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さあ、秋の高校野球本番。秋季大会は「センバツの予選ではない」とはいいますが……

楊順行スポーツライター
(写真:アフロ)

 高校野球・秋の陣は、各道府県大会が大詰め。7日開幕の東京都大会を皮切りに、来春センバツ出場校選考の重要な資料となる秋季地区大会が始まる。

 この秋は各地で波乱が相次いだ。夏の甲子園で決勝を戦った慶応(神奈川)と仙台育英(宮城)が県大会で敗退し、4強の土浦日大(茨城)、8強の花巻東(岩手)、おかやま山陽(岡山)なども地区大会出場を逃している。甲子園で勝ち進めば勝ち進むほど、新チームの本格始動が後倒しになるのは、指導者にとって悩ましいところだ。たとえば慶応なら、甲子園の決勝を戦った8月23日から3週間弱の9月10日には、神奈川県大会の初戦を戦っているのだ。

 新チームによる秋季大会。各府県がそれぞれの形式で県大会を行い(県によっては県大会以前のブロック予選で敗者復活制、あるいはリーグ戦形式もある)、その上位が集まって各地区の優勝を争うのが地区大会だ。高野連が「秋季大会は、翌年センバツの予選ではない」と明言するように、建前としては結果がそのまま甲子園に直結するわけではない。2022年、前年秋の東海大会で準優勝した聖隷クリストファー(静岡)が選考されなかったことなどは、確かにその通りだろう。

 ただ、聖隷問題が物議をかもしたように、世間は秋季大会を事実上、センバツの予選ととらえる。聖隷の例はともかく、各地区の優勝チームはまず自動的に翌春のセンバツに出場するし、各チームの試合ぶりは、選考の重要資料となる。予選という言葉が適当でないとしたら、センバツに向けたオーディションとでもいえばいいか。

秋季地区大会は九州から始まった

 そもそも、第1回のセンバツが開催された1924年には、秋季地区大会はまだ、なかった。主催者が「強そう」と判断したチームを選ぶ、招待試合だったのだ。初めて秋季大会が行われたのは、ずいぶんくだって戦後の47年。この年夏の甲子園では、小倉中(福岡)が優勝し、深紅の優勝旗が初めて関門海峡を越えた。大会後の優勝パレードは、車が動けないほどの市民が殺到したという。この人気の高まりに、九州大会を創設してはどうか、という構想が持ち上がる。そして早くも10月には、鹿児島で第1回の九州大会が開催され、沖縄を除く7県から8校が集結した。このとき優勝したのが小倉中で、準優勝の大分中(現大分上野丘)とともに翌年のセンバツに出場している。

 刺激されたか、翌48年には九州に加えて北海道、関東、中部(静岡、愛知、岐阜、富山、新潟の5県。61年まで開催された)、近畿(この年だけ三重、福井も含む)、中国、四国で秋季地区大会が開かれるようになる。初めて開催された各大会の成績が、翌年のセンバツにどれだけ反映しているか調べてみると、なかなか興味深い(○は翌春センバツ出場校)。

・北海道 優勝=函館商 準優勝=小樽商

・関東 優勝=○日川(山梨) 準優勝=桐生工(群馬)

・中部 優勝=静岡一(現静岡) 準優勝=○岡崎(愛知) ※(以下同)翌春センバツにはこの大会未出場の県岐阜商が出場

・近畿 優勝=○大鉄(現阪南大高・大阪) 準優勝=滝川(兵庫) ベスト4=○海南(和歌山) 1回戦敗退=○平安(現龍谷大平安・京都) ※北野(大阪)、芦屋(兵庫)、兵庫、桐蔭(和歌山)

・中国 優勝=○関西(岡山) 準優勝=柳井(山口)

・四国 優勝=○徳島商 準優勝=○高松一(香川)

・九州 優勝=○小倉 準優勝=大分二(現大分工) ※大分一

 ううむ。当時のセンバツは出場校が16で、いまと単純比較はできないが、地区大会で優勝しても出場できない学校が2校ある。それどころか、地区大会未出場でも選考されることがザラにあった。当時はまだ招待試合色が濃かったのか、北海道と東北からは1校も出ていないのに、近畿からは7校出場とかなり優遇されているのがわかる。いまこんな選考がされたら大騒ぎだ。

 秋季地区大会はさらに、49年になると東北に創設され、また中部は東海と北信越に分かれて9地区に。その49年秋季の東北、北信越大会の結果と翌春センバツの相関を見ると、

・東北 優勝=福島商 準優勝=山形二(現山形南)

・北信越 優勝=長野北(現長野) 準優勝=松商学園(長野)

 なんと、優勝した両校とも、翌春の甲子園には出場できていない。当時、寒冷地とされる北海道や東北、北信越はレベル的に評価が低かったのか……まあつまりは、文字通り「センバツの予選」ではなかったのだ。秋季大会はやがて56年、関東から東京が独立して10地区になり、時代とともに地区による不公平感は是正されていく。

 来春のセンバツからは、一般選考の出場枠が北海道1、東北3(従来から+1)、関東(4)・東京(1)+1=6、北信越2、東海3(従来から+1)、近畿6、中国2、四国2(中・四国の+1は廃止)、九州4の合計29チームと、1枠増えた(その分、21世紀枠が1校減で2)。このところ強さが目立つ東北の1校増、また中・四国の1校減は妥当なところだろう。

 さてさて。「センバツの予選ではない」秋季地区大会、果たしてどんな結果になりますか。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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