今年の年金の財政検証は、どうなるか。確定した経済前提から結果を占う
今年は、年金の財政検証が行われる年である。年金の財政検証は、5年に1度行われ、前回は2019年に行われ、その結果が公表された。その時の検証結果は、拙稿「【超速報】年金の財政検証、結果はどうなった」(Yahoo!ニュース エキスパート)で詳述している。
年金の財政検証で、何を確認しようとしているのか。大まかな言い方をすれば、公的年金はいわゆる「100年安心」といえる結果になっているかを確認することである。公的年金の財政(年金保険料収入と年金給付の収支)が、概ね100年後でも年金積立金を必要以上に取り崩さないように維持できるかを確かめることである。「100年安心」の意図についての解説は、拙稿「年金の検証、またも安倍内閣の鬼門になるか」を参照されたい。ただし、政府は、「100年安心」という表現は使わない。
年金の財政検証の結果は、人口と経済の将来動向によって大きく左右される。少子化がさらに進めば、将来の労働力人口が減って、現役世代が払う年金保険料収入が減るかもしれない。経済成長率が低く、賃金上昇率が伸び悩むと、現役世代が払う年金保険料収入が減るかもしれない。また、その逆かもしれない。だから、将来の年金にとって、人口や経済の動向はとても重要である。
今回の財政検証に向けて、人口については、国立社会保障・人口問題研究所が2023年4月に出した「日本の将来推計人口(令和5年推計)」が用いられる予定である。
では、経済成長率や賃金上昇率や物価上昇率といった経済の前提をどうするか。今回の年金の財政検証でどのような経済前提を置くかについて、社会保障審議会年金部会の下に、年金財政における経済前提に関する専門委員会が置かれ、審議を続けていた。
そして、4月12日に、同専門委員会は、最終報告書「令和6年財政検証の経済前提について」を取りまとめた。
では、どのような経済前提を置くことを提案したのか。経済成長率に関連するものとして、重要なものの1つが、同最終報告書の参考資料に掲載されている本稿冒頭の図である。
経済成長率は、経済理論に基づき、労働(就業者)と資本(機械類)と技術進歩によって決まるモデルを、年金の財政検証で採用している。労働は、前掲の「日本の将来推計人口」等によって、将来の就業者数が決まってくる。資本は、別途仮定される総投資率などによって、将来の資本投入量が決まってくる。
将来の経済成長率を決定づける残された要素は、技術進歩に関する仮定である。将来どのように技術が進歩するかを予想するのは難しい。経済学では、それを全要素生産性(total factor productivity: TFP)の上昇率という形で、今後の技術進歩の進み方を捉える。TFP上昇率が高いと、技術進歩が速く進むという見立てである。
本稿冒頭の図は、まさに、今回の年金の財政検証で、将来の全要素生産性(TFP)上昇率をどのように仮定するかを示したものである。
本稿冒頭の図によると、(2034年度以降の)TFP上昇率について4つのケースを想定している。
- 成長実現ケース:1.4%
- 長期安定ケース:1.1%
- 現状投影ケース:0.5%
- 1人当たりゼロ成長ケース:0.2%
これが、今年の年金の財政検証で用いられることになる。
翻って、前回の2019年における年金の財政検証では、どうだったか。拙稿「【超速報】年金の財政検証、結果はどうなった」(Yahoo!ニュース エキスパート)にある通り、TFP上昇率は0.3%から1.3%までの6ケースであった。
前回は6ケースで、今回は4ケース。今回は、財政検証で示すケースの数が2つ減っている。これには、どんな意図があるのか。それには、
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