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ハンガリー中銀の資金供給スキームと日銀の量的・質的金融緩和の違い

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

ハンガリー中央銀行は4日、ピンポイントで中小企業の資金繰りを容易にし、また、債務返済負担を軽減することを狙い、同時に景気を刺激するというユニークな金融支援プログラム「成長のための資金調達スキーム(FGS)」の導入を発表した。

一方、この日、奇しくも、日本では日銀の黒田東彦新総裁が就任後初の金融政策決定会合を開き、今後2年間でインフレ率2%の達成を目指すため、長期国債やETF(上場投資信託)、J-REIT(不動産投資信託)の買い入れを大幅に増やすことで、銀行システムへ資金供給規模(マネタリーベース)を2年間で現在の2倍の270兆円に拡大するという大胆な政策を発表した。

しかし、日銀方式ではいくら銀行に2倍もの流動性を潤沢供給しても、肝心の企業にまで資金が流れなければ絵に描いた餅になりかねない。その点、ハンガリー中銀のFGSは直接、ピンポイントに中小企業をターゲットに定めて銀行から資金を供給させるもので、景気回復のカンフル剤として即効性が高い。日銀もこのハンガリー中銀方式を参考にしてもいいのではないだろうか。

ハンガリー中銀によると、FGSは商業銀行を通じて中小企業に5000億フォリント(約2050億円)を上限に資金調達の支援を行うプログラムで、一定期間だけ実施され恒久的なプログラムではなく、いわば1回限りのカンフル剤として実施される。

FGSは2つの制度からなる。一つ目は、中銀は中小企業への融資を行うことを条件にFGSに参加する商業銀行に対し、金利ゼロ%の優遇金利で自国通貨フォリント建ての融資を行う。次に、商業銀行はこの資金を中小企業に対し2%を超えない一定の上乗せ金利で融資する。この貸付制度の上限は2500億フォリント(約1025億円)となっており、国内銀行の企業向け融資全体の4%、また、中小企業向け融資の7%にすぎず、恒久的な制度ではないため、既存の金融資産の価格に悪影響が及ばないようになっている。

二つ目は、中銀は中小企業が外国通貨建ての借り入れをフォリント通貨建てに切り替えることで中小企業の債務負担を軽減させることを狙った制度。これも中銀が商業銀行に対し金利ゼロ%の優遇金利で自国通貨フォリント建ての融資を行うのは変わらないが、中小企業は銀行から借り入れたフォリント建てローンを使って、既存の外貨建てローンを返済する形でフォリント通貨建てローンに切り替える。これも貸し出し上限は2500億フォリント。現在、国内の中小企業1万5000社の外貨建てローンは全体の54%に相当する1兆8600億フォリント(約7600億円)で、外貨建てローンの86%はユーロ、14%がスイスフランとなっている。

同中銀は、FGSよって中小企業の債務返済コストが低下するだけでなく、中小企業の流動性へのアクセスや収益性を高める利点があるという。また、中小企業の債務返済負担が軽減されることで、銀行の中小企業向け融資の不良債権化も避けられ、銀行にとって保有債権の質にも好影響を与える。加えて、銀行の貸し出し能力が高まり、景気回復に寄与すると強調している。 (了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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