ジャパンカップへ向け、果たしてアーモンドアイ陣営の本音はいかに?!
圧倒的名強さで制した牝馬3冠
「先週より良い? ん〜。同じくらい。先週は我慢させたけど今週は行かせました。それだけの差。状態は先週の時点でもう良かったです」
11月21日の美浦トレーニングセンター。アーモンドアイの追い切りに跨ったクリストフ・ルメールはそう言って微笑んだ。
桜花賞、オークスに続き秋華賞も制覇。JRA史上5頭目となる牝馬3冠馬となったアーモンドアイ。今週末に行われるジャパンカップ(G1、東京競馬場、芝2400メートル)に出走を予定している。
圧倒的な強さで牝馬3冠を達成したアーモンドアイだが、今週末に臨む壁は決して低くない。初めて対戦する古馬。それも牡馬の一線級。外国から遠征して来たG1ホースもいて、これまで同様のパフォーマンスを披露出来るかは未知数だ。
しかし、それでもどうやら1番人気に支持されそうなムードが漂う。それだけ3冠の勝ち方が衝撃的だったのだ。
管理するのは美浦で開業する調教師の国枝栄。過去にアパパネで牝馬3冠を制覇した事もある伯楽だが、普段はあまり自分の馬のレースを見直さないと言い、更に続ける。
「でもアーモンドアイのレースは何度見直したか分からない。追い込んで来たと思ったら最後は突き抜けて完勝してくれる。ドキドキハラハラしてやっとのことで前を捉まえるのではなく、終わってみれば楽勝している。見ていて楽しくなるので何度も見直してしまうよ」
3冠制覇がかかった秋華賞の前も、全く心配することはなかったと語り、当時の自信度を先輩3冠馬の名を借りて続ける。
「アパパネも素晴らしく強い馬だったけど、彼女は不思議と前哨戦は毎回負けてしまいました。だから一抹の不安もあったけど、アーモンドアイは勝ち方が半端じゃないですからね。普通に仕上げて普通に走ってくれればまず負ける事はないだろうという気持ちで見ていられました」
実際、その算段に誤りはなく、ただ1頭次元の違う脚で3冠をぶっこ抜いて見せた。
「ちょっと届かないかと思ってハラハラしました」
秋華賞のレース直後にそう語ったのはルメールだ。
「勝負どころで前との差をもう少し詰めておきたかったけど、すぐ前にいた馬の手応えが今ひとつで、差が開いたまま終盤に入りました。だから少しハラハラしたけど、追い出したら凄い瞬発力で一気にかわしてくれました」
今度は満面の笑みでそう語った。
いざジャパンカップ。自信のほどは……
その切れ味に自信のほどを窺わせるのが国枝だ。
「ラスト3ハロンくらいの脚は3歳だろうが古馬だろうが、牡馬だろうが牝馬だろうが目安になる数字にそれほど大きな差はありません。アーモンドアイの叩き出すラップなら古馬牡馬に混ざっても充分に通用するはずです」
ルメールも首肯して、後を引き取る。
「乗っていて充分に通じる力があると感じています。この馬はたぶん現在、日本一強い馬の1頭です」
冒頭で記したように直前の最終追い切りではルメールが追うと併せた相手を捉え、一気に5馬身突き放した。その相手馬とて準オープンの馬(ウォリアーズクロス)なのだから、決して走らない馬というわけではない。それだけアーモンドアイの動きが凄まじかったと言うことだ。
「まるでスーパーカー。アクセルをふかした途端にギュンと伸びた感じです。素晴らしい牝馬です」
ルメールはそう言うと、冒頭に記した言葉を続けた。
「出走態勢は整いました」
そう語る国枝に、引っ張る馬が不在のスローペースで末脚不発になる怖さを感じないのか?と問うと、微笑まじりに答えた。
「あまりそういう想像は出来ません。前は綺麗に捉まえてくれると信じています」
では逆に、好発を決め掛かってしまい、末脚が鈍る可能性はないか?と聞くと、次のように答える。
「中間はとても落ち着いています。オークスみたいにポンと出たとしても、それで掛かってしまう事はないと思います。最悪でも番手で落ち着いてくれるでしょう」
話を伺う限り、指揮官の頭の中には先頭でゴールを駆け抜ける彼女の姿しか浮かんで来ないようだ。
「レースは今まで通り。同じ結果を繰り返してくれる事を信じています!!」
未来の事は誰にも分からない。まして競馬は何が起こるか分からない。しかし、国枝とルメールには、11月25日、午後3時40分過ぎに開く扉の向こうに何があるのかがハッキリと見えているようだ。果たして未来を観るその目に誤りがないか、否か。答えはアーモンドアイだけが知っているのかもしれない。
(文中敬称略、写真提供=平松さとし)