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岸田内閣支持率急落 内閣改造で旧統一教会問題に「手仕舞い」の予定が、タイミングを見誤る結果に

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
内閣改造後の記者会見に臨む岸田文雄氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 毎日新聞と社会調査研究センターが20、21日に行った世論調査では、岸田内閣の支持率は36%と、前回(7月16、17日)の52%から16ポイント下落、不支持率は54%で前回(7月16、17日)の37%より17ポイント増加しました。支持率は岸田内閣成立後最低を記録しました。

 なぜこのタイミングで岸田内閣の支持率が急落したのでしょうか。また、支持率低下の具体的な内訳からみる構造と、旧統一教会の問題を「手仕舞い」させたかった岸田首相の内閣改造の時期判断について考えてみたいと思います。

内閣支持率の低下傾向は特に高齢層に顕著に

 今回の内閣支持率の低下ですが、高齢層に顕著に表れていることがひとつの特徴です。下の2つのグラフは、世論調査会社グリーン・シップが日次で行っている電話世論調査(携帯RDD)のうち、内閣支持率(支持・不支持)を「49歳以下」と「50歳以上」とで分けて表したグラフです。

「49歳以下」の内閣支持率日時推移(青:支持/橙:不支持)

(株)グリーン・シップが行っている日次電話世論調査データより、「49歳以下」の内閣支持率推移(3日移動平均)
(株)グリーン・シップが行っている日次電話世論調査データより、「49歳以下」の内閣支持率推移(3日移動平均)

 49歳以下の若い世代では不支持が支持を上回っている傾向が続いていました。参院選期間中は特に不支持率が上昇する一方で支持率は低調のままという状態が続きましたが、安倍元首相銃撃事件のあった8日から支持率が急上昇し、投開票日から2週間程度は支持が不支持を上回っている状態が続きました。その後は不支持率が再度伸び、支持率が低下しています。ただ、安倍元首相銃撃事件直後の最も支持率の高かった時期(47.1%)から現在(35.0%)までの落差は12.1ptと、大手メディアで報じられている全体の落差ほどではありません。

「50歳以上」の内閣支持率日時推移(青:支持/橙:不支持)

(株)グリーン・シップが行っている日次電話世論調査データより、「50歳以上」の内閣支持率推移(3日移動平均)
(株)グリーン・シップが行っている日次電話世論調査データより、「50歳以上」の内閣支持率推移(3日移動平均)

 では50歳以上はどうでしょうか。今年4月以降、支持が不支持を上回っている状態が参院選後まで続いていました。特に安倍晋三元首相銃撃事件の直後は支持率が急上昇し、59.3%と今年度最高値を記録しています。一方、その後の落差は極めて大きく、最も支持率の高かった時期(59.3%)から現在(40.2%)までの落差は19.1ptと、49歳以下と比べても7ptほど大きいのが特徴です。

 政治と宗教の問題は、後に述べるようにタブー視されてきた傾向がありますが、旧統一教会に限らず、様々な「政治と宗教」の問題を潜在的に認識してきたり、また旧統一教会の霊感商法などの問題を認識している世代は、年齢層が高めです。具体的には、旧統一教会らによる「霊感商法」が国会などでも取り上げられて問題視されていた1984〜1987年や、桜田淳子ら有名人が参加した合同結婚式がメディアでも取り上げられた1992年にすでにこの問題を認識できる年齢だった人たちが今回この問題を重く捉えている節があり、50歳以上の不支持率増加幅が大きいのは、その影響もあるでしょう。

 なお念のため補足をしておくと、この支持率急落の要因は今回述べる「旧統一教会の問題」だけではないのも事実です。コロナ第7波による新規感染者数は高止まり傾向が続いており、お盆の期間を挟んで都市部から地方部へと一気に広がりを見せています。行動制限などはかかっていないものの、これだけ感染者が増えている現状を鑑みれば不安要素が内閣不支持に直結することは(これまでの感染者数と不支持率の相関関係からみても)間違いなく、支持率低下のすべてを「旧統一教会の問題」として片付けるつもりはありません。

内閣改造でも支持率が改善しないのは異例

 本題に戻りますが、内閣改造を行ってもなお支持率に改善傾向がみられず、むしろ支持率が低下するのは極めて異例のことです。一般には内閣改造・党役員人事は人身刷新の効果があり、内閣支持率を押し上げる効果があります。具体的に言えば、閣内にいる不安材料を閣外に追い出すことでリスクヘッジを行うと同時に、人気政治家を抜擢にすることで内閣支持を取り付けることが効果のはずです。

 ただ、今回の人事では「今度、旧統一教会との関係を見直す」ことを約束させることが入閣の条件となったと松野博一官房長官は8月12日の記者会見で述べていますが、「入閣人材と旧統一教会との『これまで』の関係性」については特段入閣の条件になることもなく、また政府側からは具体的に触れられず、実質的に不問となったことは結果的に悪手だったといえます。

 さらに、これは当然のことなのですが、そもそも旧統一教会との関係がこれまで見えてこなかった以上、今後の「旧統一教会との関係」を見直すという約束は、具体性や検証可能性の点で疑問符がつくだけでなく、衆参国政選挙を終え「黄金の3年間」を手に入れた今、問題先送りの一環とも捉えられたとみられます。政治と宗教の問題はこれまでクローズアップされてこなかった分野だからこそ、問題解決のフェーズはまだ「実態解明」だったにもかかわらず、早々に「手仕舞い」としての内閣改造を仕掛けたことが裏目に出たとも言い換えられるでしょう。現に、内閣改造後にはほぼすべてのメディアが政務三役の(旧統一教会との)問題を報道するなど、この問題の規模や深刻さを見誤っていたと言われても致し方ない事態です。

 ここ数日は萩生田光一党政調会長がクローズアップされています。党の要職に起用された萩生田氏ですが、当初は経産相の続投を希望していたと言われていました。結果的にはマスメディアの調査などで先の参院選でも生稲晃子候補(当時)の政治活動に際して統一教会との接点を作ったことがわかっています。仮に本人の希望通り閣内にいたとしたら、国会開会後の追及は免れなかったであろうことを踏まえれば、少なからず内閣改造を臨時国会開会前に行う必要はあったことまでは正しい判断だったものとみられます。

旧統一教会の問題を知らなすぎて見誤る結果に

旧統一教会の建物
旧統一教会の建物写真:つのだよしお/アフロ

 岸田首相は内閣改造・党役員人事を行うことを表明した6日の記者会見で、「私個人は当該団体とは関係ない」「国民に疑念を持たれることがないよう、社会的に問題が指摘されるような団体との関係は十分に注意しなければならない」と述べています。実際に、これまで旧統一教会との関係が注目されてきた閣僚や国会議員のような深い関係は、今現在も岸田首相には見つかっていません。岸田首相は派閥でも宏池会(岸田派)の領袖であり、旧統一教会との関係が強いと言われる清和政策研究会(安倍派)でもないことから、政治家個人としての付き合いは(全くないかどうかはともかく)少なかったのでしょう。

 ただ、一方で旧統一教会の問題に関して規模や深刻さを見誤っていたのは、ひとえにこの問題への理解が浅かったと言われても致し方ないといえます。実際に選挙の現場では旧統一教会の信者が票として与える影響力は大きくなく、また選挙運動や政治活動における影響力もはっきり言って限定的です。一方、これまで一般有権者の多くには見えてなかった宗教と政治との接点というのは、まさにタブー視されてきた問題が堰を切って出てきたようなものであり、安倍晋三元首相の銃撃という極めてショッキングな事件を通じて、このタブーに関心をもった世間の動揺は当面は収まらないところでしょう。

 さらに付け加えると「タブー」と記したように、「政治と宗教」という問題の性質が、これまでの政治スキャンダルと異なる点にも留意が必要です。例えば安倍政権における森友・加計の問題や「桜を見る会」の問題といったスキャンダルは、(それぞれのスキャンダルの善悪はさておき)関与する人物、ステークホルダーは多くなく、あくまで一部の人物による内輪感漂う政治的問題と見做されていました。従って、ワイドショーなどで取り上げられる内容も「遠い世界」の話と捉えられる節があったといえます。

 一方、今回の旧統一教会の問題は、信者数が数万人から数十万人規模であり、またこれまで旧統一教会の問題が大きくフォーカスされていなかったことを踏まえれば、「実は身近にいるかもしれない」「他人事ともいえない」「友人知人が(団体と)関わっていた」などという不安が有権者に募り、より疑心暗鬼を生じる性質のスキャンダルとも言えます。こういった性質のスキャンダルは、より問題が深化する傾向にあることから、(メディア側の視点で言えば、ネタとしての)スキャンダルの消費にも時間がかかることが特徴でしょう。

 長くなりましたが、岸田総理総裁が、旧統一教会の問題についての実態解明を先に表明し、また旧統一教会との関係性を見直し各議員がクリアランスを出すよう指示をした後の内閣改造・党役員人事であれば、まだここまで支持率が落ちることはなかったかもしれません。ひとえに世間の旧統一教会の問題への関心度合いを過小評価した結果とも言えます。

本当の「手仕舞い」はどうなるか、臨時国会の展開は

 では、この旧統一教会の問題はどのような帰結を迎えるのでしょうか。

政治や宗教は憲法において政治結社の自由、信教の自由が保障されており、内心の絶対的自由も踏まえれば、法規制の行いにくい分野です。霊感商法などといった具体的な問題にはメスは入れやすいものの、宗教そのものを弾圧・否定するような動きは違法性も問われることから、(世間の感情とは裏腹に)旧統一教会そのものへの具体的な介入は難しいでしょう。

 また、政治家側のクリアランスをどう担保するかも課題です。選挙運動や政治活動はそもそも透明性が低いものであり、「今後関わらない」と言うことはともかく、「関わっていない」ことの証明はまさに悪魔の証明となります。さらに自民党の党構造からして、国会議員の選挙は地方議員の支えが不可欠であり、来春の統一地方選挙に出馬する首長候補予定者や議員候補予定者などにも問題は波及するでしょう。現在も大手メディアによる「実態調査アンケート」などが行われており、もうしばらくこの問題は世間の関心が高い状態が続くでしょう。

 臨時国会の召集を野党が既に求めており、時期はともかく秋には臨時国会が開かれることになります。経済対策など国の諸課題を議論する場でもありますが、当然この旧統一教会の問題も話し合われることになります。一方、ここまでの旧統一教会の一連の問題についても、やはり問題の焦点設定や調査などはマスコミ主導であって野党主導ではありません。ごく一部、この問題を以前から扱っていた野党議員や元議員を除けば、マスコミ報道をベースとした動きしかできておらず、野党としては具体的な「宗教と政治のあるべき姿」の提示まではできないでしょう。

 いずれにせよ、政治家側からこの問題に終止符を打てるだけの安心材料を出さない限り、「終わり」はないものと思われます。関係の浅い議員については関係を絶つことは難しくないと思われますが、関係の深い議員も含め、この問題の本質を理解している議員は、やはり問題の解明、検証、再発防止といった一連のプロセスを丁寧に行わない限り、厳しい声が続くものと考えざるを得ません。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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