北朝鮮がATACMSに酷似した新型短距離弾道ミサイルを公開
8月10日、北朝鮮は東部の咸興から2発の短距離弾道ミサイルを日本海に向けて発射しました。韓国軍の発表によると観測された飛行性能は水平距離400km、最大高度48km、最大速度マッハ6.1以上。その性能から北朝鮮版イスカンデルかと思われていましたが、翌8月11日に公開された北朝鮮の発表写真はイスカンデルとは全く異なる新型短距離弾道ミサイルでした。その形状はアメリカのATACMS短距離弾道ミサイルに酷似しています。
なお北朝鮮は公式声明でこのミサイルを「新型兵器」としか呼称せず、具体的な名称や性能などは一切説明していません。推定できるのは短距離弾道ミサイルであること、発射煙の色や量から固体燃料であること、アメリカのATACMSに全体的な形状が酷似していること、大きさは比較対象物が発射車両しか無いので大雑把になりますが、ATACMSよりも大きく直径も太い印象で、イスカンデルより全長は短く、操舵翼はATACMSと比べて小さめでこの部分の形状はむしろイスカンデルのものに似ていることなどです。また発射形式はATACMSと同じく箱型ランチャーからとなっています。
この「新型兵器」こと北朝鮮版ATACMSの発射車両は8月3日に公開された「大口径誘導多連装ロケット」と同型であるようです(ただし転輪の直径と数が異なり仕様変更がある)。この発射車両もアメリカ軍のMLRS(M270多連装ロケットシステム)によく似た形状で、M270からはロケット弾だけでなくATACMSも撃てるので、北朝鮮は兵器としての構成をそっくり真似たものと考えられます。M270と同じく1両の発射車両に北朝鮮版ATACMSは2発搭載されています。
「大口径誘導多連装ロケット」の公開映像はランチャー部分にモザイクが掛けられていましたが、これは今日の「新型兵器」との関連性があるのかもしれません。北朝鮮は7月31日と8月2日に「大口径誘導多連装ロケット」を発射したと主張していますが、韓国軍は短距離弾道ミサイルという分析を崩していません。これは観測された飛翔体の最高速度がマッハ6.9とロケット弾としては非常に速かったためですが、この時に実際に発射されたものがロケット弾ではなく新型兵器=北朝鮮版ATACMSだった可能性があります。真相についてははっきりしませんが、映像にモザイクを掛けて隠したかった何らかの理由はあるのでしょう。
北朝鮮は「新型兵器」こと北朝鮮版ATACMSをイスカンデルと同時並行して開発したことになります。実は韓国軍も短距離弾道ミサイルについてはイスカンデルによく似た「玄武2」シリーズとは別に、ATACMSによく似た「KTSSM(韓国型戦術地対地ミサイル)」を開発中ですが、KTSSMは玄武2よりもかなり小形で射程は短く棲み分けを狙ったものです。一方で北朝鮮版ATACMSは水平距離400kmを最大高度48kmと低い弾道のディプレスト軌道で達成し、イスカンデルより若干射程は短い程度で性能面や大きさであまり遜色がないように思えます。北朝鮮は韓国の短距離弾道ミサイル配備計画を単純に真似て対抗しているのではなく、異なる戦略を立てようとしているのかもしれません。
また同じような性能の兵器を2種類別々に同時開発することは労力も資金も余計に使ってしまいますが、それを北朝鮮はやってのけた上に試射も次々に成功させています。今年5月からの北朝鮮飛翔体発射は8月11日現在までに7回2発ずつ合計14発で、明確な失敗は1発だけと推定されています。全て新型の試験発射なのに成功率は非常に高く、北朝鮮のミサイル開発能力は侮れないものとなっています。