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大関・貴景勝引退の喪失感を埋めるのは本場所の土俵 大の里がこのまま大相撲秋場所を制すか 新大関誕生へ

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
28歳という若さで引退を決断した貴景勝(写真:毎日新聞社/アフロ)

大の里と琴櫻が、取り直しにまでなる熱戦を繰り広げた直後、「貴景勝引退」というまったく現実味のない5文字が並んだ。興奮から混乱へ、乱される心。どこかぼんやりと、彼は生涯力士でいる気がしていた。

強い「心」の大関 貴景勝引退の喪失感

4回の優勝、大関在位30場所。一度関脇に陥落しても、不屈の精神で這い上がった。先場所の負け越しによる今回の陥落も残念ではあったが、何より強い心の持ち主である。ケガの心配よりも「貴景勝ならきっと大丈夫」という思いのほうが、筆者は強かった。

常に最高位を目指していた大関・貴景勝。その地位にいることに満足せず、常に現状よりも高いところを見ていたその姿勢に、感銘を受け続けた。惜しくも最後の夢をかなえることはできなかったが、それでも彼の力士人生は、多くの人の心と記憶に残るものであることは言うまでもない。

個人的にはまだ、引退を信じられない気持ちが強く、お疲れ様と言える心境ではない。「湊川」を襲名し、今後は親方として角界を支えていくことも発表されている。しかし、力士ではなくなる彼のことを想像したことがなく、これからどうなってしまうのだろうとさえ思う。もちろん、聡明な彼のことだ。きっと素敵な親方になるに違いない。けれどいまはまだ、心にぽっかり空いたこの喪失感に、もう少し浸っていたい。心が落ち着いたら、また彼の言葉を聞きに行こう。

土俵は大詰め 大の里が優勝へ大きくリード!

寂しいニュースは本土俵に吹き飛ばしてもらおう。

大相撲9月場所13日目、1敗単独首位の大の里を追いかけていた2敗の高安と霧島が、相次いで敗れた。この日、大の里を迎え撃ったのは、大関・琴櫻。自身の優勝の可能性はないものの、大関の意地を見せることができるか、大きな一番だった。

立ち合いからしっかりと脇を固めていった琴櫻。左上手を取り、相手に左を差させない。そこから投げにいったが、土俵際へもつれて、大関が突き落とすような形で両者が同時に土俵下へ。物言いがつき、協議の結果は「取り直し」!館内が沸いた。

2番目の相撲も似た立ち合いになったが、大の里が勢いよく前に出ていってそのまま押し出し!あっという間に大関を破る、力強い相撲だった。

これで独走状態に戻った大の里。今日は、まだ一度も勝ったことのない大関・豊昇龍戦が組まれた。昨日、持ち味の鋭い投げで霧島を破った豊昇龍。新たな大関を見据える大の里は、現役の大関をもう一人倒すことができるだろうか。早ければ、今日にも優勝が決まる。

<参考>優勝争いの行方

▽12勝1敗 大の里

▽10勝3敗 霧島、若隆景、錦木、高安

・大の里が豊昇龍に〇 → 大の里の優勝決定

・大の里が豊昇龍に● → 大の里、霧島 - 高安の勝者、(勝てば)若隆景、錦木の可能性で千秋楽まで優勝決定が持ち越しに

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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