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大型犬にかまれ乳児死亡 悲劇を生まないために飼い主が排除すべき3つの危険因子とは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:アフロイメージマート)

つい先日、飼い犬にかまれて、幼児が死亡するという痛ましい事件が起こりました。尊い命を奪われることになった仁ちゃんのお悔やみを申し上げます。

 20日午後5時35分ごろ、富山市上大久保の住宅敷地内で、生後11カ月の中村仁ちゃんが飼い犬2頭にかまれた。

 仁ちゃんは病院に搬送されたが、約2時間後に頭部骨折による出血性ショックで死亡した。富山県警富山南署が詳しい状況を調べている。

出典:飼い犬にかまれ乳児死亡 富山

2017年3月にも似たような事件が、八王子市で起こっています。

9日午後4時35分ごろ、東京都八王子市北野台5丁目の民家から、「女の子が犬にかまれた」と119番通報があった。救急隊が駆けつけたところ、生後10カ月の安田翠(みどり)ちゃんが頭から血を流しており、約2時間後に死亡した。現場は翠ちゃんの母親の実家で、飼い犬のゴールデンレトリバー(4歳オス、体重約37キロ)にかまれたという。

出典:10カ月の女児、飼い犬にかまれ死亡 東京・八王子

富山市と八王子市で起こった乳幼児が死亡した事件から、3つの危険因子を読み解いてみましょう。

1、大型犬

2、オス犬

3、放し飼い

以上が、危険因子です。

1、大型犬

優しい、賢いといわれている犬でも大型になると、乳幼児がいる場合は、注意が必要です。

富山の場合は、グレート・デンで、オスだと体重が90キロ近くなり、体高も100センチぐらいの超大型犬です。みかけは、怖そうに見えますが、「優しい巨人」と呼ばれて温和な性格の家庭犬として知られています。

八王子の場合は、ゴールデン・レトリバーで、オスだと体重は40キロ弱。体高は50センチぐらいの大型犬です。「従順で利口」の代名詞とされる人気犬です。

ゴールデン・レトリバーのような犬でも、乳幼児に牙をむくことがあります。体重が20キロ以上の犬は、子どもとの接触の仕方に、より注意が必要ですね(小型犬でも、もちろん注意してくださいね)。

2、オス犬

どちらの事件も、オス犬です(メス犬が絶対に安全というわけではないですが、オスに多いですね)。

やはり、オス犬の方が、テリトリーの意識が強いので、自分の縄張りにヨチヨチと侵入してくると、目障りなのでしょう。それで、乳幼児を襲うことになるのでしょう。メスに比べて、筋肉も発達しているので、殺傷能力はどうしても強くなりますね。オス犬と子どもの接触は、より注意しましょう。

3、放し飼い

どちらも犬が放し飼いの環境で起こっています。

家犬の場合は、室内で放し飼いというのは、決して珍しいケースではありません。でも、乳幼児がいる場合は、放し飼いはよくないですね。大型犬を繋ぐのが、難しい場合なら、赤ちゃんをしっかりした(犬が入れないような)サークルに入れておくのもひとつの手かもしれません。

子どもに危険因子の高い犬・闘犬

ゴールデン・レトリバーや「優しい巨人」と呼ばれているグレート・デンでもこのような事故が起こるのですから、以下の犬は、より凶暴なので注意してくださいね。

・土佐闘犬

闘犬用として作られた犬なので、闘争本能が強い。オスは、体重60~90キロ、体高70センチ前後にもなります。

・アメリカン・ピット・ブル・テリア

日本には、あまりいませんが、一般的には、ピットブルと呼ばれています。筋トレをしているかと思うような筋肉質です。必要運動量は膨大で、しっかり毎日2時間以上の運動を1~2回必要。オスは体重30キロ弱、体高50センチ前後になります。

・ブル・テリア

日本では『平成イヌ物語バウ』の主人公犬バウのモデルとして知られてます。ユニークな顔で人気になりました。上記の犬に比べて小型ですが、筆者は診察中に何度もかまれた経験があります。最初は闘犬として作られていたものだからです。オスは体重25キロ前後、体高50センチ前後になります。

危険な年齢 ハイハイを始めた乳幼児

富山も八王子の事件も1歳に満たない、ハイハイの時期の赤ちゃんです。体高にして40センチもない子が、立たないで這いまわっているのは、オス犬にとっては攻撃の対象になるのでしょうね。

ハイハイをしない時期だと、ベビーベッドなどで寝ていることが多いし、歩き始めるとぐーんと体高が高くなりますから。この時期、特に気をつけてくださいね。

飼い主ができること

・子ども(特に乳幼児)と犬だけにしない。

・避妊・去勢手術はする。凶暴になるのを防ぐことができる。メスの場合は、発情中に興奮しやすいので、それを予防できます。

・ストレスがたまらないように十分な散歩をする。

・犬の行動学を勉強する。

犬のことをよく勉強して、事故のないように暮らしましょう。

まとめ

ニュースで犬が子どもなどを襲う事故を目にする度に、心が痛みます。ご家族の方は、いくら悔やんでも悔やみきれないとお察しします。

しかし、犬を正しく飼えば、人を襲ったりしないです。犬の特性、特に大型犬の行動を科学的に理解して、一緒に暮らしていただきたい。2度とこのような悲劇が起こりませんように(どんな犬でも、このような危険があるので、注意してくださいね)。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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