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「パワハラ」は我慢より、まずは状況回避するための手段を。知っておくと役に立つ制度も。

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
(写真:アフロ)

「パワハラ」とは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいいます。これはれっきとした人権侵害であり、場合によっては刑事罰の対象にもなりかねない行為です。

現在、パワハラ被害に遭って悩んでいる場合に、自分が置かれている状況をどう見据え、どう対処していくべきなのでしょうか。

たとえば厚生労働省のHPを見たり、労働問題の専門機関に相談したりすれば、その定義や対応策に関する基礎知識は得られるかもしれませんが、日々職場で行われているパワハラは巧妙なケースが多く、個人の知見だけでは立証できないことも多いようです。また、明らかにひどいパワハラを受けているケースでも、社内での立場を気にして声を上げづらいという人も多いと思います。

では具体的にどのような対応策があるのでしょうか

知っておくと便利な言葉として「安全配慮義務」と「職場環境配慮義務」があります。

会社には従業員が安全・健康に働くことができるように配慮する義務があります。この義務を「安全配慮義務(労働契約法第5条)」といいます。また、会社が、その義務を果たさない(怠る)ことを安全配慮義務違反といいます。

通常、従業員の働く場所を指定することや、仕事上使用する設備や器具を用意するのは従業員側ではなく会社側です。そのため、職場における従業員の安全と健康を守るのは従業員の自己責任ではなく会社側がその義務を負うことになります。会社が従業員に対して危険な環境での労働、劣悪な環境での労働、慢性的な長時間労働(過重労働)などの労働条件を課すことを抑制するために、このような義務を課しているのです。

また、会社は労働者が働くための環境を安全・快適にしておく必要があります。これを「職場環境配慮義務(民法第715条)」と呼んでいます。陰口やセクハラ、不平等な扱いがなされ、正常な労働が提供できないという労働者がいる状況では、職場環境を整えているとは言えません。

このように会社側には「安全配慮義務」と「職場環境配慮義務」があることがわかります。そのうえで私たちにはどのような対応策があるのでしょうか。

異動する、上司が変わるまで我慢する

もし、「耐えられる」「我慢できる」レベルのパワハラならば異動や、上司が変わるまで人事部や会社の上層部に働き続けることで対応してみます。

休職する

「もうどうしても無理!」という場合には休職という方法があります。精神科や心療内科を受診して診断書を作成してもらいます。労働安全衛生法により、一定の規模の事業場には産業医の選任が義務付けられています。もし、会社に産業医がいる場合には診断書を提出して休職の相談をしてみましょう。

ただし、会社によって制度が異なりますので事前に休職に関する規定内容については確認をしておいてください。また、ケガや病気による休職では「傷病手当金」が支給されます。「傷病手当金」は会社からではなく、健康保険から貰えるお金です。実際に支給されるのは、休職4日目~復職の前日までの間で、月給の約6割くらい貰うことができます。

労働者災害補償保険(労災)

パワハラの場合でも労災に認定されることがあります。正式名称は「労働者災害補償保険」といい、認定されると治療費や休業保障などが支給されます。労災認定には、大きく3つの要件があり、それらに当てはまる必要性があります。

・精神障害を発症している

・発症前おおむね6か月間に業務による強い心理的負荷が認められる

・職場以外の心理的負荷によって発病したものではない

労災保険の給付を受けるには、申請して、労働基準監督署長に認定されることが必要となります。多くの企業では、病気とつくものは、業務災害だと意識することはないため、いつまで待っても労災申請することはありません。労働者が自ら労災申請しなければならず、会社はあてにならないものだと思ったがほうよいでしょう。

労働局の個別労働紛争解決制度を利用する

解雇、労働条件の引き下げ、いじめ・嫌がらせなどのトラブルについて「個別労働紛争の解決の促進に関する法律」に基づき、労働局では3つの制度で解決援助の制度を用意しています。

・総合労働相談コーナーにおける相談・情報提供

・都道府県労働局長による助言・指導

・紛争調整委員会によるあっせん

民事裁判

会社は、労働者の生命や身体を危険から保護するよう配慮する義務を負っています。それを怠ったことが原因で労働者が負傷したり、病気になったのであれば会社は慰謝料などの損害賠償をする責任を負うのです。

では会社に責任がある場合とは、どのような場合でしょうか?

大きく次の3つに分けることができます。

・会社が積極的に、労災の加害者である場合

・積極的な加害者とまではいえなくとも、為すべきことをしなかった場合

・使用者責任を問われる場合

転職、起業

「他でやりたい!」という方は転職や起業も視野に入れて動いてみてください。

ちなみに私が顧問を務めている「非営利一般社団法人 安全衛生優良企業マーク推進機構」では「ホワイト企業一覧」「ブラック企業一覧」を掲載していますので、ぜひ転職の際には参考にしてみてください。

まずは状況回避を。我慢してもパワハラの標的になるだけ

以上のようにパワハラから逃れる方法、もしくは戦う方法はいくつかあります。

パワハラの解決に向けてはいくら会社側に苦境を訴えても動いてくれないというケースが意外に多いようです。そのような場合は、労働局などの外部機関や、弁護士に相談してみるのが良いかもしれません。ただし、この場合に優先すべきは、自分が会社に残れるようによく考えて振る舞うことです。外部の力を借りてパワハラが解決したとしても、会社側のあなたに対する心象は悪くなる可能性があるからです。居心地が悪くなり、いずれ自分自身で退職を選ぶということにもなりかねません。転職や退職を考えていないなら問題の解決はなるべく社内に止めておいたほうが良いでしょう。

あと、私の個人的な意見ですがパワハラ加害者と話し合いで解決するというのは控えたほうが良いと考えています。パワハラが止むか、しばらくおとなしくなるか、逆に酷くなるのか賭けのようなものだと思います。もし二人きりになってしまったときは念のために録音データを残しておくとか、第三者を介在する形にすることが必要だと感じます。どうか自分の身を守る手段を講じてください。

本当に辛いときには主治医や産業医と相談して休職するのが良いかもしれません。パワハラの被害によって精神的に参ってしまうのは当たり前のことです。また、休職することによって時間が経てば職場の環境も状況も自然と変わっていきます。まずは心と身体を休めた後に次のステップへ進むことを考えてみてはいかがでしょうか。

『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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