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東京都知事選挙の結果を地図に可視化して見えた主要候補の支持層分布

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト

東京都知事選挙(以下、都知事選)が投開票を迎えてまもなく1週間。誰が勝ったかよりも、2位以下の候補に注目が集まり続けた都知事選挙でした。市区町村別の開票結果などから、各候補にどのような得票傾向があったのか、GIS(地理情報システム)を用いて地域別の得票を可視化、支持層の分布から傾向を捉えてみました。

小池百合子候補

ジャッグジャパン株式会社作成、2024年都知事選における小池候補の得票割合(基礎自治体別)、都選管公表データをもとに地理情報システム「QGIS」で作成
ジャッグジャパン株式会社作成、2024年都知事選における小池候補の得票割合(基礎自治体別)、都選管公表データをもとに地理情報システム「QGIS」で作成

小池候補は前回に続き今回の都知事選でも圧勝しました。小池候補の基礎自治体別の得票割合で等量分析すると、多摩地域や城東・城北地域、島嶼地域で得票割合が高かったのに対し、城南・城西地域、武蔵野・三鷹地域では相対的に得票割合が低かったことがわかります。

小池候補の都知事選全体での得票割合は、42.8%でした。この数字よりも上回った地域をみてみると、城東・城北地域や多摩地域に多くみられます。特に城北地域は元々小池候補の地盤であることや、城東地域は荒川・隅田川沿いの住民に対する防災施策の訴求が一定の効果があったともみられるほか、奥多摩町、日の出町、瑞穂町、島嶼地域では最も濃い色となっており、都の政策恩恵を受けているとされる地域では得票率が増える現象が確認できました。これらの現象自体は多くの首長選挙でみられる傾向で、現職有利といわれる一環として説明がつきます。

一方で城南・城西地域、武蔵野・三鷹地域では相対的に得票割合が低かった点にも注目です。これは後述するように対立した新人候補の票田が、石丸候補は城南・城西地域に、蓮舫候補は中央線沿線自治体に多かったことが挙げられるでしょう。言い換えれば、「現職対新人」という土俵をつくっていたからこそ、現職有利のベースで進んでいた選挙戦において、新人が善戦した部分では小池候補の得票が相対的に削られたということが、上記の図で可視化されたともいえます。

石丸伸二候補

ジャッグジャパン株式会社作成、2024年都知事選における石丸候補の得票割合(基礎自治体別)、都選管公表データをもとに地理情報システム「QGIS」で作成
ジャッグジャパン株式会社作成、2024年都知事選における石丸候補の得票割合(基礎自治体別)、都選管公表データをもとに地理情報システム「QGIS」で作成

石丸候補の支持層をみると、23区に多い傾向がみてとれます。23区外では三鷹市と調布市が強い傾向が出ていますが、典型的な東高西低となっており、都心部在住者の票を獲得できたことが明らかです。

ただ、必ずしも23区全体というわけではなく、城南地区では得票割合が高いのに対し、城北地区ではそこまで得票割合が高いとは言えません。また、武蔵野・三鷹・調布よりも西側の多摩地域ではそこまで票を伸ばしきれていない点が、小池候補と対照的になっており、都知事選における石丸現象の広がりが、「東京都全体にまで広がった」とまでは必ずしも言えないことを示唆しています。

当初から石丸候補が渋谷区や港区で善戦するのではないか、という情勢調査の数字なども出回りましたが、実際に渋谷区や港区を含む23区の多くの地域で2位を取れたことが、全体得票数を2位まで押し上げた要因ともいえます。このことから、東京都のなかでも情報の発信源となりがちな城南・城西地域を中心に得票割合が高めに出て、東高西低となったとみられます。

蓮舫候補

ジャッグジャパン株式会社作成、2024年都知事選における蓮舫候補の得票割合(基礎自治体別)、都選管公表データをもとに地理情報システム「QGIS」で作成
ジャッグジャパン株式会社作成、2024年都知事選における蓮舫候補の得票割合(基礎自治体別)、都選管公表データをもとに地理情報システム「QGIS」で作成

蓮舫候補の得票傾向を地図で可視化してみると、東京都の中央部に得票傾向の高い地域が浮き上がってきます。中央部に横に広がる一番濃い地域は杉並区、武蔵野市、三鷹市、小金井市、国分寺市、国立市と、中央線沿線自治体(高円寺〜国立間)と一致します(このほか、一番濃い地域のうち、中央線沿線自治体とは外れる地域としては、渋谷区、清瀬市、東久留米市、多摩市)。中央線沿線自治体は従来から民主系が強いとされ、民主系首長や国会議員が誕生してきた地域ですが、これら民主系基礎票の強い地域で蓮舫候補が票を伸ばしたことがわかります。

一方、得票割合の少ない地域をみてみると、いわゆる「都心3区」のうち千代田区・中央区で票が出ていないことも特筆すべきでしょう。都心部に居住する高学歴層・高所得者層の間で蓮舫候補が受け入れられなかっただけでなく、票田の一つとされる城東地域でも票がそこまで伸びていなかったことが、失速につながったとみられます。さらにいえば、蓮舫候補の支持層が多いとされる地元の世田谷区や目黒区においても、得票割合としては中央線沿線自治体ほど伸びなかったことも、陣営にとっては誤算だったかも知れません。

田母神俊雄候補

ジャッグジャパン株式会社作成、2024年都知事選における田母神候補の得票割合(基礎自治体別)、都選管公表データをもとに地理情報システム「QGIS」で作成
ジャッグジャパン株式会社作成、2024年都知事選における田母神候補の得票割合(基礎自治体別)、都選管公表データをもとに地理情報システム「QGIS」で作成

田母神候補も、東高西低の傾向がやや出ていますが、横田基地のある福生市などで比較的高めに支持を獲得できているなど局所性がみられる点は特徴的です。

田母神候補は保守層の票を一定獲得できたものの、城東地域などは相対的にそこまで票が出ておらず、全体的にも大きくは伸びませんでした。地域に根付いた活動ではなかったため組織票の獲得が難しかった点や、また桜井誠候補のように保守候補が複数いたことにより票が割れてしまった点などが、伸び悩みの理由の一つといえるでしょう。

ただ、凡例にある通り、地域別に得票率のばらつきがあまりないことから、都民全体の最保守層の獲得は成功している一方で、無党派層へのアプローチや地域的な戦略も採られなかった選挙とも言えます。

安野貴博候補

ジャッグジャパン株式会社作成、2024年都知事選における安野候補の得票割合(基礎自治体別)、都選管公表データをもとに地理情報システム「QGIS」で作成
ジャッグジャパン株式会社作成、2024年都知事選における安野候補の得票割合(基礎自治体別)、都選管公表データをもとに地理情報システム「QGIS」で作成

安野候補も、東高西低の傾向が強く出ています。特に文京区では田母神候補を抜いて4位だったほか、4位田母神候補と5位安野候補との差は、都全体(1.6pt差)と比べ千代田区(0.2pt差)、中央区(0.1pt差)、港区(0.9pt差)の都心3区では小さく、都心部の特に高所得層で強かったといえます。北区を除けば、投票率最上位がちょうど山手線の内側を描いているところも、また特徴的でしょう。

安野候補の政策や選挙戦略は、AIやテクノロジーを重視した内容で、その手法などはオープンソース界隈やテック系の人々に親和性が高かったとみられることが、これらの地域での得票に繋がっていると考えられます。さらにいえば、安野候補の得票割合を23区で順位付けすると、23区の平均所得の順位と最も相関が高いことがわかります(下図表)。

図表は筆者作成(所得データは総務省『令和3年度課税標準額段階別所得割額等に関する調』を参考にマイナビニュースが作成したもの、得票割合順位は東京都選挙管理委員会のデータより筆者が作成)
図表は筆者作成(所得データは総務省『令和3年度課税標準額段階別所得割額等に関する調』を参考にマイナビニュースが作成したもの、得票割合順位は東京都選挙管理委員会のデータより筆者が作成)

石丸候補がネットを活用した選挙戦で都心部を中心に23区全体+多摩東部にまで広く波及した点は注目すべきですが、安野候補もそこまでは至らなかったものの都心3区を中心に選挙活動の結果が萌芽しはじめていたのではないでしょうか。2020年の都知事選では小野泰輔候補が3週間で61万票を獲得したことが話題となりましたが、今回もマスメディアへの露出などが一定行われていれば、あるいは似たような結果があり得たのかもしれません。

記事中の地図画像は地理情報システム「QGIS」を用い、東京都選挙管理委員会の公表データを元に作成しました。得票割合は各候補の得票数を投票総数で割ったもので、等量分類し色づけしました。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

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