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『一時保護所の子どもと職員を支えたい』長時間労働でうつ病を発症し退職した児相元職員が裁判を始めた理由

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
(提供:イメージマート)

7月21日、児童相談所での長時間労働でうつ病を発症し退職を余儀なくされたとして、市川児童相談所の元児童指導員、飯島章太さんが千葉県に対して、未払賃金や慰謝料など約1200万円を求める訴訟を千葉地裁に起こしました。今回は同相談所での過酷な職場環境を訴える飯島さんに裁判を起こした経緯について伺います。

「これ以上やると本当に死ぬ」一時保護所元職員の訴え 勤務環境の改善求め千葉県を提訴(TBSテレビ)2022年7月21日(木)

一時保護というのは児童相談所の役割の一つ

まず、はじめに児童相談所と一時保護所の関係について説明します。

一時保護所というのは、一時保護された子どもたちが一時的に生活を送る施設です。令和2年7月1日時点で全国に144カ所あります。一時保護所は最低でも46都道府県に1カ所は設置されています。そして一時保護所には、さまざまな事情から親元にいることが難しい子や虐待を受けている2歳~18歳の子どもたちが生活をしています。

児童相談所は全国に220カ所(令和2年7月1日現在)あり、一時保護所を設置している児童相談所は65.5%となっています。

また、一時保護件数13,110件のうち58.2%は虐待が理由で28.8%は虐待以外の養護理由、0.7%が障がい、7%が非行、5.3%が保健・育成その他理由として入所しています。(引用元:【経験者が解説】一時保護所とは? | たすけあい|社会的養護専門情報サイト)

このように一時保護所というのは、一時保護された子どもたちが一時的に生活を送る施設ということになります。

(出典元:【経験者が解説】一時保護所とは? | たすけあい|社会的養護専門情報サイト)
(出典元:【経験者が解説】一時保護所とは? | たすけあい|社会的養護専門情報サイト)

明智 では、さっそく飯島さんにお話を伺いたいと思います。まずは自己紹介をお願いします。

飯島 飯島章太と申します。千葉県在住の28歳です。大学生時代は弁護士を目指して法律を専攻していましたが、東日本大震災のボランティアがきっかけで福祉業界と関わるようになりました。子どもからの相談をうけるボランティアを経験し、それを仕事にしたいと思い、前職の児童相談所へ入職しました。

明智 今回、裁判を起こした動機を教えてください。また、裁判によって社会にどのような変化を望んでいますか?

飯島 一番の動機は、一時保護所の子どもたちとの出会いが大きいです。子どもたちとの関わりはとても心が動かされることが多く、自分自身の気持ちを自然に出しながら子どもたちと関わることにやりがいを感じていました。

その子どもたちの背景はさまざまで、その子に合わせた関わり方を考える必要があるような場所でした。ですが、私たち一時保護所の職員はその背景について詳しく知る時間すらなかなかありませんでした。そしてどのように関わるかについて研修はなく、OJTといいながら先輩の背中を見るしかなく、またその背中を見る間もないくらいの忙しさでした。

そうした状況からか子どもたちへの接し方は、指導的で管理的なものが多かったです。ルールで細かいことまで決められ、現場以外の人が見たら驚くようなルールもあり、それを破れば職員から怒られ、怒鳴られ、行きたい行事にも参加できず、時には懲罰的に個室へ行かせられる子もいました。

私は本来ケアが必要な子どもが、ケアではなくむしろ管理され怒られる場所であることに、ショックを受けました。ですが、職員はやりたくてそれをやっているわけではなく、また子どものためを思って、そのようにしていることも目にしてきました。定員が倍以上を超えても、子どもたちが安全に暮らすために、それぞれの職員は苦心していました。

手探りの中、休憩もなく、長時間の夜間勤務の際には仮眠もなかなかできず、仮眠時間帯は給与が基本的には不支給で、過酷な労働環境がそこにはありました。私は、子どもの話を聞くなかで、子どものためになったらいいという当初の思いが次第に麻痺して、自分が子どもを管理・指導する側になっていくことにかすかな違和感を抱くようになりました。

そうした状況に置かれている子どもたち、そして過酷な労働環境の職員の間には、必ず関連性があると身をもって感じました。逆に、職員の労働環境が少しでもよくなれば、子どものケアに必ずつながるという確信がありました。今回、裁判という形ですので、未払い賃金・損害賠償請求という金銭を求めることになりましたが、それだけでなく、より一時保護所の子ども、そのために職員の環境改善にわずかでもつながるといいなと願いを込めて、提訴することにしました。

飯島章太さん(提供:筆者)
飯島章太さん(提供:筆者)

明智 裁判を起こしたことがニュースになりましたが反響はどうでしたか?

飯島 まずニュースにしていただいたこと自体がありがたかったです。記者会見には10名以上の記者がいらっしゃったのですが、実際に記事になったのは3つほどでした。それはきっと、こうした児童相談所・一時保護所に関して、記事を作るということ自体の難しさを反映しているかなと思っています。

TBSが今回の提訴では初めての報道でしたが、その時はそこまで反応がなかったように思います。ですが、ニュースを見た業界関係の方が広げてくださり、併せてYouTubeやウェブ記事が公開されたと同時に、より広く社会的養育に関わる業界の方からの反応が大きかったように思います。

そこから広がっていくうちに、介護業界の方、誰かをケアしている方からの反応が広がり、いわゆる福祉・教育・心理など対人援助職と呼ばれる人たちからの反応が私のもとに届きました。そしてちょうどゴールデンタイムにYahoo!ニュースのトップに記事が載ったことが、さらにいろんな人たちの目に触れることになったため、かなりの方からSNSを通じてリアクションがきました。

この反響から、この提訴で提起した問題は、一時保護所だけでない、児童相談所、児童福祉、福祉業界、ケアに関わる現場など、色々な場面で共通する問題なのだと感じました。

明智 なにか支援やサポートできることはありますか?

飯島 私や弁護団へのサポートということであれば、ぜひ発信の場をさまざまいただけたらありがたいなと思います。もちろん、金銭的なサポートもあるとありがたいですし、弁護士の方も時間に見合わないような報酬で関わってくださっています。

ですが、私も弁護団の思いとしても、こうした一時保護所の実態があること、労働環境が改善される必要があること、そしてそれは様々な子ども・福祉の現場に派生していく可能性が十分あること、いわゆる支援者の支援やケアする人のケア、などが世の中に広がっていくこと、またメディア・議員・他の行政に届くことなどを願っての、今回の提訴であります。だからこそ、私たちとしてはできる限りのことをしていくつもりですし、何か発信の機会やお話しする機会、意見交換する機会などがさまざまあれば、大変ありがたいです。

そして何より大事だと思うのは、一時保護所・児童相談所職員をはじめとした子どものケア・福祉でのケアに関わっている人たちを、支える雰囲気が大事だと思います。職員は、毎日プレッシャーの中で葛藤しています。その中で、自分の身近な人たちが、支えてくれてやさしくしてくれるだけで、本当に励みになります。何かヘルプを出しそうなときには、ぜひ支えてもらえるとすごくありがたいです。そしてヘルプを感じ取れるくらいのつながりが持てるような場があるだけでありがたいと思います。そうして、身近な人が支えられるような社会になるといいなと思います。

『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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