タリバンと握手する中国、だが心の中は「薬物汚染」に戦々恐々
イスラム主義組織タリバンが権力を掌握したアフガニスタンについて、隣国・中国はタリバンとのパイプ維持を続け、「再建に向けて建設的な役割を果たしたい」と強調している。ただ、アフガンの混乱を契機にした中国側への麻薬流入が懸念されており、当局は「中国の安全保障上の課題」として神経を尖らせている。
◇ヘロイン、アヘンの世界の8割
国連の資料などによると、世界に流通しているヘロインやアヘンの8割がアフガンで供給されている。
アヘンは、ケシの未熟果から乳液状の物質を採取して乾燥させることでできあがる。そのアヘンを精製すればモルヒネができ、さらにモルヒネに科学的加工を施せばヘロインとなる。ケシは安くて簡単に栽培できるため、アフガンの農産物全体の半分を占めている。これらの取引によってアフガンには2019年に12億~21億ドル(1317億~2300億円程度)の収入があったとされる。
タリバンは長年、薬物取引を取り仕切る。支配地域のケシ栽培農家から徴税して反政府活動の資金源にしてきたとされ、その税収だけで昨年約4億6000万ドル(505億円程度)を稼いだといわれる。近年はタリバン自らが工場を運営し、輸出用のモルヒネやヘロインを生産しているとも報じられている。最近は覚醒剤にも手を広げているという懸念が国際社会に広がっている。
タリバン報道官は今月17日の記者会見で「麻薬の生産も、麻薬の密輸もしない」と宣言した。だがアフガン問題の専門家である中国の朱永彪(Zhu Yongbiao)蘭州大学教授は香港サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)の取材に「国際的な援助が失われ、制裁措置がとられる可能性があるなかで、タリバンが薬物取引をなくすという公約を守るのは難しい」とみる。
◇「中国がアフガン農家に支援の可能性」
中国とアフガンの国境線は、アフガン・ワハーン回廊の端と、中国のイスラム教徒が多い新疆ウイグル自治区との間にある。アフガンの薬物はかつて同自治区に直接、あるいは隣国パキスタン経由で、中国側に持ち込まれていたといわれる。国際問題専門家の汪金国(Wang Jinguo)蘭州大学教授は国営新華社通信に「米国撤収後、アフガンからの麻薬が再び中国に流入するのを防ぐため、中国の麻薬対策機関は細心の注意を払う必要がある」と警告する。
SCMPによると、アフガンの北側に位置する中央アジア諸国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)は麻薬取引に依存しており、これが中国の脅威になっているという。中国の専門家は「この問題に対処するため、中国はアフガンの農家に、ケシに代わる作物を栽培するよう支援する可能性がある」との見方を示す。
麻薬のまん延により、中国を含む近隣諸国の安全が脅かされ、その結果、中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」、つまり中国の国益に影響が出るという危機感が募る。
◇「政治的解決がアフガン問題の唯一の策」
中国は米国との対立を背景に、ここ数年、タリバンとの関係を深めている。
今年7月には中国の王毅(Wang Yi)国務委員兼外相が天津でタリバンの対外交渉責任者であるバラダル師と会談。王毅氏が「タリバンはアフガンにおいて極めて重要な軍事的・政治的勢力」と持ち上げると、バラダル師は「中国は常にアフガン国民の信頼できる良き友人」とたたえた。
中国としては、米国撤収後のアフガン再建で主導権を握りたい考えだ。多くの西側諸国が首都カブールの大使館を閉鎖して外交官を撤退させたのとは対照的に、中国はロシアとともに大使館を維持している。汪文斌(Wang Wenbin)外務省副報道局長は25日の定例記者会見で、カブールにとどまる王愚(Wang Yu)駐アフガン大使がタリバン側と接触したことを明かしたうえ、こう強調した。
「中国はアフガンの主権と独立、完全な領土を尊重し、内政不干渉の政策に従ってアフガンのすべての人々に対する友好政策を堅持する」
現時点で、中国はタリバン主導の政権樹立を承認しているわけではない。ただ「中国は(タリバン主導の)アフガンが自力で発展する能力を強め、国民生活を改善することを支援したい」(汪文斌氏)との立場を明らかにしており、経済再建を支援することで、欧米諸国との違いを鮮明にする考えだ。