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中国、「米朝韓」3者終戦宣言は無効!

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
訪米してトランプ大統領と会談した韓国の文在寅大統領(右)(写真:ロイター/アフロ)

 米朝首脳会談で主要議題になると見込まれる朝鮮戦争の終戦宣言に関して、文在寅大統領は3者宣言に前のめりだ。それに対して中国は「無効!」とまで表現して抗議を表明している。制裁維持とも矛盾すると語る老幹部も。

◆朝鮮戦争の終戦宣言が主要議題に?

 トランプ大統領が北朝鮮の非核化プロセスに関して、北朝鮮が主張する「段階的非核化」を事実上容認した形となったことから、6月12日の米朝首脳会談においては、付随的とみなされていた朝鮮戦争の終戦宣言の方にウェイトが置かれるようになった感がある。

 トランプ大統領としても中間選挙など米国内の政治日程のために何かしらのインパクトのある功績を残さなければならないだろう。しかし、会談の前提条件として、当初、あそこまで力説していた「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID:Complete, Verifiable, Irreversible, Dismantlement)」を「ゆっくりでいい」と言ってしまったのだから、勢い終戦宣言にシフトしてしまうのも無理からぬことだろう。

 「さあ、俺は北朝鮮の非核化を一瞬で止めて見せた男だぞ!」から「俺は、あの朝鮮戦争の終戦を宣言し、冷戦最後の遺物を解決した男だぞ!」に焦点をずらして功績をアピールするしかないところに追い込まれている側面は否めない。

 そこへ、何が何でもとばかりに、自己の存在を全面に出してきたのが韓国の文在寅大統領だ。

◆文在寅大統領、シンガポールで「米朝韓」3者で終戦宣言と

 文在寅大統領は金正恩委員長との2回目の南北首脳会談の結果を発表した5月27日、「米朝会談が成功すれば南北米3者首脳会談を通し、終戦宣言を推進したい」と述べた。つまり6月12日のシンガポールにおける米朝首脳会談に自分も何らかの形で参加して、「米朝韓」3者によって終戦宣言をしたいとの意欲を強く示したのである。

 6月5日付の「ハンギョレ新聞(the hankyoreh)」によれば、終戦宣言に「不可侵の確約」を入れて「金正恩委員長を安心させたい」という趣旨の文在寅大統領の提案が書いてある。<文大統領、終戦宣言に「不可侵」盛り込む案を推進>をご覧いただきたい。

 それによれば、北が心配しているのは「核を放棄した後の体制の保証」で、朝鮮戦争の終戦を宣言してしまえば、核放棄後にアメリカから軍事攻撃を受ける心配はなくなるし、また「不可侵の確約」をすれば、アメリカだけでなく韓国からの軍事的脅威も完全に消えるだろうという考え方のようだ。こうしてこそ初めて、北は安心して核を放棄できるだろうというのが提案の理由だとのこと。

 たしかに一理ある。

 朝鮮戦争はもともと南北朝鮮の間の戦争のはずだったが、途中から北には中国人民志願軍がつき、南にはアメリカが率いる国連軍がついて、韓国はその国連軍の中の一国という位置づけになっていた。休戦協定は最終的には「北朝鮮と中国およびアメリカ(国連軍代表)」の間で署名され締結された。

 したがって文在寅大統領の理屈(弁明?)に一理はあっても、中国が黙っているはずはないだろう。

 しかし上掲のハンギョレ新聞の<文大統領、終戦宣言に「不可侵」盛り込む案を推進>には「文大統領はすでに北朝鮮の金正恩国務委員長やドナルド・トランプ米大統領、習近平中国国家主席とこのような構想を協議し、首脳レベルの共感を広げている」と書いてある。

 本当だろうか?

 習近平国家主席が、3者終戦宣言という構想に「共感」しているのだろうか。

 どうも考えにくい。

 そこでまず、中国の情報を調べてみた。

◆中国が「無効!」とまで抗議

 すると、中国のネットは驚くほど「3者終戦宣言」に対する抗議に溢れていることを発見した。

 まず中国共産党系新聞の「環球時報」が「中国なしの半島の終戦宣言は無効! いつでも覆すことができる」という論評を出している。「環球時報」の情報を数多くの他のウェブサイトが載せているので、ここでは最も読まれている新浪(sina.com)の報道を一つの例としてご紹介する。

 その概要を以下に示す。

1.1950年に勃発し1953年7月27日に休戦協定を結んだ朝鮮戦争は、中国の参加なしに終戦を宣言しても無効である。

2.休戦協定の正式名称は「朝鮮人民軍最高司令官および中国人民志願軍司令員と国連軍総司令官による朝鮮軍事停戦の協定」と明確に書いてある。「北朝鮮、中国、国連軍代表(アメリカ)」の3者による署名なのである。

3.もし中国の艱難辛苦のあの努力がなかったら、絶対に休戦協定は存在していなかったし、あれから65年間の(戦争がない)平穏も存在しなかった。(筆者注:朝鮮戦争に参加した兵士の数等に関しては、4月26日のコラム<朝鮮戦争「終戦協定」は中国が不可欠――韓国は仲介の資格しかない>に書いたように、「北朝鮮:80万人、中国:135万人~200万人、アメリカ:48万人、韓国:59万人」で圧倒的に中国が多く、中国は35万人の死傷者と17万人の戦死者を出している。中国の勢いに押されてアメリカ側が休戦を申し出た。)

4.もし中国が参加しないなら、休戦協定を廃止することは法律的に不可能だ。もし休戦協定を廃止できないとすれば、終戦宣言の基礎と法律的根拠はどこにあるというのか?また、もし終戦宣言が法律的意味合いを持ってないとすれば、終戦宣言に署名してもいかなる意味があるというのか?このパラドックス(逆理)をどう説明するのだ?

5.4月27日の「板門店宣言」では「南北米3者か南北米中4者によって終戦協定までの平和体制構築を協議する」と言っていたのに、いったいいつの間に「3者協議」が既成事実のように変わったのか。

6.青瓦台(チョンワデ)(韓国の大統領府)の考え方は「政治的意義における終戦宣言は南北米3者で、制度保証を含めた平和協定(終戦協定)は中国を含めた4者でというのではないだろうか」と分析する者もいるが、韓国の柳宗夏・元外務部長官は「朝鮮日報」で違う見解を述べている。彼は「中国は朝鮮戦争および休戦協定の当事国なのだから、終戦宣言および平和協定を締結するときは、当事国として参加しなければならない」とした上で、「それは名義上のことだけではなく、実際に重要な役割を果たしたのだから」と指摘している。

7.半島の終戦宣言から中国を追い出す?悪いが、われわれは当事者そのものなのだ。

◆環球時報・軍事サイトも

 「百家号」というウェブサイトは、「環球時報・軍事」にある<文在寅は中国を除け者にして終戦宣言をしようとしている。韓国高官、中国なしはあり得ないと>という見出しの報道を掲載している。上記の環球時報と類似の内容だが、そこには「アメリカは韓国が米朝首脳会談に割り込んでくるのを嫌がっているっていう報道があったよね。そんなことをしたら、トランプの面目をつぶすではないか」という文章が入っているのが興味を引いた。

◆中国の老幹部は

 もうかなり前に現役を退いている高齢の中国の老幹部と話をした。彼もまた怒りを抑えきれないようだった。概ねの内容を以下に示す。

 ――米朝首脳が対話によって問題解決をするというのは大歓迎だ。中国は長いこと、そうしろと言ってきたのだから。だから政府としてはあまり正面を切って平和体制構築過程における「中国外し」を声高に非難するのはしにくい。しかし、どれだけの犠牲を当時の中国人は払ったと思っているのか。毛沢東が朝鮮戦争を起こすべきではないと、あれだけ反対したのに、金日成(キム・イルソン)はスターリンを使って毛沢東を追い込み、無理やりに朝鮮戦争に参戦させた。私の兄も友人も、あの戦争で命を失っている。

 休戦協定では3ヵ月以内に他国の軍隊は半島から撤退することとなっていたので、中国をはじめ多くの国は次々と撤退していったが、米軍だけは休戦協定に違反して半島に残り続けた。トランプは、そのことを自覚しているだろうか?

 米韓同盟自体が、休戦協定違反なのだ。

 そのことを認識していれば、終戦宣言をした瞬間に、在韓米軍は撤退しなければならなくなることに気が付くはずだ。

 何よりも重要なのは、終戦宣言をしてしまったら、(北)朝鮮に対する制裁を維持することは困難になるということだ。トランプはやがて、自分で自分の首を絞めることになるだろう。

 金正恩も同じこと。核・ミサイルで対抗しようとしたのは、そもそもが自殺行為。少なくとも私個人は、金正恩のことも文在寅のことも信用していない。どんなにいい顔を見せても、陰では中国を裏切っている。さもなかったら、3者会談という発想は出て来ない。これは断言できる!

 彼の怒りの強さが伝わってきた。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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