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ピケティ礼賛の愚かさ。まさかの資産課税? 日本でただ一人、格差はもっと開くべきだと訴える

山田順作家、ジャーナリスト

■来日したピケティ氏にメディアが殺到

分厚い経済書“ピケティ本”『21世紀の資本』が売れている。1冊6000円近くもする本をいったい誰が買っているのだろうか? 著者本人が来日した影響も大きいのだろうが、それにしてもこんなことは前代未聞だ。

そしてさらに驚いたのが、ピケティ氏がメディアに出まくったこと。新聞、雑誌、テレビと、いったい何本の取材を受けたのだろうか? しかも、どのメディアも彼の意見をありがたく取り上げていた。

「格差が開くことは問題だ」「資本に課税して格差を縮めるべきだ」−−−こうした主張に、各メディアのインタビュアーはみな同調している。いったいどうしてしまったのだろうか?

■今日の99%は明日の99%ではない

資本主義が機能すれば、格差が開くのは当然だ。1%と99%になっても、貧困がなくなり、底辺でも人間らしい生活ができる限り、なにか問題があるのだろうか?

資本主義が発達する以前の中世社会のように、階級が固定され、誰もがその階級から抜け出せないとしたら、そこにある格差は問題である。

しかし、格差がいくら開こうと、誰もが才能と努力いかんでは上まで登れる、失敗すれば上から下まで落ちてしまう。そういう社会ならば、格差など問題ではない。

格差が開いても、今日の1%は明日の1%ではない。99%に転落するかもしれない。また、今日の99%は明日の99%ではない。成功して1%になっているかもしれない。

いま言われているのは「結果の平等」であって、「機会の平等」ではない。単に1%に富が集中しすぎている。それが気にいらないから、お金持ちを引きずり降ろし、そのお金を下々に配れという。つまり、嫉妬をベースにした「格差否定・平等論」にすぎない。

■問題は日本が格差のない同質社会であること

ピケティ氏は、グローバル企業のCEO、つまりスーパーマネージャーたちが巨額の報酬を得るのはおかしいと考えているようだ。ここ何年かで、報酬経営者の報酬だけが圧倒的に上がってしまい、そのことが格差が開く一因になっていると指摘する。

「日本はもっと公正で累進的な税制、社会政策を取れる」「インフレ率を上昇させる唯一のやり方は、給料とくに公務員の給料を5%上げることでしょう」などとインタビューで答えている。

冗談ではない。日本企業には高額報酬スーパーマネージャーはいないし、日本社会は1%対99%になってもいない。 

むしろ日本の問題は、おそろしいほどの同質社会で、貧富の差がなさすぎることだ。その結果、99%のなかで、能力、努力を超えた細かな格差ができあがっている。たとえば、女性の給料は男性に比べたら著しく低いし、官民で同じ仕事した場合の給料格差もひどい。先日、産経新聞で、東京都の社員清掃部員が給料を50万円以上、民間の2倍以上をもらっているという報道があった。

■資産課税でできるのは「管理社会」

ピケティ氏のような考え方は、庶民の味方、国民の側に立つことをタテマエとするメディア、および官僚、政治家は大好きである。マスコミはそれで読者や視聴者の味方を装えるし、官僚や政治家は権力を強化できるからだ。ピケティ氏を持ち上げる評論家たちも、明らかに庶民受けを狙っている。

資産に累進課税をかけるとしたら、金持ちのダメージが大きいので庶民は喜ぶ。さらに、それを徴収して分配するのは官僚たちだから、官僚にとっては願ってもないことだ。 しかし、その結果、大きな政府が出来上がり、最終的には管理社会になる。私たちの自由はなくなる。

税金を取ってみんなに配る。これは一見すると“公正”、正しいことにように見えるが、じつは、国家にたかる層を多くし、国家を運営する人間たちの力を強めるだけである。

それでなくても、日本は消費税をはじめとして、相続税、所得税と、あらゆる税が上がる「重税国家」の道を歩んでいる。

■格差を縮めたら新しいものは生まれない

ここで、身近な例として、マンガ家の社会というものを考えてみたい。現在、マンガ家の社会は、格差がどんどん開き、2極化社会になっている。

つまり、現在のマンガ家には、ものすごく売れる作家と売れない作家がいて、売れる作家の年収は億を超える。一握りのトップは数十億にもなる。

ある出版界の人間が集計したところ、現在、マンガ家は約5300人いるが、このうちのたった70人が億以上の年収を得ていた。そして、それ以下のマンガ家は、ならすと年収は300万円だった。このなかには、1000万円以上の作家もいれば、100万円以下の作家もいる。

では、こうしたマンガ家の社会で、上位1%は稼ぎ過ぎだから、10億円稼いだら5億円は貧しいマンガ家たちに配れと言ったらどうなるだろうか?

賛成多数でこれが実現したら、おそらくマンガの質は落ちるだろう。上位マンガ家は意欲を失い、下位マンガ家も暮らしが保障されたことで創作意欲、アイデアを失うだろう。この世の中は、格差によっていろいろなものが生み出される。なければ、なにも生まれない。

また、底辺が広ければ広いほど頂上は高くなる。

■「分厚い中間層」など必要ない

というわけで、日本の格差は以前より開いているとはいえ、まだまだ小さすぎる。私は、おそらく日本でただ一人、「もっと格差が開くべきだ」と言っている。

それにこのグローバル経済では、資産課税を強化すれば、たちまち資本は流出する。金持ちはさっさと他国に移住してしまい、国内は平等にはなるが、1%がいない下流層だけの社会になってしまうだろう。

ものすごい金持ちもいなければ、貧乏な人もいない。分配の公平によって、みんながみんな同じ暮らしをする。そんな社会が面白いわけがない。「分厚い中間層をつくる」などとバカなことを言っている政党があるが、そんな社会は同質社会で未来につながる変化も起らない。

もちろん、ピケティ氏は鋭い指摘もしているが、そうではない部分を持ち上げて利用するメディアや評論家、政治家、官僚たちは、許せない。

この世の中は、真面目に働き、努力し、そして能力とアイデアで成功した人が報われる、そういう社会であるべきだ。そのために、格差は絶対に必要だ。この日本では、もっと格差は開くべきだ。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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