キーワードは「老人」。日本の近未来を創造するユニバーサルキャンプin八丈島報告。
2016年9月10日、土曜日早朝7時。
羽田空港第二ターミナルの八丈島行きを待つ出発ロビーには、一般客とともにユニバーサルキャンプ(以下ユニキャン)の参加メンバーが多数集合していました。白杖を手にした人。出発前の興奮を手話で語り合う人。空港内車椅子を利用する人と愛用の電動車いすなどの輸送手配に奔走する人々。さらに片言の日本語も聞こえるまさにダイバーシティなコミュニケーションが始まるスタートゲートです。開催趣旨をガイドブックから見てみましょう。
<ダイバーシティ(diversity=多様性の享受)」の考え方に立ち、年齢や障がいの有無にかかわらず、参加者へ、そして社会全体へ向けて、「みんなが一緒に活き活き暮らせる社会」意識を喚起し普及させることを理念とします。豊かな自然の中で、キャンプという日常生活より少し不便な環境を味わいながら、誰もがそれぞれにできることとできないことがあることに気づき、お互いに対等な関係で協力しながらサポートをし合います。この経験を通じて、誰もが尊敬を持つ対等な関係としての自立・自律を目指すとともに、その輪を広げていきたいと考えています。>
行先の八丈島はジェット機であっという間の場所。都内であり、亜熱帯の離島です。先乗りして準備するスタッフを含めると120名を超えるキャンプは今年で12回目。12日、月曜日までの2泊3日のテント生活とコミュニケーションを楽しみながら、ユニバーサル社会への扉を開く研鑽をするプログラムです。わたくしは2014年から3回目の参加。毎回新たな気付きをもらえることと、目指すべき人間の豊かさを知る貴重な機会として自分の中でも恒例行事化しています。さて今年はどんな喜びがあるのでしょう。
八丈島、底土キャンプ場。
参加者が一堂に集まるグループワークサイトテントの下で、一班に10人~12人、10班で編成されたチーム。これが3日間の生活単位です。それぞれの班には障害、高齢者、LGBT、外国人そして一般者を配分。一般者にはわたくしのような個人参加と企業研修参加があり、企業研修プログラムはキャンプの事前事後そして期間中のカリキュラムにより組織人としての取り組みを開発する充実した内容になっています。リラックスした中にも緊張感のある自己紹介から始まります。数分の紹介で一気に一体となっての活動開始。知らないけれど、察して、信頼し合って動くこと、これは始まりの基本です。班の語り合いからもうスタートしているのです。
一つ目のプログラムは、ダイバーシティ・コミュニケーション<きっかけ編>。聴覚、視覚、身体そして知的、精神の障害のある人の心を知るものです。それぞれの当事者の方から直接聞いて、疑似体験し、サポートや連帯の手ほどきを得るものです。障がいのある人でもほかの障がいを体験し、理解する得難い機会です。ダイバーシティな自分づくりへのきっかけです。そして初日のメインイベントはキャンプならではの夕飯調理。くじ引きで与えられた材料をそれぞれの班で工夫して料理します。間伐材を燃やすかまどで苦戦し、できることをそれぞれがこなして調理するユニキャンメニュー。眼が見えないメンバーが驚くような包丁さばきを見せたり、思いもかけない工夫を繰り出す仲間のアイデアがあったり。料理は最高の創造ということがカラダで実感するひとときです。
9月11日午前9時。三根小学校。
二日目のプログラムは初日の<きっかけ編>を深堀する<どっぷり編>から開始。三根小学校に場所を移します。5つの部屋が設置され、部屋ごとの主人が実体験から深い話をしてくれます。光の部屋=視覚障害、音の部屋=聴覚障害、動きの部屋=身体障害、関わりの部屋=人間関係、八丈の部屋=島民の方。わたくしが特に感慨深かったのは音の部屋でした。主人がいきなりドロップスを配ります。口に含めという指示。生まれつきのろうの方は、舌を尖ったまま動かせないのだそうです。ドロップスを舌にのせると、平たく緩んでいくのです。続いてソースせんべいを配布。せんべいの中心を舌の先端で舐めて穴をあけます。数分間、一生懸命ペロペロすることで舌を使うトレーニングです。その後、ドーナツ状になったせんべいの一か所に切れ目を入れて口だけで食べきります。せんべいをたくさん舐めては食べることで舌を使えるようになり、口話トレーニングのスタートなのです。初めて知りました。八丈の部屋では埼玉県から移住し、東京都民で離島の住民になった主婦の方の心境。都知事選の感想など大変興味深いものでした。
この後は選択プログラム。温泉、手芸、サイクリング、郷土料理、スノーケリング、ヨガなど9つのコースから選択。仲間たちと共にコースを楽しむ、これも他にない体験です。わたくしは毎年シンプルに海水浴。ビーチレスキューの経験を活かして仲間たちと楽しみます。100kgを超える電動車椅子を使用している青年はサポートのラガーマンに支えられてのスイミング。幼いころに父親に放り込まれて以来の海。自分から入る初めての海を堪能していました。その場にいたメンバーが嬉しくなるひとときでした。
午後5時半。再び三根小学校。
二日目の締めくくりでありキャンプのクライマックス、ユニバーサル盆踊り=ユニボン。小学校の体育館に集合し、島の特産物、料理、お酒などをいただきながら、郷土芸能やフラダンスを鑑賞し、最後には全員参加のフェス状態になるダイバーシティなお祭りです。島民の方々との交流と全員の興奮がダイバーシティなエンタテイメントの大きな可能性までも感じさせてくれます。
9月12日。最終日。
「朝食でのくつろぎ感はこれまで感じたことがないほどです」というメンバーがいるほどに一体感が満ちた最終日。班対抗で行うユニバーサル・スポーツ=ユニスポ。競技種目はペタンク。パラリンピックで注目を集めたボッチャに似た、鉄球を使う点取りゲーム。カラダの特性に合わせて対戦のルールをその場で考えて行うユニバーサルなゲームになっています。その配慮と意外な展開で全員の興奮と一体感はピークに。最後の振り返りタイムは涙、涙の感動時間です。
涙にはここに書いていない多くの経験がそれぞれの参加者にあるからです。社会での経験との比較もあるでしょう。不慣れなキャンプでの手助けのありがたさ、気づかいや本音の通い合い、グループワークで発言し、書きだす自分の気持ち。実は二夜の夕食後に行われる飲みニケ―ションが重要な要素です。これはダイバ-シティ・バー=ダイ・バーと名付けた自由参加のバーが並びます。暗闇のバー、声を使わないバー、八丈のバー、混沌のバー。離島の星空の下で腹蔵なく語り合い、酌み交わす夜長。そして初日の調理、ユニボンに参加してくれる八丈島の福祉作業所「ちょんこめ作業所」の方々との交流。まさにダイバーシティ社会の疑似体験です。ギャップを抱える人を助ける以上に、ともに前を向く社会を作るためにユニキャンはますます盛り上がり、日本の近未来のために成長が楽しみなイベントです。
さらなる成長を期待して、ユニキャンへの提案。
12年間、関係者の尽力で作り上げてきたユニキャンは素晴らしいコンテンツです。わたくしは3回の参加で、もうひとつ加えてほしいコンテンツを提案します。現在は視覚、聴覚、身体などの障がい理解、難病への理解、人間関係力そして八丈島を知るというテーマが設定されています。冒頭に紹介した開催趣旨にある「みんなが一緒に活き活き暮らせる社会」に欠かせないものがもうひとつあります。それは「高齢者」です。
超高齢化社会は日本の最重要課題。ユニキャン関係者、参加者にもかなりの高齢者および予備軍が参加しています。しかし高齢であることから目を背けてしまっているのです。わたくしも58歳。今こそ提案し、主人を務められればと思います。コーナーの名前は「老人の部屋」であり「老人バー」です。
老人という名称は現在、かなりネガティブに受け取られています。全国の老人クラブは加入者が激減しています。勧誘すると「私は老人なんかじゃない!」と切れられることもしばしばという状況。しかし老人とは本来はそういう意味を持っていません。老という字を辞書で見てみましょう。人が年を重ねる。としとるなどとともに年長者や年とって物事をよく知っている人という敬称なのです。武家の役職には家老や老中があり、中国の哲人老子は、年寄りではなく偉大な人物としてそう呼ばれました。高齢者がそのまま年齢で表しているものですが、老人は敬われ、自主自立した存在なのです。これからの日本ではできる限り社会に貢献し、自身の経験と先を見るチカラを活かすべきであり、なによりも人口的にもマジョリティなのです。社会を支えるべき老人。老人と呼ばれるには甘えは許されません。前を向き、できることをできる限りやって見せなければなりません。それができなくなった時に、老後が訪れてくるのでしょう。わたくしが老人と呼ばれる資格があるかはわかりませんが、人柱になる覚悟は持っています。時代を創造する「老人クラブ」をユニキャンから発信させていただければと願います。