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愛知県体育館最後の大相撲名古屋場所を飾った横綱・照ノ富士はやはり強かった――熱戦の余韻と感謝を綴る

飯塚さきスポーツライター
名古屋開催の7月場所では初の優勝を飾った照ノ富士(写真:日刊スポーツ/アフロ)

「二桁優勝の目標を達成して、いままで応援してくれていた方々に『照ノ富士は約束を果たせるんだ』ということを、もう一度あらためて感じさせてあげたい。そういう思いでいます」

今年初場所で自身9度目の優勝を果たした後、横綱・照ノ富士は筆者にこう語った。芯から湧き出る覚悟の言葉。聞きながら胸を震わせた。

どんな暗闇を歩いたときも、変わらずに支えてくれる人たちがいた。身をもってそのことを理解している彼だからこそ、強く抱いた思いだったに違いない。そしていま、まさにその「約束」を果たしたのだ。長年の目標だった二桁優勝は、大きなドラマの末、ついに現実のものとなった。

予想できない展開! 白熱の優勝争い

大相撲名古屋場所千秋楽。前日、隆の勝に土をつけられ2敗に後退した横綱・照ノ富士は、依然トップを走り、大関・琴櫻を迎え撃つ。3敗で追う隆の勝は、二桁勝利を狙う大の里との対戦だった。

前回の初顔合わせでは大の里に敗れていた隆の勝。しかし、今回は立ち合いから鋭く当たり、相手をのけぞらせるほどの圧力で一気に押し出し。快勝で3敗を守った。横綱・照ノ富士が敗れれば3敗で並び、優勝決定戦に持ち込める。

そして結びの一番。勝てば優勝の照ノ富士だったが、大関が意地を見せた。立ち合いで横綱が右から抱え込んだが、その腕を抜きながらまわしに手をかけ回り込んだ琴櫻が、左からの上手出し投げ!横綱が前に倒れ、その瞬間、隆の勝との優勝決定戦に。

まさかの展開であったが、この一番に勝って10勝とした琴櫻。盛り上がる展開にしてくれただけでなく、最後に大関の矜持を見せた。来場所はきっと、自身も優勝争いに加わってくれることだろう。

常に高みを目指す横綱と、最後の愛知県体育館

迎えた優勝決定戦。隆の勝は緊張していただろうか。低く当たった隆の勝だが、下がらない横綱。それでも必死に前に出て、隆の勝が一度横綱を押し込んだ。しかし、照ノ富士はそこをこらえて右の腕(かいな)を返し、腰を落として寄っていって寄り切り!強い横綱!照ノ富士が10回目の快挙を成し遂げた瞬間だった。

長年の大きな目標を達成した照ノ富士。「入門してから14年間、目指してきた相撲が少しでも完成に近づいた実感がある」という優勝インタビュー時の言葉に、深い感動を覚える。どんな偉業を成し遂げても、彼の目指すところはいつまでも上に上にあり続ける。

また、自身初めての優勝決定戦という大舞台で、自分の力を出し切った隆の勝、美しい前みつさばきを武器に途中まで優勝争いを演じた美ノ海も、大いに今場所を盛り上げてくれた。場所前にインタビューした平戸海の活躍もうれしい。新小結で二桁勝利。気迫あふれる相撲で技能賞を獲得した。今年で最後の開催となったドルフィンズアリーナ(愛知県体育館)での名古屋場所。来年からは新アリーナに場所を移すが、最後になんともドラマチックな展開の幕引きとなったのは、各力士が全員、最後まで力を出し尽くした何よりの証しである。今場所も、すべての力士にありがとう。そして、約60年の歴史にありがとう、愛知県体育館。暑い名古屋が、千秋楽から一夜明けた今日も、熱戦の余韻を届ける。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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