Evernoteが無料版を大幅に制限 「フリーミアム」失敗か
メモアプリの「Evernote」は、12月4日から無料プランで保存できるノートの数を大幅に制限することを発表しました。
これまでのような使い方は無料プランでは難しくなることから、無料ユーザーの間では有料プランを検討したり、他サービスへの移行を考えたりする動きが出ているようです。
フリーミアムの成功事例だったEvernote
Evernoteの発表によれば、無料プランで保存できるノートの数は10万から「50」に、フォルダに相当するノートブックの数は250から「1つ」になるとのことです。
この制限は一部のユーザーに向けた「テスト」として実施され、国内外で話題になっていましたが、正式に導入された形です。
筆者が使っている無料アカウントにこの制限はまだ適用されていないものの、Webサイトにはすでに反映されています。
2008年に始まったEvernoteは、2010年に日本語版が登場したことで国内に広まり、2013年には日本のアクティブユーザーが全世界の2割を占めていたとのこと。2022年時点の全ユーザー数は2億5000万人以上としています。
2016年には利用できる端末数を2台までとするなど、過去にも無料プランの機能を制限したことはあるものの、ここまで大幅に提供内容を変えるのは初めてという印象を受けます。
無料サービスの内容が変わること自体はよくある話ではありますが、Evernoteに特筆すべき点があるとすれば、かつて無料と有料を組み合わせた「フリーミアム」の成功事例とされていた時期があったことです。
こうしたサービスでは、新しいユーザーを獲得することで増えるコストが無視できるほど小さいことから、基本的な機能は無料で提供し、ごく一部(5%など)の人にお金を払ってもらうだけで事業が成り立つとされています。
しかも、その無料サービスは単なる試用版ではありません。Evernoteの場合、無料プランで保存できるノートの数はこれまで「10万」でしたが、これは有料プランと同じでした。1日に3つのノートを作っても100年近く使える計算になります。
アップロードできる容量は有料プランより小さいものの、「月間60MB」と月ごとの制限になっており、テキストを中心にときどき写真を加える程度であれば、無料のまま使い続けることができました。
また、ノートは自分で書くものだけではありません。サードパーティの製品やサービスとAPIで連携して外部からノートを保存できるという点では、「Web 2.0」を象徴する存在でもありました。
このように時代を先取りしていた面があった一方で、ノート数が増えていくとアプリの動作が不安定になるなど先行者としての優位性をうまく活かせなかった面もあるように思います。
フリーミアムというビジネスモデル自体は、広告付きの無料プランを含めると、インターネット上のサービスにおいて定番となっており、多くの成功事例があります。
しかし近年のEvernoteは赤字が続いていたと報じられています。2023年1月にイタリアの企業が買収し、2023年6月には本拠地を欧州に移転。米国を拠点とする従業員のほとんどを解雇したことを発表しています。
過去のデータはどうなる?
これまでEvernoteの無料ユーザーが作ってきたノートについては、今後も「閲覧・編集・エクスポート・共有・削除」ができると説明されています。
また、データ保護についての原則も定めており、データはユーザーのものであること、第三者に提供しないこと、いつでも取り出せることを掲げています。
ビジネス面で苦戦しているにもかかわらず、無料ユーザーが過去に蓄積してきたデータが保護されている点については、ひとまず安心といえるでしょう。
一方で、今後も永久にデータが保護されるかといえば、不安を感じる事例も出てきています。たとえばグーグルは、2年以上アクティブではないアカウントの削除を12月1日から開始しています。
こうした動きが今後も続くかは分からないものの、どのようなサービスを使うにしても、大事なデータは預けっぱなしにせず、自分で管理することが重要といえそうです。