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日本代表メンバー会見要旨。資格取得前の選手、どうなる?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
会見では山田章仁、立川理道の落選についての質問も重なった。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 ラグビー日本代表のジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチが6月3日、薫田真広強化委員長とともに都内で会見。7~8月のパシフィック・ネーションズカップに向けて6月9日からおこなう宮崎合宿に際し、42人の日本代表メンバーを発表した。今年初めから活動してきた約60名のメンバーから絞り込んだ。

 記者会見は14時から開始予定も、ジョセフらが7分早く登壇したのを受け、協会関係者が予定より早くスタートさせた。最初は薫田強化委員長が用意されたペーパーに基づき関係各所に謝辞を述べ、ジョセフが「メンバー発表の前に、2019年に向けて我々がどんな強化をしてきたかを共有したいと思います」と口を開いた。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり。会見中の質疑は全てジョセフが対応)。

「主な業務はラグビーワールドカップ日本大会でチームを勝たせること。就任して3年、色々なことを学べました。色々な選手を起用しました。前回大会終了後に引退者も出ましたが、新たな選手を発掘し、次のステージへ勧めている。非常にいい立場になれた。

 そして、さまざまなフェーズを重ねてきましたが、まずはスーパーラグビー、合宿、ウルフパックでの試合を経て、次のフェーズへ進めます。

 プランニング上考えることは、ひとつ。ワールドカップが2019年9月に始まるということです。そこから逆算して2月から選手を鍛えていくわけですが、9月にピークを迎えるべく計画してきました。

 

 まずファンデーション1と名付けましたが、その前に3年間常に試合を通したサイクルでやってきたので、まずはしっかりと休ませる。再開後は身体作りをして、整えてから、自分たちのゲームの構築、リーダーシップの育成に着手しました。

 最も大きな着目点は、大きなプレッシャーがかかるワールドカップで臨機対応にできる選手を鍛えることでした。

 選手たちは順調に成長しています、グラウンド外でもすべきことを果たす。リーダー陣も我々コーチ陣に色んな質問を投げかけ、『何を、なぜおこなっているのか』を聞いてきてくれます。意思統一は取れていて、リーチ マイケルキャプテンが不在のなかでも、(他選手が)いいリーダーシップを張ってチームをけん引してくれました。

 ファンデーション2はパシフィック・ネーションズカップへの準備段階。何名かを外さなくてはならないのは苦渋の決断。いままで戦ってくれた選手たち全員が献身的に取り組んでくれていたから、誰かを外さなければならないのは苦しい作業です。

 42名のスコッドは、宮崎で3度の合宿をおこないます。第1回目の合宿ではリコネクト。チームとして繋がる。そして1から鍛えたいです。新たな戦法を公表することはできませんが、自己分析のうえで新たな戦法が必要ということなので、それを導入します。ワールドカップの対戦相手に向けたベストな対策も構築します。

 2、3回目の宮崎合宿はパシフィック・ネーションズカップに特化したもの。大会後は40名で網走合宿。そして8月末にワールドカップスコッド31名の選出に入ります。

 これからメンバーを発表させていただきます(メンバーの名を読み上げる。リストは後述)」

――モエアキオラの選出。山田章仁選手、立川理道選手の落選について。

「選ばれなかった選手全員に対しても言えることですが、まずは私の仕事は勝てるチームのメンバーを選ぶことと、そのなかでバランスを取ることです。バックスリーを見てみると、今回、特殊能力を持った選手が揃っています。今回のワールドカップで対戦するアイルランドなどはハイコンテストボールを蹴ってきて、空中戦でプレッシャーをかけてくると想定される。そんな空中戦に耐え、処理できる大きな選手が必要であるため、今回の選出になりました。

 モエアキオラはこれまでと異なるタイプの選手で、パワフル。自らコーチングをしたことはないが、以前サンウルブズで怪我をして、その後、チーフスでプレーしています。ずば抜けて素晴らしいパフォーマンスではないが、まずまずのパフォーマンスを見せています。チーフスの優秀なコーチ陣からのフィードバックでは『彼はまだまだ』。でも、ニュートラルな立場で彼を見て、高いポテンシャルを持っていると感じている。あとは彼の力量次第。

 立川はリーダーの一員で、私が初めて就任した時は堀江翔太とともにキャプテンを務めてくれました。選手からもコーチたちからもリスペクトされている選手を外すのは苦渋の決断でしたが、単純に他の選手の方がいいパフォーマンスをしているからと捉えています。センターについてですが、松島は今季センターでプレーしていませんが、ワールドカップで彼は(アウトサイド)センターを経験しています。松島のどこを評価しているかというと、(本職のフルバックとは)他のポジションでのほうが彼のポジションが活かされるという点です。センターでは他に、トゥポウ、中村亮土、ラファエレ ティモシーがカバーできます。梶村祐介はいい若手で気に入っています。これから経験を積めばさらにいい選手に育つと思っています。最後は山中亮平。サンウルブズで非常に素晴らしいプレーをしてくれていて、10、12、13もやれる。そういう選手はワールドカップで本当に必要になる。

 今回外れた選手も、メンバー入りへの機会を失ったわけではありません。再度また40名の(7月に)スコッドを選びますし、山田、立川はサンウルブズの試合があるので、そこで自分たちの力量を示すことでチーム入りへの機会が得られます」

――代表資格を取得できるかどうか、はっきりしていない選手が複数います。統括団体ワールドラグビーなどからの反応は。

「今回のスコッドに入っている代表資格未取得者についてですが、いま資格があるかどうかよりタイミングを見て選出しました。調査をしたところ、(資格取得の)見込みがあるということで現時点でのメンバー入りをしています。ワールドラグビーからの回答はじきに来ると思います。回答を待っていたら、日数も限られてきていますし、いまのうちにメンバーに入れて鍛えていくということです。ファンデーション2の合宿は重要なのでしっかり参加して欲しいという思いで、選んでいます」

 この件については、薫田強化委員長も会見後の囲み取材で返答。「すべては個別の案件としてワールドラグビーに確認を取っている。(いい回答を)もらえるように動いています」と話した。自ら資格取得に至らなかったと説明するベン・ガンターについて問われれば「いや…まだ可能性はあります」とした。

――38歳のトンプソン ルークについて。

「彼はサンウルブズで怪我人が出たところに招集されたなか、素晴らしいプレーを見せてくれた。正直、驚きました。彼の経験、不屈の精神を評価しています。彼にはまだ鍛えるべきところがあります。遅れて代表に入ったため、やらなくてはならないことがあります。ただ、ワールドカップで成功したチームに一貫しているのは、経験者が入っているということ。彼は周りからリスペクトされています。誇り高き、熱い情熱を持った選手だと思います。彼がいま見せているパフォーマンスをそのまま続けてくれれば、チームにとって貴重な選手になると確信しています。

 彼はあくまで競争下にいる、新たにチームに入った選手であることを伝えておきたいです。ワールドカップイングランド大会後、彼は自ら代表参加を辞退しました。しかしアイルランド代表戦(2017年6月)に復帰し、25本のタックルを決めました。彼は自信があり、強く、不屈の精神を背負った選手です。他選手にとっても模範的な選手です。彼は若くはないが、サンウルブズでいいプレーをした。彼の役割についていえば、彼ららしくプレーして欲しい、ということです。彼は周りをサポートでき、若手の面倒見もいい。特別なことを期待しているわけではなく、彼の持ち味をチームにもたらして欲しい。

 私はこれまでロックの選出に苦戦しました。選手層が薄いからです。2017年秋のオーストラリア代表戦、フランス代表戦では身長190センチ未満の姫野和樹をロックにしました。(ワールドカップでの)対戦相手は体格の大きくピークを迎えた選手ばかり。それに対しては、トンプソンのような選手が必要です」

――怪我をしているリーチ マイケルキャプテンの現状は。試合復帰の見込みは?

「3月にNTTコム(千葉)での合宿中から順調にリハビリをしていました。オーストラリア遠征(ウルフパックの試合)で起用しようと思いましたが、おそらくフライトが原因で悪化。リスクを伴いたくないため、試合は避けました。遠征後、(リーチの出身国である)ニュージーランドへセカンドオピニオンを受けに行かせました。恥骨の複雑な怪我をしているので、改めて診察してもらいました。彼はワールドカップでは間違いなくプレーする準備ができていて、それが第一優先。ただ貴重な選手です。リスクを伴わないように、110パーセント安心してプレーできるようになるまで、彼を守りたいと思っています」

――今後、他選手にも再選出のチャンスがあるというが、どこで評価を?

「これから怪我人が出ることも予想されます。今回は大所帯から42名に絞らなければならないことで、指揮官として今回こういう判断を下しましたが、サンウルブズはスーパーラグビーのシーズンが続いている。ケープタウンとアルゼンチンでビッグゲームを控えている。そのパフォーマンスはモニタリングしたいと思っています。あとは、これまで3年間見てきた選手なので、彼らが試合でどう活躍するかをしっかり検証したいです。

(隣席の薫田強化委員長が何やらささやいた後、ジョセフが再び話始める)

 '''スーパーラグビー後は、トップリーグのカップ戦がおこなわれます。機会を与えられた時にアピールするのが大事。どの選手たちも、いつ招集されてもラグビー的にフィットされている状態が求められます」

'''

――これからワールドカップのメンバーを選んでいくうえで、どこに着目するか。

「いままでのテストマッチ遠征では33名を抱えられましたが、今回は31名。複数ポジションをカバーできる選手が必要で、そういう選手を鍛えたい思いがあります。ウルフパックでも松島幸太朗はウイング、、フルバックをプレーして、ウィリアム・トゥポウはセンター、フルバックができます。ラーボニ・ウォーレンボスアヤコは(サンウルブズで)6、7、8(フォワード第3列)に加えてセンターもカバーしました。制限下で複数ポジションをカバーできる選手は貴重になる」

――フロントローは12名と多い。

「木津悠輔には感心しています。若く、(代表候補に)入ってきたばかりですが、戦えることを立証してくれた。激しく、機動力もある。動ける選手です。我々が求めるスキルも発揮でき、有望です。現段階ではワールドカップメンバーに残れるかわからないですが、期待はしています。

 一方で山下裕史は経験豊富です。昨年のニュージーランド代表戦でもいいスクラムを組んでいました。ワールドカップで戦うスコットランド代表、ロシア代表、アイルランド代表は我々のセットプレーを狙ってくる。フィールドで動けるだけではなく、セットプレーで通用する選手を育成したい。

 中島イシレリは昨年ナンバーエイトでプレー。プロップに転向できるかは不明でしたが、忍耐強く鍛えるなかで、ウルフパックでのパフォーマンスでは手応えを感じさせられました。ナンバーエイトではチーム入りが難しかったでしょうが、フロントローとしては大きく、強く、なかなか強いストロングキャリア(突進役)。スクラムも組めると立証しました。

 センターは他のバックスのポジションの選手がカバーできますが、フロントローはスペシャリストなので代えが利かない。多くの人数を選び、鍛え、育成したい」

――サンウルブズで経験を積んだ方がよさそうな若手はウルフパックでスーパーラグビーの2軍格などと試合をしていました。これはもともとイメージしていたプランだったのか。

「私の掲げていた計画は選手にゲームタイムを与えること。そんななか梶村祐介は、サンウルブズでマイケル リトル(怪我で離脱も開幕前は共同キャプテンとして期待された)と争って上回れたかと言われたら、そうではない。またサンウルブズが違うミッションを持って戦っていかなくてはならないなか、それを妨げたくない思いもあった。

 そのうえで、梶村をサンウルブズ、ウルフパックのどちらでやらせるか。もともと慣れていない13番(アウトサイドセンター)でプレーするため苦戦すると見られていて、(ウルフパックでも)相手がスーパーラグビーの選手(予備軍)というなか、いいプレーをしていたが改善が必要な点もあった。それを受けて彼は学んで伸びることができたので、ウルフパックが成長を妨げたとは思っていません。

 他選手については、スーパーラグビーを味わわせるべく(ウルフパックからサンウルブズへ)出した選手もいました。またサンウルブズへ派遣する選手を選ぶポリシーにあったのが、『いままで3年間ぶっ続けて試合に出続けた負荷の負荷を加味したい』というものがありました。

 スーパーラグビーではワールドカップで予想されるような強度の試合があるので、フロントローでは具智元、浅原拓真をスーパーラグビーへ送りました。ただ同じフロントローでも稲垣啓太は3年間ぶっ通しで試合をしてきたので、ケアしたかった。もともとレベルズでプレーするなど、スーパーラグビーでの経験も十分でしたから。

 1人ひとりケースバイケースで扱った結果でした」

メンバーは以下の通り。

プロップ

稲垣啓太(パナソニック/25 caps)

木津悠輔(トヨタ自動車/―)

具智元(ホンダ/7)

中島イシレリ(神戸製鋼/2)

三上正貴(東芝/35)

山下裕史(神戸製鋼/51)

山本幸輝(ヤマハ/6)

ヴァル アサエリ愛(パナソニック/5)

フッカー

北出卓也(サントリー/―)

坂手淳史(パナソニック/13)

堀江翔太(パナソニック/58)

堀越康介(サントリー/2)

ロック

アニセ サムエラ(キヤノン/12)

トンプソン ルーク(近鉄/64)

グラント・ハッティング(神戸製鋼/―)★

ヴィンピー・ファンデルヴァルト(NTTドコモレッドハリケーンズ/9 caps)

ヘル ウヴェ(ヤマハ/11)

ジェームス・ムーア(宗像サニックスブルース/―)★

フランカー

ツイ ヘンドリック(サントリー/43)

徳永祥尭(東芝ブレイブルーパス/10)

布巻峻介(パナソニック/7)

リーチマイケル(東芝/59)※主将

ピーター・ラピース・ラブスカフニ(クボタ/―)★

ナンバーエイト 【FL/NO8】

姫野 和樹(トヨタ自動車/9)

ラーボニ・ウォーレンボスアヤコ(宗像サニックス/―)★

アマナキ・レレイ・マフィ(NTTコム/22)

スクラムハーフ

茂野海人(トヨタ自動車/7)

田中史朗(キヤノン/69)

流大(サントリー/15)

スタンドオフ

田村優(キヤノン/54)

松田力也(パナソニック/16)

センター

梶村 祐介(サントリー/1)

ウィリアム・トゥポウ(コカ・コーラ/6)

中村亮土(サントリー/16)

ラファエレ ティモシー(神戸製鋼/14)

ウイング

福岡 堅樹(パナソニック/30)

アタアタ・モエアキオラ(神戸製鋼/3)

レメキ ロマノ ラヴァ(ホンダ/8)

フルバック

松島幸太朗(サントリー/30)

ヘンリー ジェイミー(トヨタ自動車/1)

野口竜司(パナソニック/13)

山中亮平(神戸製鋼/12)

★は代表資格取得前。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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