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逆転劇生んだバルセロナの3-4-3への追憶 ユーヴェ、レアルとの大一番で問われる真価

森田泰史スポーツライター
奇跡の主役となったメッシとネイマールは勝利の喜びを分かち合った(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

バルセロナのパリ・サンジェルマン撃破には、世界中のサッカーファンが驚かされた。だが奇跡の舞台裏に、バルセロニスモ(バルセロナ主義)のノスタルジーが隠されていたことを知る人は少ないかもしれない。

バルセロナは、チャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦ファーストレグでパリ・サンジェルマンに0-4と敗れた。敵地パルク・デ・プランスでの、まさかの大敗。バルセロナ寄りのスポーツ紙『ムンド・デポルティボ』『スポルト』でさえ、「Desastre(デサストレ、惨劇の意)」と題して地元の英雄たちを叩いていた。

過去60年のCL(前身のチャンピオンズカップ時代含む)の歴史で、1stレグを0-4で落としたラウンド突破を決めたチームはなかった。何かを変えなければいけない。ルイス・エンリケ監督は強くそう感じたことだろう。そして、指揮官の中である決意が芽生えた。それが3-4-3の採用である。

かくして、3-4-3で挑んだパリ・サンジェルマンとのセカンドレグの結果は出来過ぎだとさえ表現できるものだった。本拠地カンプ・ノウで、6-1の大勝。バルセロナは歴史を覆して見せたのだ。

■バルセロニスモの心を揺さぶる3-4-3

3-4-3は、バルセロニスモにとって特別な意味を持つシステムだ。1990年代初期、故ヨハン・クライフ氏に率いられたバルセロナは、オランダ人指揮官の下でこの布陣を敷き、大衆に攻撃フットボールとスペクタクルを提供しながらリーガエスパニョーラ4連覇の偉業を成し遂げた。1991-92シーズンには、決勝戦のロナルド・クーマンの劇的なゴールにより、クラブ史上初のチャンピオンズカップ優勝に輝いた。

初めて欧州の頂に立った、“エル・ドリームチーム”と称されたチームの代名詞。それが3-4-3なのである。これだけでも、バルセロニスモの追憶を刺激するには十分だ。だが近代フットボール史に刻まれるバルセロナの第二次黄金期において、再びこのシステムは注目を浴びることになる。

■“エル・ドリームチーム”と“ペップ・チーム”

ジョゼップ・グアルディオラ監督(現マンチェスター・シティ)のラストシーズンとなった2011-12シーズン、彼は3-4-3に固執した。クライフ政権下でチームの心臓部を担う「4番」を託された細身の男は、攻撃に重心を傾けるリスクを嫌というほど知りながらも、このシステムの魅力に憑りつかれた。

そのシーズンのリーガの前半戦で、このシステムを採用した“ペップ・チーム”は9戦7勝2分けと無敗を誇った。当時の中心メンバーであるDFジェラール・ピケ、ハビエル・マスチェラーノ、MFセルジ・ブスケッツ、アンドレス・イニエスタ、FWリオネル・メッシといった選手たちは今もルイス・エンリケ監督の下で主力であり続けている。彼らに、3-4-3への抵抗感はないと言えるだろう。

ペップ・チームと現チームの大きな違いは、当時「ファルソ・ヌエベ(ゼロトップ)」として前線のセンターに位置していたメッシが、現在はトップ下に配置されていることだろうか。ネイマール、ルイス・スアレスという南米屈指のアタッカーを携え、メッシはその創造性を如何なく発揮して新たな3-4-3の「10番」を大いに楽しんでいる。

■巻き起こる議論とジレンマ

3-4-3は、パリ・サンジェルマン戦で奇跡を起こすための「応急処置」かと思われた。だが指揮官の采配が功を奏し、バルセロニスモの心をつかむ布陣で結果が付いてきたことにより、新たなジレンマが生まれているのも確かである。

また、このシステムを敷いた際に、露骨に犠牲となる選手も出てきている。DFジョルディ・アルバが、その典型だ。今季、前半戦で左SBの定位置を確保していたスペイン代表DFは、L・エンリケ監督が3-4-3にシフトチェンジして以降、わずか459分(全体の51%)のプレータイムを得るにとどまっている。

だが8日に行われたリーガ第31節、4-3-3でアウェーのマラガ戦に挑んだバルセロナは0-2と苦杯を喫した。この敗戦で、再び3-4-3への信頼感が高まりつつある。

バルセロナは11日にCL準々決勝1stレグでユヴェントスと対戦する。そして23日には、リーガ優勝のためには絶対に落とせない一戦、レアル・マドリーとのクラシコが控えている。大一番でも、L・エンリケ監督は3-4-3で戦うのか。バルセロニスモが信じるシステムの真価が問われることになりそうだ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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