ノート(105) 「特捜の現場を知り尽くした」という触れ込みの新聞社編集委員らについて
~整理編(15)
勾留70日目
よく似た構図
このころ差入れされた雑誌には、タイムリーな話題だということで、検察の捜査や公判の問題に関する記事がよく掲載されていた。例えば、次のようなものだった。
(1) 名古屋市道路清掃事業をめぐる官製談合事件について
(2) 「特捜の現場を知り尽くした」という触れ込みの新聞社編集委員らによる対談
(3) この年の3月に再審無罪となった足利事件について
(1)は、業者側から賄賂を得ていた名古屋市議の働きかけを受け、市側が業者側に予定価格を漏らし、業者間で談合が行われたという事案だ。
2003年、市議や業者のほか、漏えいの実行犯である担当課長や、これを指示したとされる担当局長らが名古屋地検特捜部に逮捕、起訴された。局長の立件は、会議の席で局長らに指示されたという担当課長の供述に基づくものだった。
逮捕された局長も、初めての身柄拘束で精神的に追い詰められ、家族の状況も気がかりとなり、年末までにいったん家族のもとに戻るべきだと考え、意に反する自白調書にサインした。
しかし、一転して公判になると、その会議そのものが存在しなかったと分かり、担当課長の偽証まで疑われる事態となった末に、無罪判決が下った。引き返す勇気を持たない検察側が控訴したが、高裁に棄却され、逮捕から5年を経た2008年にようやく無罪が確定した。
その間、局長は起訴休職のまま定年を迎えていたが、市長のはからいもあり、逮捕から7年9か月ぶりに非常勤顧問として職場復帰を果たしている。
この事件も、特捜部による捜査当時の報道は有罪決めつけ一色だったものの、無罪判決については比較にならないほど小さい記事にとどまっていた。
ところで、この事件では、後に無罪が確定する局長の取調べを担当した特捜部の検事が、局長に「特捜部が起訴して無罪になった例はない」と言い、自白調書へのサインを迫ったという。
実際には、特捜部が起訴した事件で無罪になった例はかなりある。事実認定や法律の適用に関し、ギリギリの勝負をしている事件も多いからだ。調べたらすぐに分かるような明らかにウソの話までしているということは、この検事も上司らからプレッシャーを受け、自白調書が欲しくて焦っていたのだろう。
物知り顔の物知らず
(2)は、小沢一郎代議士の強制起訴に至る流れや大阪地検特捜部における証拠改ざん・犯人隠避事件など、検察が抱える様々な問題について、各新聞社で司法担当を務めてきたベテラン編集委員が座談会形式で語り合うというものだった。
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