帰化中国人投資家が日本を乗っ取る?
米中の新産業力を比較考察する過程で、日本を参考比較対象としてみた。すると、「なぜ日本の製造業はこんなにまで没落してしまったのか」、「なぜNatureの研究者ランキングなどで、日本はここまで低いのか」といった疑問にぶつかった。
そこに共通しているのは「短期的成績が求められるようになったから」という事実で、日本企業の場合、その原因は「物言う株主」(アクティビスト)の存在であることが浮かび上がってきた。事実、製造業関係の社長を取材したところ、「最近は物言う株主の存在が大きくなりましてね、大型の設備投資など、とてもできません。短期的に目に見える利益を出さないと、物言う株主が許してくれないんですよ。日本の製造業が成長などするはずがありません」と嘆いておられた。
そんな折、飛び出してきたのが、東京証券取引所スタンダード市場に上場し、暗号資産取引所ザイフを所有する株式会社クシムに対する実質的な株の乗っ取り事件である。それも首謀者は日本に帰化した中国人だ。
そうでなくとも11月19日には、「ハゲタカ・ファンド」とも言われるほど激しい投資をすることで有名な米ヘッジファンド運営会社エリオット・インベスト・マネージメント(以下、エリオット)が、東京ガスの株式を5.03%獲得し、東京ガスが保有する新宿パークタワーなどの不動産について、非中核事業だとして売却を求めていると報道されたばかりだ。日本の国家のインフラにまで「物言う株主」が口を出し、日本の国家の軸を揺さぶり始めている。
注意しなければならないのは、かつての資本市場改革で株主の権利を強くしたために、「物言う株主」のみならず昔ながらの乗っ取りスタイルも息を吹き返しているということである。このまま放置すれば、日本はやがて中国人を含めた、何らかの形での外国人投資家に乗っ取られてしまう危険性がある。
日本の「企業防衛」は、そして日本国の「インフラ防衛」は大丈夫なのだろうか。
一方の中国。実は改革開放は、グローバリゼーションを唱え資本市場改革を促した新自由主義経済学者・フリードマンの論理を基礎にして進められてきた。したがって習近平は絶対にグローバリゼーションを崩さないし、その上で社会主義体制を軸にしているので国家インフラは国有企業で守りを固め、民営企業も証券法で外資投入を規制し企業崩壊を防いでいる。
それに比べて日本の外資投入規制はあまりに緩く無防備だ。このままでいいのか、警鐘を鳴らしたい。
◆日本金融界を帰化中国人投資家が乗っ取るのか?
11月25日に発表された株式会社クシムのリリースによれば、クシムの取締役である田原弘貴氏が、ある東京証券取引所スタンダード市場上場会社の代表取締役Aに重要事実を伝え、その情報をもとにクシム株式を売買している疑いがあるとされている。また、A氏は直接的または間接的にクシム株式を保有していることを明らかにし、さらに暗号資産取引所ザイフに中国から大量のビットコインを持ち込むという提案を行ったという。
加えて、クシムはリリースにおいて、「中国資本が絡むマネーロンダリングの疑念や、敵対的買収による重要資産の流出が想定され、当社の経営基盤や暗号資産交換業の健全性を揺るがす可能性を危惧している」と述べており、中国系資本が関与していること、そしてA氏が乗っ取りを企てている可能性を示唆している。
中国系の違法な乗っ取りはクシムが初めての事例ではない。ウルフパックと呼ばれる水面下で株式を買い集める非合法手段は、在日中国人勢力が好んで用いる手法として知られている。
次期トランプ政権は暗号資産を政策の中心に据える方針を示しており、暗号資産交換業は次世代の金融インフラとして位置づけられる重要な産業であり、その一社が、乗っ取りの危機に直面しているのだ。
田原弘貴氏からの株主提案によると、東京証券取引所スタンダード市場に上場している倉元製作所の代表取締役社長である渡邉敏行氏が、クシムの取締役候補に含まれている。これは、上述のA氏に該当する可能性があるのではないかと考えられる。
実は、渡邉氏は中国福建省出身の中国人。今では日本国籍を得て日本に帰化しているものの、もともとは日本で飲食店経営を行っており、今年いきなり、倉元製作所の社長に就任している。失礼な話だが、飲食店経営者が、ガラス加工や半導体事業を営む倉元製作所の社長となって経営を主導し、さらに暗号資産取引所を運営するクシムの乗っ取りを企図していることに、何か不自然さを覚える。渡邉氏一人の力によるとは考えにくい。背後に「中国がらみの」組織的なものが蠢(うごめ)いてはいないか。
クシムのリリースによれば、別の東京証券取引所プライム市場に上場する会社の代表者の関与も示唆されており、少なくとも、この動きが大規模かつ組織的なものとして展開される可能性は高い。
◆中国は早くから米国の「ハゲタカ・ファンド」に警戒
中国自身は自国インフラや自国企業を守るために米国の「ハゲタカ・ファンド」に激しい警戒心を見せてきた。たとえば、東京ガスを狙い撃ちした「ハゲタカ・ファンド」エリオットなどを「経済テロ」と称して警鐘を鳴らしている。
2022年9月29日、中国政府の「新華社」電子版「新華網」は<「経済テロリスト」 - 米国の「ハゲタカ・ファンド」を暴く>という見出しで、エリオットが南米のアルゼンチンやアフリカの32カ国を「ハゲタカ・ファンド」に巻き込んで「喰い物にしている」状況をイラスト入りで解説している。
図表1に示すのは米国の「ハゲタカ・ファンド」が集団で債務にあえぐ弱小国を攻めに行く様(さま)を描いたものだ。
図表1:ハゲタカ・ファンドが債務国を集団で攻撃に行く様
記事では、米国の金融覇権を維持するための手段の一つが、悪名高い「ハゲタカ・ファンド」だと位置付けている。「ハゲタカ・ファンド」に目を付けられたが最後、骨の髄まで食い尽くされるとして、図表2を描いている。
図表2:獲物を捕獲したが最後、その国を喰ってしまう様
記事は米国のエリオットの子会社であるNMLキャピタルの血に飢えた金融攻撃の様子を「経済テロ」と位置づけ、米国の新自由主義が生んだ残虐性を説明しているが、いや、待てよと思う。
◆改革開放はフリードマン理論の下で遂行 ウォール街とつながる中南海
そもそも中国は改革開放を推進するにあたり、冒頭に書いたようにグローバリゼーションを唱え資本市場改革を促した新自由主義経済学者であるミルトン・フリードマンの論理を基礎にしてきた。フリードマンはシカゴ大学の教授であったため、新自由主義を唱える経済学者を「シカゴ派」とか「シカゴ・ボーイズ」と称する。彼らは政府による介入を否定し、自由な市場経済を主張した。その主張が資本市場改革の流れを生み、最終的にはこんにちの「物言う株主」制度へと発展していったと位置付けることもできる。
このフリードマンを中国に招聘すべきだと提案したのは、中国政府のシンクタンク中国社会科学院の世界経済研究所の研究員だ。この提案が中国政府に採用され、1980年にフリードマンは訪中して中南海のリーダーたちと会っている。その後も1988年、1993年と、計3回も訪中し、中国のトップリーダーたちに会い、中国における市場経済発展に関する論議をくり返しているのだ。
したがって中国はフリードマンの唱えるグローバリゼーションを基礎に置き、2001年にWTO(世界貿易機関)に正式加盟した。
2000年には米中国交正常化を促したヘンリー・キッシンジャー元国務長官の勧めで清華大学経済管理学院に顧問員会を設置した。ウォール街の金融大手などのトップを顧問委員会の委員にさせたのはキッシンジャーで、当時は中国入りのためにはコンサルティング会社「キッシンジャー・アソシエイツ」を通さなければならなかった。
現在の顧問委員会のトップに君臨しているのはもちろん習近平国家主席(清華大学卒)だが、顧問委員会委員には、今もウォール街関連の錚々(そうそう)たるメンバーが名を連ねている。図表3にそのリストを示す。
図表3:清華大学経済管理学院に顧問員委員会の中のウォール街関係者
図表3の下から2番目にあるスティーブン・シュワルツマンは習近平が国家主席になった2013年に蘇世民書院(シュワルツマン・カレッジ)の発足式を挙行した。蘇世民はシュワルツマンの中国語名だ。2016年9月から金融を中心としたグローバル・リーダーを養成し、世界に羽ばたかせている。
その意味で、中南海はウォール街と緊密に直結しており、フリードマン理論が生きている。だから習近平は絶対にグローバリゼーションを変えないのだが、それでいながら社会主義体制を軸にしているので、国家インフラなどは国有企業で固めていて絶対に海外資本の浸食を許さない。民間企業でも証券法で外資投入をかなり厳しく規制しているのは、外資によって中国企業が破壊されるのを防ぐためであって、決して閉鎖的であるためではない。中国は外資に対する「企業防衛」が非常に堅固だ。これは中国の強みだと言えよう。
◆日本の株式制度における「企業防衛」の危うさ
それに比べて日本企業の外資投入あるいは株主提案権に関する規制は世界一緩く、東京証券取引所及び大阪取引所の売買代金の約60%以上は海外投資家によって占められており、上場企業の金額ベースでみた外国人の日本株保有率は31.8%になっている。株主提案権を取得するための株式保有要件も非常に緩く、提案内容の制限もほとんどないというのが現状のようだ。そのことがたとえば「ウルフパック(群狼作戦)」のような手法を生む結果を招いており、企業を乗っ取るグレーゾーンが潜んでいる。
日本の現状では株式を5%以上保有すると、「大量保有報告書」を提出する義務がある。その後1%以上の変動があるたびに追加で報告することが法律で定められているようだ。
一方で、「ウルフパック」と呼ばれる手法では、多数の異なる名義を利用し、水面下で分散的に大量の株式を購入する。本来、これらの株式が事実上共同で保有されている場合には、共同名義として「大量保有報告書」を提出する義務がある。しかし実際は、5%以上の株式を所有している某グループは、それぞれがあたかも関係のない人物になりすまして異なる名義で5%以下の株式を所有する形を偽装することが可能だ。
「狼の群れ」のように水面下でつながっておきながら単独の名義で株を購入し、ある日突然「狼の群れ」が姿を現して「株主提案権」を発揮して当該企業を乗っ取るという手法が日本では見られる。
それが帰化中国人仕手(して)集団だったケースが2022年8月18日に<市場を赤く染める「中国系仕手集団」の“ウルフパック戦術” 電線メーカー「三ッ星」が白旗寸前>という見出しで報告されている。報道によれば、「相手企業に警戒心を抱かせないように各々が無関係を装い、株式を分散取得し、傘下株主の申し立てで臨時株主総会の開催に漕ぎつけると、共闘で乗っ取り劇を演じる」とのこと。典型的な「狼の群れ」だ。加えて「その中心人物と目されるのは、2003年10月に日本国籍を取得した本多敏行という帰化中国人」だというから、いかにも「赤く染めそうな雰囲気」を醸し出しているではないか。
この結末は2024年8月22日の<「狼」のような個人投資家が徒党を組み、狙った企業を買い上がる…!究極の敵対的買収「ウルフパック戦術」の行方>に見られるように、ウルフ3者に「計98万円の課徴金納付命令を出すよう金融庁に勧告した」だけで終わっている。こんなことでは、「狼の群れ」はいくらでも姿を変えて暗躍し、日本企業あるいは日本国家のインフラさえ乗っ取ることが可能になってしまう。
「企業防衛」、「国家防衛」は「武器を手段とした防衛力」などでは到底守り切れない経済安全保障上のリスクの落とし穴を露呈している。投資者の道徳心に期待するには限界があるだろう。
仮に万一、中共中央統一戦線がグレーソーンを突いてきたらどうなるだろう。そうでなくとも日本は米国の餌食になっている側面が否めないのに、ウォール街と中南海がその気になれば、日本国など「消えてなくなる」危険性がゼロではないことが、「金融界」に潜んでいることを発見したのは大きい。中国の富裕層が習近平政権を嫌がって日本に避難してきているといった類の記事が目立つが、喜んでいる場合ではない。
また、懲罰を重くすればいいだけの話ではなく、日本はもっと抜本的に、そして予防的に規制ラインを引き上げなければならない。それができないのはなぜか?
遅まきの対米追随にばかり目が行っていて、日本の国家を守るのだという「独立国家としての国家観」を持っていないところに根源があるのではないか。この「国家観の欠如」は拙著『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』でも詳述した。
今般の「クシムに対する株の乗っ取り事件」は氷山の一角にすぎず、日本はあらゆるエリアで「隙だらけ」であることを露呈している。この「日本の脆弱性」に対して、国は早急に規制の見直しをする必要がある。警鐘を鳴らしたい。