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遂に正体を表した習近平――南北朝鮮をコントロール

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
南アで開催されたBRICS首脳会議における習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 北朝鮮には人道支援の名の下に現金支援まで行ない、南(韓国)にはTHAAD配備報復撤廃を餌に、朝鮮戦争休戦協定から終戦協定への変換と平和体制構築に中国を加えることを認めさせた。これにより朝鮮半島の主導権は中国が握る。

◆韓国に「4者」を認めさせた中国

 ソウルの聯合ニュースは7月31日、韓国大統領府の高官が「朝鮮戦争の終戦宣言に関して、4者による宣言を排除しない」と言ったと伝えた。

 「4者」とは、「南北朝鮮とアメリカおよび中国」のことを指し、「3者」は、ここから「中国を外す」という意味である。

 これに関してYahooにおけるコラム「遠藤誉が斬る」で何度も何度も、くり返し書いてきたので重複を避けたいが、一応お知らせするとすれば、関連テーマの最後のコラムは6月7日付けの<中国、「米朝韓」3者終戦宣言は無効!>だ。このタイトルからも分かるように、中国はともかく全力で「3者」を退け、何としても「4者」に持っていくための働きかけを南北朝鮮に対して行ってきた。

 北に対しては3度にわたる「習近平-金正恩」会談で明らかにしてきたように、北に対する支援の前提条件は「非核化の意思確認」とともに、何といっても「中国外しをしない」ことが最大の絶対条件だ。「4者」にしない限り、中国は対北朝鮮の経済支援もしなければ、国連安保理の経済制裁緩和のために動いてあげたりもしない。

 中国にとっては、終戦協定に向かうプロセスの「中国を入れた4者協議」と「(段階的でもいいので)非核化」とは譲れない交換条件なのだ。

 金正恩委員長はもちろん、習近平国家主席の、この交換条件を呑んでいる。

 では、韓国に対しては何との交換条件だったのか。

◆THAAD配備に対する報復措置撤廃が交換条件

 それこそが、「THAAD(サード)配備に対する報復措置」を撤廃するか否かという交換条件だ。

 すでに4カ月ほど前のことになるが、習近平国家主席の特使として訪韓した楊潔チ・中共中央政治局委員(外事工作委員会弁公室主任)は3月30日、文在寅大統領と会談し、韓国のTHAAD配備に対して中国が取っていた経済報復措置を撤回する方針を表明した。3月31日の「朝鮮日報」が報道した。

 これはWTO違反になるので、米中貿易摩擦において、アメリカにとっては絶好の中国を攻撃する材料となる。したがって中国としては先ずそれを取り除いておきたかったのだが、楊潔チ氏は7月中旬にも極秘に再訪韓して、報復措置撤回と同時に、その交換条件として「4者協議」を認めることを韓国に強引に要求していたことが、このほどわかった。

 中国外交部の報道官も定例記者会見で「楊潔チ氏の7月中旬における再訪韓とその目的」に関して「中国も終戦宣言に参与することを韓国と討議したのではないか」という質問を受けると、報道官は「訪韓したこと自体」は認めたものの、目的に関してはあくまでも「中韓関係等、両国がともに関心を持つ問題に関して、韓国の国家安保室の鄭義溶(チョン・ウィヨン)室長と意思疎通を行なった」として、「終戦宣言」に関しては言及を避けた。

 しかし、討論をした相手が韓国の外相(外交部長官)ではなく国家安保室の室長だったことは、明らかに「THAAD配備」や「終戦」といった国家安全に関わる問題に関して話し合ったことを示唆する。

 また事実、楊潔チ氏の7月中旬再訪韓を受けて、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相は7月25日、「中国も朝鮮半島問題で共に協力しなければならない重要な相手国」と発言している。

 楊潔チ氏の一連の訪韓によって、中国は韓国にも「段階的非核化」を認めるよう、強く要求したものと解釈していいだろう。韓国政府側の発言はその後、そちらの方にシフトしている。

 これにより中国、ロシア、韓国という、北朝鮮に隣接する3ヵ国が事実上「段階的非核化」という北朝鮮の主張に歩調を合わせたことになろうか。

◆習近平の金正恩に対する飴と鞭

 習近平国家主席は金正恩委員長の訪中を3度も受け入れ、いずれの場合も「段階的非核化を支持し、認める」と明言している。但し、北朝鮮に対しては「非核化をする意思が強固であること」と「終戦宣言等、朝鮮半島の平和体制構築プロセスに必ず中国が参与すること」を絶対条件として要求している。

 その上で、6月11日付けコラム<北朝鮮を狙う経済開発勢力図>にあるような4大開発区に対する支援を約束しているのである。

 また7月9日付けのコラム<金正恩は非核化するしかない>や、その他関連のコラムに書いてきたように、中国は「人道支援」という国連安保理経済制裁から除外されている迂回ルートを用いて、対北経済支援をしてきた。この「人道支援」の枠組みさえ使えば、「現金」でさえ、北朝鮮に投入することができるのである。

 事実、7月31日の聯合ニュースは、中国が北朝鮮に「医療支援」という「人道支援」の名目で、1100万元(1億8000万円強)を投入したと伝えている。

 これは氷山の一角に過ぎず、「人道支援」という大義名分を振りかざせば、事実上、何でもできるのである。

 7月26日付けコラム<誰に見せるためか?――金正恩氏、経済視察で激怒>で書いたように、金正恩が北東部の咸鏡北道(ハムギョンプクト)にある漁郎川(オランチョン)水力発電所建設現場やカバン工場を視察すると、ほどなく北部一帯の電気が「突然!」使えるようになったとアジアプレス・インターナショナル(7月27日配信)が報道している。

 カバン工場がある清津(チョンジン)は、中国が約束している開発区の一つである。

 「習近平に対して怒って見せた甲斐があった」と解釈しない方がおかしいだろう。

 こうして習近平は、朝鮮半島の主導権を、しっかり握りつつあるのだ。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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