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200年に一人の天才ボクサーが語る「井上尚弥の”スーパー度”」

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
10月7日はどんな怪物ぶりを発揮するのか 撮影:山口裕朗

 WBAバンタム級チャンピオン、井上尚弥vs.フアン・カルロス・パヤノ(ドミニカ)戦まで、残すところ5日となった。

 

 16戦全勝14KOの戦績で3階級制覇中の井上は、今回も圧勝が予想される。しかし、彼は常々「負けることは怖くない」と話す。

写真:山口裕朗
写真:山口裕朗

 

 本コーナーでお馴染み、元WBAジュニアウエルター級1位、同級日本&日本ウエルター級王者だった亀田昭雄に、井上の言葉について訊いてみた。

 「『負けることが怖くない』という井上尚弥の言葉は、トップ中のトップだからこそ吐けるものです。並みの世界ランカーが一度世界タイトルに挑んで負けてしまったら、なかなか2度目のチャンスは与えられない。僕もそうでした。挑戦者っていうのは、そんなもんですよ。

 でも、井上のようなトップ選手は、もし負けても次の試合を組んでもらえます。井上レベルの価値を持つ選手は、まだまだリングに立てるんです」

 井上は達観し、更にこんな風に語る。

 「もし負けたとしたら、今までの練習内容と敗戦後のメニューが変わると思います。負けから色々学ぶでしょう」

 亀田は続ける。

 「繰り返しになりますが、一流選手というのは負けてもリターンマッチを戦えます。モハメド・アリも、ジョー・フレージャーもジョージ・フォアマンもシュガーレイ・レナードも、マイク・タイソンもそうだったでしょう。“終わり”じゃないんですよ。

 ところが下からやっと上がって来た選手は、世界戦で負けると二度とタイトルに挑めない。井上は3階級で世界を獲るところまで自分自身を積み上げた男なんです。そういう井上だからこその発言ですよ。負けたって、『あぁ、●●が通じなかったのか』『それならば〇〇の練習をしよう』と反省して考えられる。だから、負けることが怖くないんでしょうね。僕なんかには、とても言えないですね。負けたらもう、二度と立ち上がれないんだから…」

写真:山口裕朗 公開スパーで、順調な仕上がりぶりを見せる井上
写真:山口裕朗 公開スパーで、順調な仕上がりぶりを見せる井上

 亀田は、井上のリングパフォーマンスだけでなく、同発言にも脱帽していた。

 「井上は日本ボクシング史上、ベストボクサーでありながら、まだまだ伸びしろがあります。伸びている自覚があるから『敗北から学べる』という発想になるんです。100%の自分を作った選手が全力を尽くして負けてしまったら、立ち上がれなくなりますよ。でも井上は、まだMAXという意識が無いんでしょうね」

 亀田はジュニアウエルター級史上最強とされるアーロン・プライア―に挑み、6回KOで敗れた。

「格が違いました。再戦しても勝てないのはわかっていました。でもね、そんな相手に対してだって、試合後、ああすればもっと苦しめられたかな。こうすれば、自分のパンチが当たったかなと思うものです。まだ負けを知らない井上が、“負けから学べる”と把握しているなんて、メンタルも底知れないものを感じますね。10月7日のパヤノ戦はもちろん、井上の将来には、本当に期待大ですね」

 ついに始まるWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)で、井上はどんなMonsterぶりを見せるだろうか。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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