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都知事選挙、なぜ小池は勝ち、石丸は票を伸ばし、蓮舫は伸びなかったのか

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

東京都知事選挙が終わりました。蓋を開けてみれば、現職小池百合子候補が圧勝する、ある種の想定通りの結果だった一方で、当初はダークホースとされた石丸伸二候補が2位、東京都選出の参議院議員だった蓮舫候補が3位となる波乱の結果が待っていました。

この東京都知事選挙、なぜ小池候補は勝ち、石丸候補は想定よりも票を伸ばし、蓮舫候補は想定よりも伸びなかったのか、それぞれの陣営の戦略などを紐解きながら、振り返ってみたいと思います。

小池候補はなぜ勝ったのか

写真:つのだよしお/アフロ

過去の東京都知事選挙で現職が落選したことがないという事実も相まって、立候補表明の時点で小池百合子候補の3選が確実視されていたのは事実です。一方、学歴の問題や政権与党の支持率が極めて低いという点から、過去2回の選挙よりも不安材料が多かったのもまた事実でしょう。マスメディアの情勢報道は終始一貫1位をキープしているとしていましたが、一方でその表現は「リード」「先行」程度に留まり、少なくとも圧勝ムードではありませんでした。

勝因はいくつも考えられますが、まずは政党色を出さないステルス作戦が功を奏したことでしょう。確認団体制度の下、自民党や公明党、都民ファーストの会が実質的な支援をしましたが、その役割分担は明確で、都民ファーストの会が街頭活動など選対の表部分を担い、団体・組織対策などのバックアップを自民党東京都連が行い、公明党が創価学会支持者への対策を行いました。東京都知事は首長ですから、政党色を出さない選挙が本来あるべき姿でもあり、その点は後述する蓮舫候補の用意した「政党対決」の土俵に乗らない戦いに終始できたことが、勝因に大きく影響しているでしょう。

くわえて、「018サポート」のような子育て世代に対する政策実績を訴えていたことは、女性票の獲得に貢献したといえます。NHKの出口調査でも、男女別でみた場合、男性票は小池候補を支持したのが30%台半ばに対し、女性票は小池候補を支持したのが40%台後半だったことがわかっており、選挙戦中盤から終盤にかけて意志決定するとされる女性票の支持もプラスになったことは間違いないでしょう。

いわゆるアンチ小池対策もしっかり機能しました。衆議院東京15区補欠選挙におけるつばさの党の妨害行為は逮捕者が出るほどの酷い内容でしたが、同事案の再逮捕が続いたことで黒川党首自らが都知事選で妨害行為を起こすことが防がれましたし、同党の選挙カーなどによる妨害行為もほとんど起きませんでした。小池候補の街頭演説では主に落選運動者による抗議やプラカードの掲示なども行われ、個別の街頭演説会場では騒々しい形になったことは否めません。しかし、もとより街頭演説を聴いている人たちの投票行動にどこまで影響を及ぼしたのか、という点においては落選運動者の活動による悪影響は小さかったとみられます。むしろ、公明党支持者などが小池候補の街頭演説に集まって聴いていたことなどを踏まえれば、これら落選運動はむしろ小池候補支持者の結晶化を惹起した可能性すらあります。

このように、組織や団体、既存政党の支持をステルス的に行って地上戦を盤石なものに固めつつ、街頭演説などの空中戦においてもリスクヘッジをきちんと取れた小池候補が選挙戦全体においても大きなミスなく進められたことで、現職としての優位を活かしたことが、結果として1位を取れた理由と言えます。

石丸候補は票をなぜ伸ばしたのか

写真:アフロ

石丸伸二候補は、広島県安芸高田市長としての公職歴があったことから注目はされつつも、当初は「小池対蓮舫」の対立軸をメディアが描きかけたこともあって、主軸、泡沫どちらともつかない、ダークホース的存在でした。

選挙戦序盤から相当数のボランティアが集まったことなどから、当初の想定より伸ばすのでは、との見方もあった一方で、一部で出回った情勢調査では小池候補・蓮舫候補と大きく離されているとの情報もあり、この時点では未知数だったといえます。選挙戦中盤以降の電話調査や出口調査などで若い世代の投票傾向が見えてきたあたりから、石丸候補の善戦が想定され始めていましたが、選挙戦終盤、期日前投票での出口調査で2位との情報が出回ったことで相当な風を各陣営察知したのではないでしょうか。最終的な得票数も2位だったことから石丸候補の持っていたポテンシャルが実証された結果となりました。

当初の想定より躍進した理由ですが、まずは政党のバックアップを排除したことでしょう。この東京都知事選挙で候補者を擁立できなかった日本維新の会は、石丸候補を推薦候補とすべく接触していましたが、結果的には石丸候補がこれを断る形で実を結びませんでした。石丸候補からすれば、政党色を出さない純粋無所属候補であることをアピールしたかったものと考えられます。このことが、蓮舫候補の描いた「反小池・非自民」の票を獲得する二項対立の構図や、「小池・蓮舫・石丸の政党間3つ巴戦争」に持ち込まず、「小池・蓮舫の政党間選挙から、小池・石丸の新旧対決」という土俵に世間の関心を引き込むことに成功した背景とも言えるでしょう。

また、オールドメディアではなくニューメディアを意識した戦法が水面下で票数を伸ばした要因の一つと考えられます。昨日の開票特番でも石丸候補は敗戦の理由についてインタビューをした記者に対し、「NHKをはじめマスメディアが当初まったく扱わなかった」からと述べました。このことは特筆すべき内容で、オールドメディアである新聞やテレビとインターネット世論との乖離を如実に表したものといえます。実際にNHKの出口調査などによれば、60代や70代の投票先は2位が蓮舫候補で、70代に至っては蓮舫候補を投票先とした者の割合は、石丸候補を投票先とした者の3倍程度である一方、10代・20代は石丸候補を投票先とした者の割合は、蓮舫候補を投票先とした者の3倍程度という年代による逆転現象が起きています。そもそも現職小池候補の支持についても若年者より高齢者の方が高いことを考えれば、若い世代・無党派層をターゲットとして振り切った選挙戦を行うことができたのも、勝因といえます。なお、この二つに共通することは、「既存」の打破であり、既存政党・既存メディアを否定する立場が有権者にわかりやすかったともいえます。

さらにネットの活用です。小池候補、蓮舫候補、石丸候補いずれもネットは活用していました。ただ、小池候補や蓮舫候補が陣営による作り込んだ動画の作成やショート動画の配信といった手法をとったのに対し、石丸候補は街頭演説などで積極的に聴衆に撮影などをするように伝え、個々の支持者が自発的に投稿するという手法をとりました。スマートフォンで動画や画像編集が手軽にできるようになった技術革新や、AIなどの活用が一般市民でもできるようになった今、この候補者自身をコンテンツ化し、有権者ひとりひとりが発信するという手法は、これまでのネット選挙の手法をアップデートし、得票数に大きく影響したと考えます。また、小池候補や蓮舫候補がSNSで拡散されるときにはネガティブキーワード(学歴問題や、野党時代の問題)と一緒に拡散されることもあった一方、石丸候補の場合には中央集権的な情報発信ではなく支持者による同時多発的かつポジティブな拡散が選挙戦全体にわたって展開できたことが、SNS上での盛り上がりやトレンド入りにも貢献し、ネットを普段から活用している若年層の票の獲得につながったといえます。

蓮舫候補はなぜ票が伸びなかったのか

写真:つのだよしお/アフロ

4月の東京15区衆議院補欠選挙で立憲民主党公認候補だった酒井菜摘候補が当選したことなどから、当初は善戦も想定されていた蓮舫候補でしたが、結果的には石丸候補にも後塵を拝する結果となりました。

蓮舫候補は、当初から野党連合の統一候補として出馬することとなり、結果として立憲民主党や共産党の支持でこの選挙戦を戦う構図を早々に決めました。実際に街頭演説にも党役員クラスが入るなど、さながら東京15区の焼き直しのような選挙戦を展開しました。一方で、この東京都知事選挙は国政選挙ではない「首長選挙」であり、政党本位ではなく人物本位の選挙です。「首長選挙」でも、政党の支持や推薦といった要素は重要で、その要素で選挙戦の結果が決まってしまうケースもありますが、その多くは「与野党対決」や「オール与党対共産党」のケースがほとんどで、無所属・無党派の主要候補が登場してきた場合には、政党対決に持ち込んで勝つことは難しいとされています。今回の都知事選では石丸伸二候補の出馬表明(5月17日)の後に、蓮舫候補の出馬表明(5月27日)が行われました。これは前日(5月26日)の静岡県知事選挙で野党推薦候補が当選したことや、この時点までに行われていたとされる情勢調査の結果、出馬表明前であっても蓮舫候補が小池候補と拮抗しているとの情報からでした。その後、石丸候補の維新推薦の話が消えたことで石丸候補は無所属無党派の選挙を展開することになりましたが、当初蓮舫陣営が考えていた「国政与党が支持する小池と、国政野党が支持する蓮舫」との二項対立の土俵は、この時点で機能しないものとなってしまったのです。

しかしながら、告示後も、「与野党対決」の土俵で蓮舫陣営は独り相撲を取る戦略を継続しました。国会が閉会したことで、国民の国政への関心はピークを越え、首長選挙としての「東京都知事選挙」にフォーカスがあたったことで「与野党対決」の土俵に対して違和感を持つ有権者も徐々に増えていったものとみられます。くわえて、小池候補は与党からの支持をステルス的に受けたことや、蓮舫候補が参議院議員時代から国会で多く発言してきたこと、民主党政権時代の大臣としての印象の強さから、表面的には政党色が強いのは蓮舫陣営だけとなってしまったことが、従来型の選挙を展開しているとみられ、無党派層を引き込めなかったことにつながったといえます。

ネット上でも、共産党による蓮舫候補の写真等を使った献金募集など新たなネガティブ要素も出回ったのに対し、有効な反論も出せなかったことで、ネット世論も味方につけることが難しくなったといえます。中盤以降も、街頭演説で「与野党対決」を前提とした応援弁士の演説が続いたことから、この都知事選挙における形勢変化をわかっていながら、当初の方針から転換する判断をできなかったことが、主たる敗因と考えられます。また、野党の選挙で頻繁に指摘される「内輪だけが盛り上がる選挙」「内輪の論理で進む選挙戦」といった傾向は今回もみられたことから、これらも中盤以降に無党派層の獲得を阻害したと考えられます。「ひとり街宣」などの手法もこれだけの規模で展開されたのは初めてであり、新たな選挙戦術の一つとして注目に値する一方、その手法が無党派層の投票行動にどれだけ影響を与えたのかは、冷静に振り返る必要があるでしょう。

選挙は土俵づくりが大事を地で行く都知事選

提供:アフロ

選挙は土俵づくりが大事です。戦う構図、テーマ、大義名分といった土俵をつくるところから戦いは始まっており、自分にとって有利な土俵で戦うことが、選挙という戦いにおいて重要なことは言うまでもありません。

こう振り返ると、まさに「選挙は土俵づくりが大事」を地で行く選挙だったと感じさせられます。主要3陣営は、東京都知事選挙という特性や特徴を理解した上で、小池候補は「現職対新人」という土俵を、石丸候補は「既存(政党・メディア)対新規(無所属・ネット)」という土俵を、蓮舫候補は「与党対野党」という土俵を用意して、それぞれの候補をその土俵に引きずり込んで戦おうとしました。

自らに有利となる選挙戦の土俵をつくり、相手候補と自分がつくった土俵の上で戦うことができたのかという点が候補者の戦略の差となり、そしてその差が今回の票差・順位に結実したといえます。無党派層や若年者が多いことから、ダイナミックに票が動く東京都知事選挙だからこその結果ではありますが、今回の選挙結果は今後の各級選挙における各陣営の選挙戦略にも影響を与えることは必至です。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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