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誕生!異色のマルチスポーツ選手。  

谷口輝世子スポーツライター
レッドソックスのベッツ選手(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

米国の学校運動部はシーズン制であることから、複数のスポーツ種目を掛け持ちする選手が多い。

(しかし、ここ10年ほどは、より競技化志向が強まっていることから学校運動部と学校外の民間クラブチームを掛け持ちして、通年で同じスポーツ種目をする子どもが増えている。米国のスポーツ医学の専門家らは、同じ動きを繰り返すことによるオーバーユースを避け、アスリートとしてのよりよい身体の発達を促すために、少年少女期には複数のスポーツに親しむように勧めている)

アメリカには、プロ選手として複数種目で活躍していた選手たちが少なくない。

有名なところでは、メジャーリーガーでありながら、プロのアメリカンフットボール選手だったボー・ジャクソン。アメリカンフットボール選手としてスーパーボウルに、野球選手としてワールドシリーズに出場したディオン・サンダースデーブ・ウィンフィールドは、メジャーリーグ、NBA、NFLという3大プロスポーツからドラフト指名を受けた。

11月11日(日本時間12日)、若きメジャーリーガーが、12月に米国ネバダ州で開催される米プロボウラーズ協会のワールドシリーズ・オブ・ボウリングに出場することが発表された。米プロボウラーズ協会が招待したことで出場が決定した。Rolltech PBA World Championship ESPN Tickets Now On Sale! #BestTicketInBowling Red Sox’s Star Mookie Betts Gearing Up for Debut in GEICO PBA World Series of Bowling VII

レッドソックスのムーキー・ベッツ外野手だ。右投げ右打ちの23歳。メジャー昇格2年目だった今シーズンは、期待通りの成長ぶりを見せた。

筆者は今年3月にレッドソックスのスプリングトレーニング時に、選手たちが子ども時代にどのように野球をはじめ、他のスポーツにも親しんでいたかを聞いたことがあった。そのときにベッツは「高校では野球部とボウリング部に入っていた」と話していたのだが、国内外から優秀選手の集まるワールドシリーズ・オブ・ボウリングに出場することになった。メジャーリーグのスターに直撃取材。こども時代の話を聞かせてください(レッドソックス編)

野球とアメリカンフットボール、バスケットボール、サッカーを掛け持ちしていた話はよく聞く。時々、ラクロスなども聞くことがある。カナダ出身の選手ならば野球とアイスホッケーと答える人が多い。しかし、筆者が取材したなかでは野球部とボウリング部に所属した選手は今のところ、ベッツだけだ。

もともとベッツの母がボウリング好きだったことから、母親に連れられてボウリング場へ通うようになったのがきっかけだという。

レッドソックスは今シーズン、優勝争いから早々に脱落しており、ベッツはレギュラーシーズン終了と同時に故郷のテネシー州へと戻った。そして、その翌日からボウリング練習を開始。今はフットワークを特訓中だそうだ。

ベッツは「僕は長い間ボウリングをやってきて、これまでずっと日曜日にテレビで見てきた選手たちと対戦できるチャンスを得た。本当にすばらしい経験になるはず」と出場を心待ちにしている様子。

ベッツは最高レベルのプロボウラーと対戦するなかで、メジャーリーガーとして役に立つ何かをつかめるのではないかとも考えているという。

メジャーリーグには、マイナーリーガーが秋に試合をするアリゾナ教育リーグはあるが、各球団ごとにメジャーリーガーが一斉に練習をする秋季キャンプはない。

シーズンが終わると、中米出身の選手は故郷に戻って、秋冬の間も野球を続けることが多い。米国人やそれ以外の選手でも希望してこういった中米のリーグに参加するケースもある。給料の安いマイナーリーガーのなかにはアルバイトに精を出す選手もいる。

日本のプロ野球ならば、23歳になったばかりのベッツのような選手が秋季キャンプに参加しないで、別のスポーツの大会に出場することなど考えられないことだ。しかし、年齢や実績にかかわらずプロ選手なのだから、オフシーズンは選手自身がどのような方法でトレーニングをし、次のシーズンに備えるかを選択して、実行すればよいと思う。もちろん、コーチや先輩選手、チームメートからやり方についてアドバイスをもらうのも有効だろう。

スポーツ医学は少年少女選手に幼いうちは通年で同じ種目を続けるのではなく、異種目を経験する方がよいとし、メリットを説いている。それが、そのままプロ選手に当てはまるとは思わない。けれども、本格的な準備をしてボウリングの大会に出場したことは、メジャーリーガーとしての彼にどのような影響を与えているのか(与えなかったのか)を、来シーズンのベッツにぜひ聞いてみたい。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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