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アイスランドに完勝。待望の初勝利で新たな一歩を踏み出したなでしこジャパン(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
試合中、何度か激しいスコールに見舞われた(C)松原渓

【スペイン戦の教訓を活かした前半】

ポルトガルで行われているアルガルベカップに出場しているなでしこジャパンは、グループリーグ第2戦でアイスランド女子代表と対戦し、2-0で勝利した。

高倉麻子監督就任(2016年4月27日)後、国際Aマッチ5試合目にして、待望の初勝利だ。

日本は初戦から7人を入れ替えて臨んだ。

スターティングメンバーは、GK山下杏也加、DFラインは左から北川ひかる、熊谷紗希、中村楓、鮫島彩。宇津木瑠美と川村優理がダブルボランチを組み、2列目は左サイドが長谷川唯、右サイドが千葉園子。FWに横山久美と田中美南が並んだ。

時折、激しいスコールと強風に見舞われる中でのキックオフとなったこの試合は、序盤から日本がペースを握った。

攻撃時には3バックで最終ラインを形成し、両サイドから積極的に仕掛けるアイスランドに対し、2トップの横山と田中が前線で、アイスランドの最終ラインにじわじわとプレッシャーをかけ、パスコースを限定していく。2列目の長谷川と千葉、ダブルボランチの宇津木と川村もしっかりと連動して、サイドと中盤でボールを奪うポイントを明確にし、アイスランドの攻撃に対応した。

日本は、先日のスペイン戦で、相手のプレッシャーに押されて、攻撃でほとんど良い面を見せられなかったが、その時の教訓を活かし、この試合では、「パスをつなぎながら全員でゴールを目指す」狙いを、しっかりと表現した。

日本の攻守の起点となったのが、川村と宇津木のダブルボランチだ。一人が上がれば、もう一人が下がってフォローする。自然な呼吸でお互いをサポートし合いながら、積極的にボールを受け、味方に効果的なパスを供給し続けた。

スペイン戦では攻撃時に、選手同士の距離が近くなりすぎ、狭いスペースでの横パスに終始してしまったが、この試合ではボランチの2人を中心に選手同士が良い距離感でお互いをサポートし合い、中盤の詰まりがなくなった。

スペインに比べてアイスランドのプレッシャーが強くはなかったことも、日本が余裕を持ってゲームを運ぶことができた要因だ。アイスランドは日本の攻撃時には最終ラインを5バックで形成し、自陣に深く引いたため、中盤では日本が数的優位を得て、絶えず、宇津木か川村のどちらかがフリーでプレーすることができた。

【流れを引き寄せた先制ゴール】

そんな中、流れを引き寄せたのは、代表初先発となった長谷川だ。

前半11分、相手陣内中央あたりで、宇津木からパスを受けると、すかさず右足を振り抜いた。25m近くはあろうかという距離から放たれたループシュートは、緩やかな弧を描いて相手GKの頭上を越え、ゴールに吸い込まれた。

本人曰く、打った瞬間、相手キーパーの位置は見えていなかったそうだ。

「普段から遠目のシュートは狙って練習しています。あの位置で、あのタイミングで打ったら、キーパーは前に出ていることが多いので(GKの頭の)上を越すイメージで打ちました」(長谷川)

長谷川は1月に20歳になったばかりだが、なでしこジャパンで活躍する自分の姿は、何年も前からはっきりとイメージしていた。初めてA代表に選出された今年1月の国内合宿でも、「本当はもっと早く(なでしこジャパンに)入る予定でした」と、代表への強い思いをあらためて口にした。

大舞台でようやく得たチャンスを、最高の形で活かしてみせた。

さらに4分後、宇津木のミドルシュートを相手GKが弾き、そのこぼれ球を横山が追ってダイレクトで低いクロスを入れる。ゴール前で合わせたのは、またしても長谷川。インサイドで冷静に合わせて2点目。前半の早い時間帯に2点をリードした日本が、この試合の主導権を握った。

長谷川は2つのゴールの場面だけではなく、試合を通して攻守のアクセントにもなっていた。攻撃では左サイドから右サイドまでピッチのあらゆる場所に顔を出し、柔らかい身のこなしと繊細なボールタッチで、屈強なアイスランドの選手を翻弄。後方からのパスを受け、一発のターンで一気に2人をかわすなど、真骨頂とも言えるプレーを織り交ぜながら、ゲームメイクをした。守備での貢献度も高い選手であり、1対1でも粘り強く相手を追った。

また、長谷川とともに前線を活性化させたのが、横山だ。スペイン戦では途中出場で流れを変え、試合の終盤に、チーム唯一の得点を挙げたストライカーは、この試合でもボールを持つと積極的に前を向いた。身長差があるディフェンダーに体をぶつけられても、強烈なスライディングを食らっても怯(ひる)まず、独特の緩急とキレのあるドリブルで仕掛け続けた。

高倉監督はハーフタイム後、後半から宇津木に代えて、中里優をボランチに投入。後半開始からの15分間は、セカンドボールが拾えず、アイスランドの反撃に押され気味になるが、この時間帯をなんとかしのぐと、65分には千葉に代えて、右サイドに籾木結花を投入。

73分には田中に代えてトップに岩渕真奈を投入し、横山に代えて、中島依美を投入。中島が右サイドに入り、籾木がトップにポジションを替えた。日本は攻撃的なカードを次々に切り、3点目を狙いに行った。

だが、選手交代後も日本は、パスは繋げているのにシュートの本数は一向に増えない。ゴール前に密集したアイスランドの分厚い壁を崩すことができず、一方ではペナルティエリア内で横パスを奪われるなど、シュートへの消極的な姿勢には物足りなさが残った。 

後半のアディショナルタイムに長谷川のスルーパスを受けた鮫島が切り返してシュートを放つが、バーの上に浮いてしまい、ここで試合終了。

長谷川の2ゴールで勝利した日本は今大会、通算成績を1勝1敗とした。

試合前に「ぶつかり合うサッカー」と高倉監督が警戒していた通り、球際で容赦なく体をぶつけて来るアイスランドのタックルを受け、日本の選手がピッチにうずくまる場面が何度か見られた。そして、57分には、北川が相手との接触で負傷して交代を余儀なくされた。

【勝利から得た収穫と課題】

この試合は、なでしこジャパンにとって国際Aマッチ5試合目にして初勝利であると同時に、初の無失点勝利となった。

最終ラインでは、センターバックの熊谷がディフェンスリーダーとして的確なコーチングをしながら大きな声でチームを鼓舞。この試合で初めて熊谷とセンターバックを組み、国際Aマッチデビューとなった中村も「(熊谷選手は私に)やってほしいことをはっきり伝えてくれるので、すごくやりやすかった」と、その存在感の大きさを口にした。

スペイン戦と比べて、選手間の距離やポジショニングが改善されたことも、収穫としてあげられる。熊谷と宇津木を中心に味方へのコーチングの声が絶えず聞こえ、今大会で取り組んでいる味方同士の積極的なコミュニケーションの成果がしっかりと表現されていた。

課題としてあげられるのは、コンビネーションと個々の判断力の向上であり、相手ゴール前での決定力だ。早めに引いてしまうチームを相手にもっとゴールを量産することは、今後の課題である。

「自分たちの良さである、パスを全員でつなぎながらゴールを目指す形はできつつありますが、特にゴール前のアイデアやコンビネーションのところでは物足りなさを感じました」(高倉監督)

どこからでも点が取れるチームにしたいと、高倉監督は常々、口にしてきた。今後、選手間のコンビネーションを高めることはもちろんのこと、横山や長谷川のようなゴールへの貪欲さをチーム全体で共有できれば理想的である。

日本は次戦、3月6日(月)に、ノルウェー女子代表と対戦する。

女子サッカーでは言わずと知れた北欧の強豪国を相手に、強いプレッシャーの中でもなでしこジャパンの強みである「全員が連動してボールを動かしながら、相手ゴールに向かう」というコンセプトをしっかりと貫き、多くのゴールが生まれることに期待したい。

(2)【監督・選手コメント】に続く

風も強い
風も強い
スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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