「オフはずっと不安だった」上原浩治が工藤公康・松井秀喜 両氏からもらった自己管理の金言
プロ野球は「WBSCプレミア12」に出場している日本代表メンバーらをのぞき、多くの選手が「オフ」を迎える。シーズンの疲れを取るとともに、来季への戦いが本格化する大事な時期だ。練習をした選手とやらなかった選手の差が最も開くのもオフだと思っている。阪神の藤川球児新監督が「オフはよく遊んでください」と選手へ呼びかけたとの記事をネットで目にした。球児が指摘するようにオフは「契約期間外」で、球団や指導者陣が口出しすることはできない。しかし、毎年、しっかりとコンディションを整えてシーズンを迎えていた球児が言った「遊び」の意味を、若い選手ははき違えてはいけない。
私もオフの「遊び」を否定するつもりはない。オフの過ごし方は人それぞれで「正解」があるわけではないからだ。温泉に行くのも、夜の宴席を楽しむのも人それぞれ。同じ「遊ぶ」でも、ゴルフや家族旅行でリフレッシュするもの自由だろう。球児と同じで、「遊ぶ」ことが悪いとは思わない。
現役時代の私は、振り返ってみると少し臆病だった。だから、オフに遊ぶことを楽しむ余裕が持てなかった。
1年目に20勝をマークしたプロ野球人生のスタートだったが、2年目を迎えるにあたって、初めてのオフの心境は「先輩に追いつけ、追い越せ」だった。1年だけ結果を出しただけでは話にならない。3年、5年、10年・・・。何年も実績を積み上げることでチームからの信頼も得られると思っていたからだ。自分に何が足りないか、新人でこれまでに経験したことのない蓄積疲労をどう取り除くか。試行錯誤のオフを過ごした記憶がある。
現役時代のオフの予定は「6勤1休」。日曜を休養日にしていたので、土曜日の夜が楽しみだった。少し遅くまでお酒を飲んでゆっくり睡眠を取り、日曜の日中は体を休めた。休みの前日に限らず、温泉まで足を運ぶことはないが、自宅でたっぷりと時間をかけて入浴した。ゴルフに行っても、カートは使わずに歩いてコースを回った。
年齢を重ねると、今度は翌シーズンのコンディションが気になって、やはり休むことができなかった。シーズン終了後に10日くらい体を休めて、トレーニングを再開した。「シーズンが終わったら、すぐに休んで、そこから自主トレに入ればいい。年をとると、回復にも時間がかかるから、休みすぎはよくないかもしれない」。こんなアドバイスをくれたのは、工藤公康さんだった。
日本のプロ野球もメジャー時代もベンチ入りできる選手の数も、先発や中継ぎの枠も決まっている。競争に勝ち残れなければ、居場所を失う。だから、オフは焦りがあった。自分が休んでいると、ライバル選手が練習をしているんじゃないかという不安に駆られ、つい体を動かしたくなった。「練習自慢」をしたいのではなく、オフの過ごし方をどうマネジメントするかを自分で決めないといけないのもプロ野球選手の責任だ。
決してプロ野球選手に限ったことではない。ビジネスマンの人たちも仕事のメリハリ、家族との時間、自分の趣味・・・。人生の中でやりたいこと、できないことを取捨選択して生活をしているはずだ。
現役時代には、タニマチと呼ばれる人たちにチヤホヤされて、つぶれていく選手も数多く見てきた。タニマチの人たちが悪いわけではなく、節度を持って付き合うことができない選手に責任があると思っている。
「メシを食べるときまで気を遣うくらいなら、タニマチはいらない。自分のお金で食べたいものを、食べたいときに、食べたい人と食事に行けばいい」
このアドバイスは松井秀喜さんがくれた。幸か不幸か、私にはタニマチと呼べる人がいない(笑)。それでも、尊敬する先輩や気の合う同僚、後輩たちとの楽しい食事は、お金はかかってもストレスがない。
オフをどう過ごすか。アドバイスを送るとすれば、「プロ野球選手であることを忘れないこと」だろう。頭の片隅ではなく、常にど真ん中で、自分がプロ野球選手だという自覚を持っていればいいのではないだろうか。チーム内における自分の立場を理解し、オフに取り組む課題と向き合い、来シーズンの目標を実現できるためのトレーニングは怠らない。球児とこのことで話したことはないが、おそらくは、それ以外の時間に知見を広げるための「遊び」を説いたのだろう。日米で実績を積み上げた球児が、オフに野球を忘れて遊びに興じていたはずがないことは容易に想像できる。
「現役時代は華」。しかし、「現役時代はそれほど長くはない」。遊びたければ、引退してからいくらでも時間はある。野球で手にしたお金があれば、多少の贅沢をしても余裕を持てる。そんな未来と、オフの「遊び」を天秤にかけると、目指すべきベクトルが定まっていくように思う。