからこそ、うちは傷ついた部分もあったし、気にしちゃうこともあって。でも、そういう子たちって、うちらのYouTubeを見てくれてる方にもけっこういるんですよ。おんなじ悩み持った子たちに「大丈夫だよ、もっと自分らしくいていいんだよ」みたいなエールを送ってあげたい。アイドルとして元気づけられたらな。

MM(MM提供)
MM(MM提供)

新しいものを作ることは怖い

――ぎんしゃむさんは、2019年10月以前のツイートを消しましたよね?

ぎんしゃむ  消しました。その時期いろいろあって、病みツイートみたいなのを、すごいいっぱいしちゃって。それでメンヘラキャラみたいなのが定着して嫌だったんで、ポジティブなツイートをしていこうと思って一回消しました。

――ぷうたんさんは、病みツイートや病みストーリーみたいなものはしないタイプですか?

ぷうたん  たまに病んじゃったときは、「みんなからのリプとか見て元気出てる」って言うと、みんな察してくれて、「あんま無理しないでね」とか言ってくれるから、それで元気が出るタイプです。

――アイドルになると、どうしても言動は今まで通りとはいかなくなるじゃないですか。

ぎんしゃむ  消したツイートのときは、思春期を一気にこじらせたんですよ、それで情緒不安定になったんです。それは良くないなと思って、できるだけキラキラアイドルツイートを心掛けようとは思ってます(笑)。絵文字をめっちゃ使ったりしてツイートしてたんですけど、ツイート内容がおじさんくさいって言われてやめました(笑)。

ぷうたん  ファンの人がめちゃめちゃ好きで、リプ返とかめっちゃするんですよ。だから「好き」みたいなツイート内容ばっかなんです。そういうのは変わらずやってこうかなと思います。

――今、ファンの人たちは女の子が多いですよね。アイドルとして新たにファンになるのは、男の子かもしれないし、女の子かもしれないし、どっちが増えると思います? 

ぎんしゃむ  意外に男の人が増えたりしそうかなとは思ってるんです。

ぷうたん  うちは女の子。自分の好きなコスメとかを発信して、髪型もかわいくして、女の子のファン層を付けたいなと思ってます。

――MMは男の娘のアイドルで、メンズアイドルでもないし、二丁目の魁カミングアウトみたいなスタイルでもないですよね。今のアイドルシーンの中ではあまりサンプルがないし、新しいロールモデルを自分たちで作らなきゃいけませんが、不安はありませんか?

ぷうたん  全然ない。

ぎんしゃむ  ないんや? めっちゃあります。

ぷうたん  ある?

ぎんしゃむ  新しいものを作ることの最先端に立つのは、伸びるかが不安ですし。伸びへんかったら嫌ですし、怖い。自分たちと同じようなグループが出たときに、自分たちより上回ってしまったりしたら怖いじゃないですか。そういう不安はあります。

女の子じゃない劣等感はある

――青木さんは、このふたりをどこまで行かせたいイメージですか?

青木  テレビにたくさん出るようにしたいです。難しいんですよ、長くやるっていう感じでもない気がしてるんです。本人たち的にも10年、20年やるとかじゃないなって思ってて。だから僕は、令和の先駆けアイドルとしてフィーチャーしてもらって、パイオニアになれるような存在にするという意志を持ってやっています。世間の人たちにまだ浸透がないジャンルだし、僕も日常生活では出会ったことがないですけど、こういう子たちは世間にいると思うんですよね。そういう子たちの先駆けとして、より生きやすくしていきたい。

――「この先、いろんなことを言われるんじゃないか」という不安はないでしょうか?

ぷうたん  それはあります。女の子じゃない劣等感っていうのはあるし、そこを言われちゃうと図星ではあるから、「ああ……」となるけど、そういう悔しさをバネにして今、生きてるんで。

――そういう劣等感もずっと抱えてきたんですね。

ぷうたん  めっちゃあるし、それで泣いちゃいます。涙が出てきちゃう……。

――その劣等感って、何歳ぐらいから抱えていましたか?

ぷうたん  幼稚園のときからずっと「きついな」と思ってたけど、その時点で「これは絶対言っちゃダメなこと」っていうのは分かってて。でも、女の子が髪を縛ってるしぐさを見るだけで、「なんでうちは髪ないんだろう?」とか思ったりして。そういうのが積み重なって、高1で爆発しちゃって、「もういいや」って友達に話したら、友達が理解してくれて。

――友達に話せるようになるまで、かなりつらかったんじゃないですか?

ぷうたん  今思うと「苦しかったな」と思うけど、「男の子でいることはしょうがない」って自分で割り切ってたんです。苦しいは苦しいけど、やらなきゃいけないみたいな。

――いまだに泣いちゃうこともある?

ぷうたん  うん。その話すると泣いちゃう、すぐ……。

――いじめられることはなかったですか?

ぷうたん  いじめはないけど、「女っぽくない?」とか「オカマ」とか言われることがありました。

ぎんしゃむ  あるあるある。

ぷうたん  そんときのトラウマだと思うんですけど、オカマっていう言葉がまだダメ。親からずっと「自分の好きなように生きていいけど、からかわれたりしても自分が文句言うぐらいの覚悟だったら、そんな格好はするな」って言われてて。だから、そのときは悔しいなと思ってたけど無視で、今はもう「言いたかったら言っとけ」って感じですね。

――ぎんしゃむさんも、YouTubeを見ていなかった層にいろいろ言われるかもしれないし、不安はないですか?

ぎんしゃむ  言われるだろうなとは思ってますけど、今までも言われてきたし、あんまり気にはならないです。今までも「何か言ってるな」とは思ってましたけど、しょうがない。偏見を言われたこともあったので、別にいまさらどうこう言い返すこともないし。「そう思うんなら、そうなんじゃないんですか?」っていう感じです。

――ふたりの親御さんは、アイドル活動をすることに何と言っていますか?

ぎんしゃむ  言ってないです。YouTubeの活動も言わずに始めたし、東京に来るのも言わずに来たので。向こうが放任主義なんで。

ぷうたん  最初は親も心配で「大丈夫なの?」みたいな感じだったけど、うちはやる覚悟があるし、反対されても絶対うちはやるし。「うちの人生だし、応援してくれなかったら応援してくれなかったでいいけど、認められるように頑張るよ」みたいなこと言ったら今、応援してくれてます。

外見だけではなく内面に重きを置いていきたい

――今後、青木さんは、MMのどこを押し出していきたいですか?

青木  性別が男の子で、中身は女の子であるっていうところに惹かれてるので、そこをもちろん押し出していきたいんですけど、それよりも彼女たちの思考や内面が重要だと思ってるんです。外見だけじゃ一過性のもので終わっちゃうので、内面に重きを置いて、ドキュメント的なところも押し出していきたいなと思ってます。どういう思考で、どういうふうな人なのかって。

――楽曲はもうできているんですか?

青木  5曲作りました。5曲をこの短期間に頼める人はひとりしかいない。白キャンと同じ古屋葵さんです。楽しみにしてほしいです。

――作詞は誰が?

青木  作詞も白キャンでお世話になっているmimimyさんです。あの人も天才で。彼女たちのやりたいことや世界観を聞いて、それを伝えてるんですけど、そのまんま半日ぐらいで返ってきて。

ぷうたん  めっちゃ良かったです、歌詞。

――どんどん自分たちの楽曲もできて、今どんな気分ですか?

ぎんしゃむ  すごいぽんぽん進んでいくし、自分たちが逆に付いていけるかが不安で。

ぷうたん  さっきも「ダンス大丈夫かな」とか話してて。

ぎんしゃむ  そんな感じですけど、頑張って付いていけるようにします。

ぷうたん  もっとやっていきたいなっていう心構えなので。

――10月18日のお披露目ライヴは、どんなライヴにしたいでしょうか?

ぎんしゃむ  みんなにこれからも応援したいと思ってもらえるようなパフォーマンスを見せれたらなと思ってます。

ぷうたん  来てくれる人、みんなが楽しめて、自分たちの思いや熱が伝わって、「もう一回ライヴに行きたい」っていう中毒性をひとりでも多くの人に感じてもらえたら、自分たちがやる意味があるので。同じ熱量で楽しめたらいいなって思います。

――最終的な目標ってありますか?

ぎんしゃむ・ぷうたん  武道館。

ぷうたん  ずっと言ってる、なるべく早く。

ぎんしゃむ  20歳までに。

――ぎんしゃむさんは今年で19歳、ぷうたんさんは来年19歳ですよね。

青木  爆速ですね。

――短期決戦みたいなところもありますね。

青木  それは僕も同じ気持ちですね。僕ものろのろやるのは好きじゃないですから。彼女たちが生き急いでるから、僕も応えたいですね。

――そして目指すところは武道館。プレッシャーはないですか?

ぎんしゃむ  プレッシャーやけど……。

ぷうたん  モチベになる。

ぎんしゃむ  うん、モチベになるし。

ぷうたん  目標は高く。

青木  うん、高く。

音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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