大ケガ、急病人を前に冷静に行動できる?:仮面ライダーエグゼイド「慌てぶりがリアル」
大切な人が相手でも、緊急事態に動けなくなることはある。それはなぜか、ではどうすれば良いのか。あなたも、小さなヒーローになるために。
■『仮面ライダーエグゼイド』。リアルで、そしてぐっときた話題のシーン
テレビドラマ『仮面ライダーエグゼイド』の話題が、いつも以上にネットで盛り上がっています
■ツイッター上の声
「ニコちゃんが、大我が血吐くの見て怖がってるのめっちゃリアル」
「ニコちゃんの慌てぶりがすごくリアルだった。」
「駆け寄って揺さぶって声掛けてたけど、吐血した途端身を離してパニックになってたニコちゃんのあのリアクションがリアルで泣いた。」
「花家先生が吐血したときニコちゃんが腰抜かすっていう一歩引いてしまってたところがすごくリアルでウッ…ってなった…」
「医者と看護師の三人がテキパキ冷静に職務をこなす傍らニコちゃんが憔悴し過ぎて泣き叫ぶしか出来ない所がリアル過ぎて私も慟哭してる」
■援助が必要な緊急事態ほど援助行動はしにくい
このシーンは、ファンのみなさんの心を強く動かしたようですね。さて、ここでは『仮面ライダーエグゼイド』について熱く語るのではなくて、「けが人を前に冷静に行動できる?」を考えて見ましょう。
ケガでも大事故でも、大変なことが起きたとき、人は動けなくなることがあります。
たとえば、私が大学構内を両手でたくさんの荷物を抱えて歩いていたとしましょう。そのとき、私が小さな荷物をひとつ落としたとします。そうすると、偶然通りかかった学生が、きっと親切に拾ってくれるでしょう。気のきく学生なら、「お手伝いしましょうか」と声をかけてくれるかもしれません。
でも、私が教室内を机間巡回(机の間を教師が歩くこと)しているときに、とつぜん口から真っ黒なものを吐きながら、もんどりうって倒れたとします。ばったり倒れて意識がありません。もしそんなことがあったら、教室中は凍りついたようになるでしょう。
子どもが転んで泣いているときには、声をかけて、汚れた服の泥を払ってあげたりできますが、転んだ子どもがガラスにつっこんで大怪我、大量出血といったことになれば、迅速な行動は起こしにくいでしょう。
こういうことが想像できるので、仮面ライダーのこのシーンも、「リアル」だとみなさん感じたわけです。それは、ニコちゃんのような若い女性だけではないでしょう。男性でも年配者でも同じだと思います。
人間は、決して心が冷たいわけではないのですが、人が最も助けを求めている場面で、助けられないことがあるのです。相手が愛する人や大切な家族だからこそ、かえって動けなくなるときもあるでしょう。
■なぜ助けられないか:頭が真っ白?
たとえば、目の前に突然全裸の人が現れて走り去るといったことを目撃した人の中には、びっくりしすぎて何もできない人がいます。あとで、どんな人だったかと質問されても、顔などまったく覚えていないこともあります。
あまりに予想外の事が起きると、頭の中の情報処理が追いつかず、通常の感情や行動、記憶ができなくなることがあるのです。
あまりにショッキングな出来事が起こると、その悲しみや恐怖を心が受け止められず、心にふたがされることがあります。本当は嘆き悲しんで大泣きしてよい場面で、ぼんやりと立ちすくむような状態です。
■なぜ助けられない:助ける方法がわからない?
社会心理学の研究によれば、人が誰かを助ける行動を起こすためには、心の中で次のようないくつかのステップが必要だといわれています。
何かが起きていると気づく→緊急事態だと判断する→自分に助ける責任があると判断する→助ける方法を思い起こす→コストを考える(お金のことだけではなく、危険性とか負担などが許容範囲内かを考えます)→援助行動の実行。
このステップのどこかでつまづくと、心はやさしくても、援助行動は実行できません。
大したことない場面であれば、助ける方法はすぐに思いつきます。助けるための心理的コストも小さいものでしょう。そこですぐに人助け行動が生まれます。
ところが、大変な事態が起こると、どうすれば良いかがわかりません。大変なことになっている人に触れて何かをすることは、心理的コストも大きくなるでしょう。そこで、立ちすくむことになるわけです。
■人助けができるために
そこで必要なのが、事前の知識と訓練です。
アメリカで、ある芸能人の息子がプールで溺れませした。助けだ出しましたが意識がありません。父親は、救急車を呼ぶと同時に、以前研修を受けた蘇生術に関する知識がはっきりとよみがえったといいます。父親は迅速な行動がとれ、無事に息子の命は助かりました。
緊急事態にどうすれば良いのかを、事前に学び訓練を受けていることは大切です。こんな研修や訓練なんか、いざとなったら役に立たないという人もいますが、大いに役に立つこともあるでしょう。
溺れそうになったときの「浮いて待て」や、AED(自動体外式除細動器)の使い方講習などです。今の子ども達の多くは、学校で着衣水泳を経験したり、「浮いて待て」の練習をしたり、救急隊によるAEDの講習を受けています。困っている人に対する様々な援助方法を知っておくことは大切です。
AEDの研修では、ロールプレイングを行います。「ここに倒れている人がいます」と大声を上げて人を集めます。「あなたは、119番をしてください」「あなたはAEDを持ってきてください」と周囲の人に指示を出します。そして練習用の人形の胸部圧迫を行い、AEDが届いたら、説明書にしたがって使ってみるという形です。
人は、助けたい気持ちはあるのにどうしたらよいかわからずに動けません。そんな時誰かが、「あなたは○○してください」と明確に指示を出せば、人は動くのです。
困っている人の周囲にいる人が、みんなドラマのような大活躍をするわけではありません。でも、様々な援助方法を知っておくと、その人なりに何かできるでしょう。少なくともただの邪魔な野次馬や、ただ立ちすくむだけの人にはならずに済むでしょう。
たとえば女性にAEDを使うときは、本人の意識はないし、命がかかっているのですから、恥ずかしいといったことは後回しでしょうが、でも協力しようと思う人達が後ろ向きになって手を組んで人間の壁を作ってその女性を取り囲み、野次馬の目から守ることもできます。これもりっぱな人助けです。
■私も正義の味方のヒーローに
医師や看護師は、訓練を受けているので緊急事態に対応できます。テレビに出てくる正義の味方も、日々の訓練を欠かさないでしょう。
「仮面ライダー」は、ウルトラマンとは違って巨大化しません。スペシューム光線も出しません。初代仮面ライダーのときから、ドラマで起きる事件も、怪獣映画と比べれば等身大で身近でリアルな事件が起きます。その事件を仮面ライダーと仲間達が協力して解決するのが、基本ストーリーでしょう。ここに、巨大化ヒーローとはまた違う人間味ある魅力を感じるのかもしれません。
私達は仮面ライダーに変身はできませんが、事前の学習と訓練によって、困っている人を助ける小さなヒーローにはなれるかもしれません。
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補足:読者のご指摘により、巨大化する仮面ライダー(仮面ライダーJ)もいると知りました。ご指摘、ありがとうございました。7.3 18:00
「原作者の石ノ森章太郎も仮面ライダーの巨大化案には反対であり、そのためにJの巨大化シーンは決定稿ギリギリまで入っていなかった。最終的に「Jの巨大化は地球に未曽有の危機が訪れた時にのみ、大地の精霊たちがJに全ての力を注ぐことで初めて可能となる奇跡の形態であり、Jの基本的な能力ではない~」(ウィキペディア)