なぜ経営者たちは「ワークライフバランス」という言葉に違和感を覚えるのか?
経営者たちの悩みは「ワークライフバランス」ではなく「業績」
私は企業に入り込んで目標を絶対達成させるコンサルタントです。実際にコンサルティングして結果を出すので、多くの企業経営者から相談を受けます。経営者や幹部、マネジャーの悩みのダントツ1位は「業績」。業績を安定化させたい。それもコストカットによる収益改善ではなく、本業での儲け(売上)をアップして利益を出したい、と経営者や幹部たちは考えています。
人間の欲求レベルにはいろいろな階層がありますが、「安心・安全の欲求」は低い階層の欲求です。つまり「安心・安全の欲求」が満たされないと、人間の根源的欲求が満たされず精神的な余裕がなくなります。経営者は一隻の船の船長。大海原を航海するうえで、船が故障していたら船員の「安心・安全の欲求」は満たされません。船上の生活レベルを整えるより、まずは安全に航海できるようにすることを先決させるのです。
ワークライフバランスを整えるための「手順」
私は経営コンサルタントとして、常に重要視していることがあります。それは「手順」です。何事にも順序があります。同時にいろいろなことに意識をフォーカスしても、一度に改善・改革はできません。すべて掛け声倒れになってしまいます。したがってひとつの改善事項にリソースを集中し、正しく定着するまで見守ってから別のポイントに意識をフォーカスすることが、本気で組織改革するうえで最も重要なことです。
「ワークライフバランス」が大事なのは当然です。いまだに「私はワークライフバランスが大切だと考えている」などと主張する識者や経営者がいますが、そんなことは誰もがわかっていることで、今さら議論するに値しないこと。ただ多くの人、とりわけ経営者が違和感を覚えるのは「物事には順序がある」ということです。
経営者はテレビや雑誌を観すぎてならない
私は、「社員を大事にする」と言って、従業員が掲げる権利・主張を過度に受け止めすぎてしまい、経営を行き詰まらせて会社を倒産させた経営者を何人も見てきました。こういった経営者は、
「従業員が気持ちよく働ける職場を作れば、必ず業績が上向くに違いない」
という幻想を抱いています。申し訳ありませんが、テレビや雑誌の観すぎです。取材などの関係上、私もメディアの対応をしますが、メディアのフィルターにかかった情報は「美しい内容」「綺麗ごと」がとても多いのです。
事実は、
「業績が安定化することによって経営者の心に余裕ができ、そうしてはじめて、従業員が気持ちよく働ける職場を作ることができる」
……です。
まず現業を安定化させるのが最優先です。そうして余裕ができてから労務上の改善をしていく。つまり従業員の「ワークライフバランス」を整えるよう、意識や制度改革に着手するのです。問題なのは業績が安定しているのに、ワークライフバランスを考えない経営者です。従業員の不満解消などそっちのけで、事業拡大を考えるのは今の時代ナンセンスです。
また、業績が不安定なのに「業績が悪いのは知ったこっちゃない。とにかく従業員としての正当な権利を主張する!」と声高に唱えてしまう従業員も、また同じくナンセンス。労務上、明らかにブラック企業的な扱いを受けているのであれば、企業業績など関係なく主張すればよいのですが、「在宅勤務制度」や「育児短時間勤務の拡充」、「ベビーシッター助成金」など、新たに制度を構築しないと活用できないものは、経営者が主体的に動かない限り実現できないことです。当然の権利として主張してばかりいても、経営者は受け入れられません。仕事において期待通りの成果を出していないのなら尚更です。経営者の態度を硬化させるだけです。
「ワークライフバランス」に関するニュースは、従業員サイドの視点から立ったものや、「ワークライフバランス」を実現させて美しい風土を根付かせている経営者の声が大半です。しかし、多くの企業経営者はこの風潮に言い得ない違和感を覚えています。「ワークライフバランス」についてはもちろん理解しているが、だからといってそんなイージーに実現できるものではない、けれどもそれを表立って言えるご時世ではないし……と、もどかしい思いを抱いているのです。
経営者の思いをシンプルに表現すると、
「結果さえ出してくれたら、ワークライフバランスでもなんでも叶えてやるわ!」
なのです。精神衛生上よくないので、まずは安定的に結果の出る組織に変えていきましょう。何よりもまずそれが先決です。