性的少数者を批判する声がSNSで急増 ノルウェー調査
6月のプライド月間はノルウェーで性の多様性が祝われている。今年のプライドはノルウェーの人にとって、悲しく、重要な意味を持つ。
昨年、性的少数者を狙ったバー乱射で2人が死亡、23人が負傷した。事件が起きた6月25日は「25/6」と呼ばれている。
プライド月間中に性的少数者を狙った事件は、社会に大きな傷を残した。今年のプライド行進に「参加するのが怖い」という声もあり、警備にも不備があった現地警察への不信感も問題になっている。
SNSで攻撃する声が増えている「印象」は本当か、建設的な議論のために初の調査
テロ以降、性の多様性を巡るSNS投稿やメディア記事は増加し、同時に性的少数者に対するヘイトスピーチがネットで「増えている印象がある」という個人の声は増えていた。
ノルウェー・アムネスティ・インターナショナルと現地の「性の多様性とセクシュアリティを祝う団体FRI」は、その感覚が事実かを確かめるために、第三者機関に調査を開始し、結果が報告された。ノルウェーではクィア界隈がSNSでどのように発言されているかが調査されたのは今回が初めてだ。
- 2018-2022年のツイッターとフェイスブックを調査
- 2018年と比較して2022年はクィアに関する投稿がツイッターで7倍増加
- 2018年から2022年にかけてトランスジェンダーに対するツイート数は6457件から4万4620件と16倍となっている
- ツイッター投稿の47%はトランスジェンダーに対して批判的な投稿、40%はサポートする内容を占める
- トランスをサポートする声は2018年はツイッター上で55%に対し、2022年は35%と減少
- トランスを批判する声はツイッター上では2018年は20%を占めていたのに対し、2022年は投稿の半数以上が批判的。過去5年間で中立的な意見は減少
- 全国向けにニュースを報じるメディアがプライドに関する投稿をすると、エンゲージメント率は他のテーマと比較して166%上がる
- クィアに関する投稿をするメディアの四分の三はキリスト教関連の新聞社
- プライドに対する批判的なツイッター投稿は2018年に16%だったが、2022年に27%
レポート全体からいえることは、性的少数者に対する言論はここ数年で過激で批判的になり、急増しているという、当事者が感じていた「印象」が証明されるものだった。
「悲しい内容」「暗い気持ちになるデータが出てきた」と、現地の報告会ではため息も聞こえた。
メディアも、プライドや性的少数者をテーマとすれば一時的にクリック数は上げることができる。だが、コメント欄がヘイトスピーチで生まれやすいこと、コメント欄がすぐに閉鎖されやすい現状も踏まえて、必要な投稿なのか、煽るタイトルになっていないかなどの注意がより必要とされる。
クィアに批判的な投稿をして注目を集めることに利用しているのは極右政党「進歩党」の特定の政治家、キリスト教民主党、キリスト教系新聞「Vart Land」であることは、ノルウェーで暮らす人々にとっては驚きではない。
これに対してはっきりと声をあげたのは、中道左派「労働党」のカムジーという愛称で呼ばれる国会議員だった。
性の多様性に批判的な人は、単に学びが必要なのか、それとも構造的に利益を享受している側なのか
「トランスではない人は、トランス当事者ではないからと議論に参加することにためらいがあるかもしれない。けれどそうであってはいけない。あなたの問題は私の問題。市民が政治により積極的に参加していく必要がある」
「私はいつもクィアに批判的な人は『バカ』か、『意地悪』なのか、どちらかを見極めようとしている。バカなら、教師や医療関係者などと話し学ぶ必要がある。問題は意地悪なほう。クィアを否定することで、構造的になんらかの利益を享受している人たちだ」
ノルウェーでアンチ・プライド組織の実態把握、警察学校にクィア背景がある人材が警察学校に入学申請をしているかどうかの実態把握など、今後できることが話し合われた。
ノルウェーでは右派も左派もジェンダー平等政策は同意している
9月に統一地方選挙を控えるノルウェーでは、各政党のクィア政策も焦点にあがる。だが、この国ではそもそも極右やキリスト教民主党という政党を除くと、中道右派と中道右派ではクィア政策は最も違いがない分野だ。
つまり、キリスト教民主党などの意見はたまに耳を貸す必要もあるが、右派左派も主要政党間ではクィアやジェンダー平等においては意見が幅広く一致していて、違いを見つけることのほうが難しい。
次の選挙で勝つのがどちらであれ、「差別は許さない」という姿勢やプライド支持、性的少数者の人権を守るという意思は同じだ。
首都オスロで市議会の政治的権力を最も握ることになるリーダー候補の2人の議論でも、同意点が多すぎて、司会者が「もう一緒にオスロを率いればいいのでは」と突っ込んだくらいだ。つまり互いの政策を褒めあい、同意点が多すぎるので、議論らしくもない。もはや穏やかなトークショー。
この現象は地方レベルだけではなく国レベルでも同じで、右派左派の政策が最も同じ分野というのはジェンダー平等なのだ。筆者がノルウェーの素晴らしい特徴だと感じるひとつがまさにここでもある。
保守党が性の多様性に関して寛容であることは現地では熟知されているため、むしろ保守党が連立することの多い小政党「キリスト教民主党」と協働しながらも、特定の宗教コミュニティはなんとかできないものかと会場からは声があがった。
数日後にはプライド行進が開催される。多くの人の参加が望まれているが、昨年のテロと過激化するSNS環境が原因で「参加が怖い」という声も目立つ。今、ノルウェーのプライド、特に首都オスロのプライドは苦境に直面している。
調査結果を聞いていて感じたのは、「サポートするが当事者ではないから」と沈黙するのではなく、過激な言論が急増し、怖がる人が増えているからこそ、サポートするならそうであると声を可視化させる重要性だった。