エヌビディア、次世代半導体で製造上の課題に直面か チップサイズ拡大は技術的な困難伴う
米エヌビディア(NVIDIA)が、次世代GPU(画像処理半導体)「Blackwell(ブラックウェル)」で製造上の課題に直面していたことが分かった。米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じた。量産の遅延やコストの上昇につながる恐れがあったとみられている。その詳細を簡潔に解説する。
Nvidia’s Future Relies on Chips That Push Technology’s Limits
https://www.wsj.com/tech/nvidias-future-relies-on-chips-that-push-technologys-limits-bd3839fc
サイズは現行Hopperの2倍、製造技術複雑に
エヌビディアが2024年11月〜2025年1月の量産開始を目指している「Blackwell B200」は、現行のAI(人工知能)向けGPU「Hopper H100」と比べてサイズが約2倍の40mm四方になる。集積するトランジスタ数は2080億個である。だが、既に現行のHopperでチップ製造のサイズ限界に達していた。そこで同社は、最大サイズのチップを2つ組み合わせて1つのチップにするという、これまで行われていなかった手法に挑戦している。
しかし、これにはチップを接合するための技術の複雑さといった問題を克服する必要がある。各チップは、ほぼ完璧に製造しなければならず、いずれかに欠陥があると致命的な結果を招く恐れがある。部品が多くなるほど、そのリスクも高まる。さらに、これらの部品から発生する熱は、パッケージ内の異なる材料を異なる速度で変形させ、ひずみを生じさせるリスクがある。
「極小の回路が絡む一連の難題でありながら、収益に多大な影響を及ぼす可能性がある」とWSJは指摘する。重大な欠陥があれば、1個4万ドル(約585万円)のBlackwellが使えなくなり、歩留まりの低下につながる。
Blackwell、24年11月にも量産開始
Blackwellの生産体制については、一部報道で遅延が伝えられていた。だが同社は先の決算説明会で、24年5〜7月期にサンプル出荷を始めたと明らかにした。CFO(最高財務責任者)のコレット・クレス氏は、「量産を25会計年度第4四半期(24年11月〜25年1月)に開始し、同四半期の売上高に数十億ドル(数千億円)規模の貢献が見込まれる」と説明した。
NVIDIA Announces Financial Results for Second Quarter Fiscal 2025
https://nvidianews.nvidia.com/news/nvidia-announces-financial-results-for-second-quarter-fiscal-2025
また、ジェンスン・ファンCEO(最高経営責任者)は、「Blackwellの歩留まりを向上させるために設計を変更したが、チップの機能的な変更は必要なかった」と説明し、懸念の払拭を図った。
材料在庫引当金の影響で粗利益率低下
一方、スイス金融大手UBSのアナリストは、「エヌビディアがBlackwellで直面している主な問題は、同社製品の大部分を製造する台湾積体電路製造(TSMC)の新しいチップ接合技術の複雑さにある」と指摘した。
サイズ拡大によって必要となった新しいアプローチでは、製造技術の複雑さや、信頼性と性能に影響を及ぼす変形などの新たな課題が生じたと、アナリストらは述べている。その一方で、「時間の経過とともに歩留まりが上昇することで、25年には計画通りチップを生産できるようになるはず」とも述べている。
エヌビディアの25会計年度第2四半期(2024年5〜7月)の売上高は前年同期から約2.2倍、純利益は約2.7倍となり、いずれも過去最高を更新した。
だが、同四半期の売上高総利益率(粗利益率)は75.1%に低下した。前四半期は78.4%だった。Blackwellの材料在庫引当金(9億800万ドル、約1300億円)の影響があったとみられる。これらの要因により、同社株は決算発表翌日に6.4%下落した。
筆者からの補足コメント:
エヌビディアの25会計年度第2四半期(2024年5〜7月)決算は、売上高が300億4000万ドル(約4兆3900億円)、純利益が165億9900万ドル(約2兆4300億円)でした。本稿でも述べた通り、売上は前年同期比約2.2倍、純利益は約2.7倍で、いずれも過去最高を更新しました。ただ、好調な決算発表にもかかわらず、同社株は下落しました。その理由として、①過去1年間のような成長ぶりが見られなかったこと、②売上高見通しについて一部の投資家が失望したこと、などが指摘されています。例えば①について、同社の純利益は過去4四半期、9倍、14倍、3.7倍、7.3倍と推移していましたが、今回は2.7倍です。そうした中でもファンCEOは「生成AIが進んでいる方向性は非常に多様であり、実際に勢いが加速しているのを目の当たりにしている」と自信を示していました。
- (本コラム記事は「JBpress」2024年9月10日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)