Yahoo!ニュース

マスクなしで友達と一緒に過ごせる夏へ  米国では12歳から15歳もコロナワクチン接種開始

片瀬ケイ在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー
12歳から15歳へのワクチン接種を公開審議するCDCの諮問委員ら。(筆者撮影)

12歳から15歳にもコロナワクチン接種

 米国では12歳から15歳を対象とするファイザー/ビオンテック製の新型コロナワクチン接種が始まった。5月10日に米食品医薬品局(FDA)が緊急使用許可の対象拡大を発表し、12日には米疾病対策センター(CDC)のワクチン諮問委員会(トップ写真)も使用を推奨した。これにより米国に住む約170万人の12歳から15歳のティーンたちも、コロナワクチン接種が受けられることになった。(注1)

 ファイザー/ビオンテック社は、昨年10月から2260人の12歳から15歳を対象に、半数がワクチン、半数が生理食塩水の注射を受けて結果を比較するというランダム化比較による臨床試験(治験)を実施した。その結果、生理食塩水のグループでは18人が新型コロナウイルスに罹患したが、ワクチン接種を受けたグループではだれも罹患しなかったことから、100%の有効性が示された。

 すでに16歳以上に実施されているワクチンと同量のワクチンを、21日間隔をあけて、2回接種する。治験での副反応報告も、16歳以上と同じ傾向で注射部位の痛み、頭痛、疲労感、発熱、筋肉痛などで、1-3日でおさまる軽度から中度のもの。死亡を含む深刻な副反応は見られなかった。

 一般的に子供は新型コロナに感染しても無症状か軽症という傾向が高かった。CDCによれば、これまで米国では12歳から17歳の子供では150万人以上が新型コロナに感染したという。ただし入院が必要なほど重症化したのは772人で、死亡は127人と少ない。(注2)

 それでも、2009年から2010年に猛威を振るったH1N1(新型インフルエンザ)の時よりも入院率は高く、2020年は新型コロナが子供の死亡原因のトップ10に入ったという。新型コロナへの罹患で、まれに全身に炎症が起きる「小児多系統炎症性症候群」を発症し、死亡につながることもある。また様々な変異株が出現しており、子供の重症化が増えていく可能性もある。

米国小児科学会も推奨

 12日のワクチン諮問委員会には多数の小児科医、感染症医らが委員として参加し、5時間あまりにわたる審議はすべてライブ動画で公開された。この審議会で、米国小児科学会も12歳から15歳へのコロナワクチン接種を支持する声明を発表。同学会のビアース会長は、「パンデミックの間、様々な経験をする機会を奪われた子供たちの多くが精神的な打撃を受けました。ワクチン接種で子供を守り、学校やスポーツ、家族や友達と交流を十分に楽しむことが可能になります。これは子供の健康や発達にとって重要なことです」と述べている。(注3)

 米国の子供たちは、5月末から8月下旬まで長い夏休み。この間、多くの子供たちが様々な体験プログラム(サマーキャンプ)に参加して、興味の分野を広げたり、新しい友達を作ったりする。だがこの1年間は、コロナ禍で学校もサマーキャンプもなく、家でこもりっきりだった子供が圧倒的に多い。今年はサマーキャンプに行ったり、旅行に行ったり、早く友達に会ったりしたいと、ワクチン接種に積極的な子供も少なくない。

 5月13日現在、米国ではすでに18歳以上の58.9%が少なくとも1回のコロナワクチン接種を受けている。ピーク時には全米で1日400万回の接種をしていたが、この数週間は接種希望者が減ったために1日に200万回程度にスローダウンしていた。様々な理由で「ワクチンを接種したくない」という市民は、2割以上いる。自分は接種を受けても、子供へのワクチンは不安という保護者も多いだろう。

 CDCの調べによれば、市民が信頼する相手は政府の衛生当局の代表者ではなく、かかりつけの医師やいつも利用している薬局の薬剤師。このため大規模接種会場だけでなく、できるだけ多くの小児科医や家庭医、薬局で説明を受けながらワクチン接種が受けられる体制づくりを急ぐ予定だ。またワクチンに対する疑問を解消できるよう、様々なメディアを使って啓発キャンペーンを行うという。

ワクチン接種でマスクにさよなら

 CDCでは国内外の新型コロナワクチンの使用実績や効果、安全性など様々なデータを継続的にモニターしている。その結果、コロナワクチンは発症や重症化を防ぐだけではなく、感染予防に対する効果も明らかになりつつある。たとえばイスラエルでの研究の予備データによれば、ファイザー/ビオンテック製のワクチンを接種した人は、コロナに感染しても未接種の人と比べ、ウイルス量が4分の1以下だったという。ウイルス量が多いほど、感染させやすくなるので、ワクチンは接種した本人だけでなく、感染拡大の予防にも役立つ可能性を示唆している。(注4)

 CDCはすでに、2回のワクチン接種を完了した人(2回目接種から14日経過した人)は、感染リスクが低いとして戸外でのマスクは不要との指針を出している。そして5月13日には、バスや飛行機などの交通機関、病院など特定の場所を除いては、「ワクチン接種完了者は室内でもマスクは不要」という指針変更を発表した。屋内のレストランはもちろん、コーラスで歌っても、運動ジムでもマスクなしでOK。

 また渡航の際も、相手国が義務付けていない場合は、ワクチン接種を完了した人であれば出発前にコロナの検査を受ける必要はなく、海外から米国に戻った時も自主待機期間を設けなくていいそう(注5)。子供たちにとっても、マスクなしで再び友達と遊べる夏が近付きつつある。

参考リンク

注1 若年へのファイザー/ビオンテック製造のコロナワクチン使用許可について(英文リンク、FDAプレスリリース)

注2 5月12日ワクチン諮問員会での各種発表資料(英文リンク、CDC)

5月12日ワクチン諮問委員会に関するウェブページ(英文リンク、CDC)

注3 米国小児科学会(AAP)12歳以上に新型コロナワクチン接種を要請 (英文リンク、AAPプレスリリース)

注4 ワクチンの有効性を示す様々な最近のデータ(英文リンク、CDC)

コロナワクチンは発症だけでなく感染も予防する、わかり始めた大きな効果(ナショナルジオグラフィック 日本語記事)

注5 コロナワクチン接種を完了した人へ:最近の変更(CDC 英文リンク)

図でみる指針:ワクチン接種済み(右側)はマスクなしで戸外、室内の活動をしてもほぼ安全(CDC 英文リンク)

在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー

 東京生まれ。日本での記者職を経て、1995年より米国在住。米国の政治社会、医療事情などを日本のメディアに寄稿している。2008年、43歳で卵巣がんの診断を受け、米国での手術、化学療法を経てがんサバイバーに。のちの遺伝子検査で、大腸がんや婦人科がん等の発症リスクが高くなるリンチ症候群であることが判明。翻訳書に『ファック・キャンサー』(筑摩書房)、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓』(ちくま新書)、共訳書に『RPMで自閉症を理解する』(エスコアール)がある。なお、私は医療従事者ではありません。病気の診断、治療については必ず医師にご相談下さい。

片瀬ケイの最近の記事