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亀梨和也演じる「ダークヒーロー」が暴く、テレビというメディアの「暗黒面=ダークサイド」

碓井広義メディア文化評論家
(ペイレスイメージズ/アフロ)

1月クールのドラマが続々とスタートしています。亀梨和也主演『FINAL CUT(ファイナルカット)』(フジテレビ系)も9日に第1話が放送されました。

関西テレビが制作する火曜夜のドラマ枠は、昨年の草なぎ剛主演『嘘の戦争』や小栗旬主演『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』など、見応えのある作品を並べてきました。さて、今回の『FINAL CUT』ですが・・・。

亀梨和也が挑む復讐劇

何よりも「復讐劇」であること。何者かに家族の命を奪われた過去をもつ少年が、その恨みを忘れずに成長し、仇(かたき)に対して復讐を敢行する物語です。草なぎさんの『戦争』シリーズと構造がよく似てますね。このドラマの主人公・中村慶介(亀梨和也)の場合の家族は、母親の恭子(お久しぶりの裕木奈江)です。

12年前、恭子が経営していた保育園の園児が殺害される事件が起きました。百々瀬塁(藤木直人)が司会のワイドショー番組『ザ・プレミアムワイド』は、恭子を完全に「犯人あつかい」して追いつめます。その結果が恭子の自殺でした。

恭子への執拗な取材を行っていたディレクター・井出正弥(杉本哲太)は現在、『ザ・プレミアムワイド』のプロデューサー。しかし、番組を牛耳っているのは人気キャスターとして君臨する百々瀬のようです。

また慶介は、第1話ですでに「事件の真相の鍵を握る姉妹」に接触していました。かなり早い展開です。姉は美術館の学芸員・小河原雪子(栗山千明)、妹は若葉(いつの間にか18歳の橋本環奈)。慶介は2人に別々の偽名を教えていて、特に雪子との関係を深めようとしています。この辺りも、やはり『戦争』シリーズを想起させますね。

新たなダークヒーローの登場

近年の亀梨さん主演のドラマには、深田恭子さんが亀梨さん演じる年下のダンサーと恋に落ちる『セカンド・ラブ』(15年、テレビ朝日系)や、「ヤンチャな怪盗」を演じた『怪盗山猫』(16年、日本テレビ系)などがありました。

特に後者の亀梨さんは、悪いやつから金を盗むだけでなく、悪事も暴いてしまうダークヒーロー。それでいて、仲間の里佳子(大塚寧々)や勝村(成宮寛貴)や真央(広瀬すず)などといる時の山猫は、まるで手のつけられない悪ガキみたいな青年でした。

この増幅キャラのおかげで、山猫の本性は容易につかめません。また途中までは謎だらけで、誰と誰が裏でつながっているのか、その意外性も物語を刺激的にしていました。

今回の亀梨さんは、感情を表に出さず、内なる怒りをエネルギーに生きる主人公を、しっかりと造形しています。

復讐のためならどんなこともいとわない意志と実行力。その一方で、復讐の果てにあるはずの“荒野”というか、“虚無”というか、深い絶望が待っていることも、どこかで覚悟しているような雰囲気をまとっています。新たなダークヒーローの登場と言えるでしょう。

「これがあなたのファイナルカットです」

最初のターゲットは井出(杉本)でした。慶介は、井出を撮影した映像を編集し、その「ネガティブな実像」を強調するような内容に仕立てたものを本人に見せて、自分がやったことの痛みを突きつけます。

実際、テレビにおいては、それなりの「印象操作」が可能です。母親を「映像」で死に追いやった相手を、同じく「映像」で追い詰めていくところが見せ場でした。

慶介の決め台詞は「これがあなたのファイナルカットです」。普通、「ファイナルカット」は映像作品の最終編集版、もしくは、これ以上は手を加えない完成版といった意味合いで使われます。このドラマでは、井出など復讐対象者が最後にさらす「究極の実像」、その「無残な姿」などを指しているようです。

前述のように、『ザ・プレミアムワイド』はワイドショーです。番組自体が「正義の味方」となり、慶介の母・恭子を殺人犯として視聴者に提示し続けました。実際にはどうだったのか。真犯人はいるのか。それはどんな人物なのか。といった疑問は、今後徐々に明かされるはずです。

次に「ワイドショー」というものについて、少し考えてみたいと思います。

ワイドショーの特色

ワイドショーを作っているのは、報道のプロである報道局ではなく、制作局です。報道局であれば、「曖昧」なために取り上げないか、「躊躇」するであろうネタであっても、<疑惑>という形で放送することがあります。

また、報道局では常識であるはずの「裏取り(事実確認)」や、「取材手順の遵守」が十分ではないことが多い。基本は、良くも悪くも“視聴者目線”です。

最近の視聴者は「自分以外の人間が不当に得をしている」という不公平に敏感ですから、不正に対する「正義感」を前面に押し出した報道は、視聴者の支持を得やすい。ドラマの中の『ザ・プレミアムワイド』もそうですね。

テレビ取材では、話した内容を、取材側が自由に編集し、意味付けを行います。結果、放送内容が、実際に話した内容や全体の文脈を意図的に捻じ曲げ、視聴者に誤解を与えるような「仕上がり」だったりすることがあります。

皆が知りたいと思うこと、サプライズがあること、画があること、そして独占的映像(スクープ)があれば最大限に生かそうとするのは、ワイドショー最大の特色でしょう。

整理すると・・・

●テレビは、論理的なメディアではない。

●テレビは「印象」を伝えるメディアである。

●テレビは「想定した構図」「ストーリー」に沿って作られる。

●テレビは、いわば「はめ絵」である。

●テレビでは、撮られたもの全てが取材側の「素材」となる。

「内容のわかりやすさ」と「整理」の仕方、映像と音で伝わる「見た目のわかりやすさ」が、ワイドショーの基本です。それが間違った方向で駆動された場合、慶介の母親のような悲劇が起きることもあるのです。

今後の展開

今後の『FINAL CUT(ファイナルカット)』は、当然、慶介の復讐が続くことになります。『ザ・プレミアムワイド』の百々瀬キャスター(藤木)。ヤリ手ディレクターの真崎久美子(水野美紀)。12年前はADで、現在はディレクターの小池(林遣都)。

他にも女児殺害事件の鍵を握るという雪子(栗山)と若葉(橋本)の父親で、弁護士の小河原達夫(升毅)。さらに、かつて事件を担当していた刑事で、警察官になった慶介の上司でもある新宿中央署副署長・高田(佐々木蔵之介)も何やら怪しい。

慶介は、複数のターゲットに、それぞれどんなアプローチで復讐していくのか。その復讐の過程で、慶介の中にどんな変化が起きるのか。そして復讐の果てに何を見るのか。さらに、テレビというメディアの「暗黒面(ダークサイド)」がどこまで描かれるのか。注目したいと思います。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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