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帝京大が早大撃破。スクラムで証明したチームの結束とは。

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
スクラムを組む構えで結束する帝京大FW(3日・駒沢=撮影:森田博志)

 押す。スクラムをぐいと押す。関東大学対抗戦グループの全勝対決。帝京大がスクラムで早大を圧倒し、チームの結束を証明した。29-22で接戦を制し、開幕5連勝、3季ぶりの優勝に向けて自信を深めた。

 「文化の日」の3日、晴天下の駒沢オリンピック陸上競技場だった。キックオフから早大陣に攻め込み、左タッチライン側の22メートルあたりのスクラムだった。帝京大ボール。どんと組めば、帝京大FWのウエイトが前にのった。組み勝った。

 試合後の記者会見。オンラインではなく、久しぶりの対面方式だった。主将の右プロップ、実直な細木康太郎が、その時の心境をゆったりした口調で振り返った。

 「最初のスクラムで必ず、プッシュしようという話はしていました。僕たちのスクラムは、ワセダ戦に向けて、何か特別に変えたことは何一つなくて、ことし1年間、積み上げてきたものを、正確に8人でやり切ることだけを意識していました」

 自信はあった。長野・菅平高原での夏のオープン戦。帝京大は24-40で敗れたけれど、スクラムでは圧倒した。加えて、早大のスクラムの映像を何度も見てきた。細木主将は「押せる」との確信を抱いていた。

 主将の自信はFW全員に伝播する。FW8人の総重量は早大より45キロ重い845キロ、平均では5キロ以上も重かった。鍛え込んだフィジカルでも負けるわけがない。シーズン中に本格的に加わったスクラムの名コーチ、相馬朋和氏の熱心な指導もあって、帝京大FWはさらに力をつけた。

 帝京大はスクラムで正々堂々とまっすぐ押した。フロントロー(FW第一列)は押すのではなく、相手の首を殺し、背筋を伸ばし、ただ後ろのウエイトを前に伝えるだけである。足を小刻みにかく。深紅のジャージの固まりが、アカクロジャージのそれを崩壊させた。コラプシング(故意に崩す行為)の反則を奪った。「どうだ」とばかり、帝京大フロントローの雄たけびが上がった。

 PKをタッチに蹴り出して、左ラインアウト。列の後方の1年生ロック、192センチの本橋拓馬に合わせ、フッカーの江良颯(はやて)が回り込んで突進する。ラック。さらにフランカー山添圭祐が、本橋が、立て続けに、ラックサイドをタテに突いた。地味ながらも、突破役の両サイドのFW陣の力強いサポートが光る。

 最後は再び、江良がボールをもらって、からだをスピンさせながらポスト右に転がりこんだ。迫力満点の怒涛の攻めだった。

 江良はまだ2年生。ただプレーには早くも風格が漂う。試合後、言った。

「2年生ですけど、そんなの関係なく、FWに声をかけ続けました。試合に出させてもらっている以上、絶対に勝たなければいけない。チームメイトに声をかけ続け、80分間、走り続けました」

 帝京大は前半23分には、敵陣ゴール前の早大ボールのスクラムを押し崩して、SH李錦寿がこぼれ球を拾って、そのままトライした。この試合、マイボールのスクラムでは5本中4本を押し込んで、相手のコラプシングをもぎ取った。つまり、スクラムでは圧勝だった。細木主将の述懐。

 「最初のスクラムで、ヒットしてから、足を前に運べた。そこでFW8人がかなり自信を持って、押し続けることができました。次のスクラム、次のスクラムと、結局、すべてのスクラムで自信を持って組み込んでいけたかなと思います」

 もちろん、ラグビーはスクラムだけではない。FWだけでもない。帝京大はバックスもまた、堅実にプレーし続けた。からだを張った。FW、バックス一体となった攻守に互いの信頼感が透けて見えた。

 対抗戦では、帝京大は早大戦において、3季ぶりの勝利となった。岩出雅之監督は「久しぶりの勝利でうれしく思います」とマスク下の顔を少し緩めた。

 「ワセダの展開をどう止めるか。スクラムでプレッシャーをしっかりかけていこうと言っていました。全員がよく走った。15人で根気よく、攻めていくことができました」

 一方、敗れた早大はどうだったのだろう。これだけスクラムで圧倒されながら、1トライ(ゴール)差のスコアは健闘というべきか。課題が明確になった。

 ただ、スクラムで押されたことよりも、レフリーとのコミュニケーションや修正力、対策の準備、工夫がなかったことのほうが心配ではないか。スクラムで組んだ瞬間にすぐボールをかき出す、「ダイレクトフッキング」は決して”逃げ”ではない。高度なワザであり、勝つための戦法なのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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