狙うは自力での3位。“初志貫徹”で上位をうかがうノジマステラ神奈川相模原の強さは本物か?
なでしこリーグは残り4節と、佳境を迎えた。
優勝争いは、首位の日テレ・ベレーザ(ベレーザ/勝ち点35)と2位のINAC神戸レオネッサ(INAC/勝ち点30)にほぼ絞られたと言って良いだろう。
10月20日(土)の直接対決は大一番だ。ベレーザは4連覇を決める可能性があり、一方、昨年同じような状況で0-2で敗れ、目の前でベレーザに優勝カップを掲げられたINACにとっては、意地でもそれを阻止したい一戦となる。
また、勝ち点「3」差に3チームがひしめく残留争いも熾烈な戦いが予想される。
一方、今年は3位から7位までの中位争いも例年に増して拮抗しており、「一つでも上の順位に」という各チームのモチベーションの高さが印象的だ。残りの4試合も熱戦が期待できる。今後、ベレーザとINACの2強に匹敵する強豪になっていくのはどのチームなのか、そんなこともイメージしながら見るとより楽しめるだろう。
現在、その中位争いをリードしているのが、3位のノジマステラ神奈川相模原(ノジマ/勝ち点23)だ。
【新戦力の活躍】
ノジマは昨年、残留のボーダーラインである8位でシーズンを終えた。
ハイプレスとショートパスを多用した攻撃的なスタイルで、ボール支配率はどのチームに対しても優位に立つことが多かったが、逆に危険な失い方からカウンターを食らう場面も多かった。
だが、今シーズンは昨年に比べて攻守両面で進化が見られる。
昨年は18試合で得点「17」、失点「32」だったが、今年は14試合を終えて得点「22」、失点「19」。数字上のデータも、その成長を裏付けている。第5節からは5連勝で2位のINACに勝ち点で並び、首位のベレーザとも「1」差の3位まで浮上した。
変化をもたらした要因の一つが、新戦力の活躍だろう。他チームから獲得したMF大野忍とGK久野吹雪、大卒1年目のMF松原有沙とMF田中萌(めばえ)の4人だ。
なでしこリーグ通算300試合出場を達成した大野の影響力は、特に相手陣内の攻防で発揮されている。相手の逆を取るしたたかな駆け引きや局面を打開する引き出しの多さが、ノジマのボール支配率の高さを、より効果的にフィニッシュへと結び付けている。
また、代表歴もある久野の加入は、失点減とともに守備の安定をもたらした。今年29歳を迎える久野は大野に次ぐ年長で、1部で戦い抜く厳しさを知る選手でもある。サッカーとの向き合い方という点でも若い選手たちが学ぶことは多いはずだ。
一方で、大卒ルーキーの2人も強烈な存在感を放っている。
早稲田大学から加入した松原の加入は、攻撃面に大きな変化をもたらした。キャプテンのDF吉見夏稀は、
「(松原)有沙はキックがうまいので、細かくつなぐ中で一発で裏を狙うことができるようになった」
と、崩しのバリエーションが増えたことを強調する。
松原はコンパクトな振りで自陣から直接相手ゴールを狙える驚愕のキック力があり、中距離のフィードも蹴り分けられる。ライナー性やふわりとしたボールなど、球種も多彩だ。
松原自身は、
「感覚派なので、あまり深く考えずに(パスを)出しています」
と話すが、その感覚でカバーできるエリアがとにかく広い。また、168cm、66kgと体格にも恵まれており、1部のスピードや強度にも慣れてきた中、そのスケール感は今後に大きな期待を抱かせる。
神奈川大学から加入した田中(萌)は、軽やかなドリブルが印象的な選手だ。ノジマは少ないタッチ数のパスで崩す攻撃が多いため、そのドリブルがアクセントになっている。決定力もあり、得点ランキングは現在4位(5点)。シュート数に対するゴールの決定率(35.7%)はリーグトップの数字だ。
右に大野、左に田中(萌)と両サイドにチャンスメイカーが加わったことで、前線の起点となるFW南野亜里沙も、
「ゴール前での崩しは、イメージを合わせて選択肢が2つ3つ作れるのでやりやすいです」
と、チームとしての引き出しが増えた実感を口にしていた。
田中(萌)と左サイドバックのDF平野優花の縦のコンビネーションの良さも左サイドが活性化している要因だが、田中(萌)はそれについて
「優花とは仕事場(働いている店舗)が一緒で、たくさん時間を共有できるので、サッカーでも同じようなことを考えているのかもしれません」
と、オフザピッチにも言及。
なでしこリーグは、基本的には働きながらサッカーをしている選手が多い。中には、昼間はフルタイムで働き、夜に練習をしている選手もいる。その中で、ノジマはサッカーに集中できる環境づくりに力を入れているチームの一つだ。
プロ契約の大野以外、全員が家電を取り扱う「ノジマ」の正社員として働いている。仕事が終わるのは遅くても13時。その後、15時から17時まで、相模原市にある専用練習場「ノジマフットボールパーク」でトレーニングを行う。選手寮も完備されており、選手同士で共有できる時間は他のチームに比べて多い。
【7年目のノジマスタイル】
上述した新加入選手による攻撃力アップは分かりやすい変化だが、確固たる土台がなければ、4人の能力も生かされなかっただろう。ノジマの攻守が安定した最大の要因は、同じスタイルを継続してきたことによる連係の向上だ。
神奈川県リーグ3部から、チャレンジリーグ(3部)、なでしこリーグ2部、そして現在の1部とカテゴリーを上げてくる中で、ノジマは独自の「つなぐ」スタイルを磨き上げてきた。昨年のリーグ後半戦は、他チームが対策を練ってきた中で1勝も挙げられず、苦しい時期も長かったが、その中でも戦い方を変えず、年末の皇后杯では準優勝に輝いた。そのスタイルを支えてきた南野やMF田中陽子、MF川島はるな、DF高木ひかり、DF國武愛美といった主力の、リーグでの存在感も増している。
チームを率いて7年目になる菅野将晃監督の口調には、確信があった。
「リーグ前半戦は大体、どのチームも自分たちの力を出すことに力点を置いてきます。その中で、『今年のノジマはボールを持てるぞ』となった時に、(後半戦は)相手が前線からプレッシャーをかけてくるようになる。それは去年と同じです。でも、去年、後半戦で勝てなかった時にうちが蹴って押し込むサッカーをやったら、今年のサッカーはなかった。そこで(同じスタイルを)やり通したことは、地力を上げるために必要だったと思います。今年も後半戦に入ってからは成績が良くないですけど、ここで相手のプレッシャーをかわせる力をつけないと、本当に強いチームにはなれないと思いますから」(菅野監督)
昨年同様、今シーズンも9月にリーグ後半戦が再開してからは1勝1分3敗と、思うように勝ち点を伸ばせていない。6月には視界に捉えていた首位のベレーザとの勝ち点差は「12」に開き、自力優勝の芽はなくなった。その中で、自力での3位フィニッシュを目指す。
去年と同じ壁をノジマがどう乗り切るのか、興味深い。
残り4試合はすべて、ノジマより下の順位(4位以下)のチームとの対戦となるため、3位は十分にあり得る話だ。だが、そう簡単でないことは、残留争いの渦中にいるセレッソ大阪堺レディース(セレッソ)に1−2で敗れた先週のゲームが示した通りだ。
「自分たちの流れをつかめたら徹底してできるけれど、うまくいかなくなるとなんとなくボケてしまう。試合中に修正する力や、ゲームコントロールという点ではまだまだです」
セレッソ戦の試合後に、菅野監督はチームの弱さをそう指摘した。
今シーズン、全試合でゴールマウスを守ってきた久野は、「プレーで引っ張れる子はたくさんいるけれど、まとめ役が少ない」と振り返った。率先してチームを引っ張るリーダーがいなければ、個々が意識改革をするしかない。久野の言葉からは、まず自分自身がその殻を破りたいという切実な思いが伝わってきた。
「このチームを絶対に強くしたい。後期になって失点も多くなっているので、自分も今が変わる時だと思うし、チームがうまくいかない時こそ、なんとかしたい気持ちがあります」(久野)
山場は、11月3日にホームで行われるリーグ最終戦だろう。相手は、3月の開幕戦で0-2で敗れた浦和レッズレディース(浦和)だ。現在、ノジマは浦和と同勝ち点で、得失点差でわずか「1」リードしているだけだ。
「ホーム最終戦は、お互いに3位がかかっている状況で戦えたらいいなと思っています」(菅野監督)
それは、「大勢の観客に試合を見に来てほしい」という願いにも聞こえたし、「あえてプレッシャーがかかる状況で3位を掴み取ることに意味がある」という含みのある言葉にも聞こえた。
先週、セレッソに敗れる前まで、ノジマはホームでの戦績を4勝2分(カップ戦も含めると6勝3分)とし、無敗を続けていた。記録は途絶えてしまったが、アディショナルタイムに同点に追いついた2015年の入れ替え戦(第1節)、2016年の2部優勝(第17節)など、ギオンスタジアムがノジマにとって歓喜の歴史を刻んできた聖地であることに変わりはない。
今シーズン、残るホーム戦はあと2回。今週は10月13日(土)に、そのギオンスタジアムで日体大FIELDS横浜(10位)と対戦する。