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大相撲9月場所で自身初の敢闘賞受賞の錦木 普段交流のある力士にも「俺でとどめを刺すくらいの気持ち」

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
去る3日の柏巡業で話を聞いた錦木(写真:すべて筆者撮影)

先の大相撲9月場所において、最後まで優勝争いに残り、11勝4敗の好成績で自身初の敢闘賞を受賞した伊勢ノ海部屋の錦木。今回の活躍を、本人はどう振り返るか。また、普段からよく出稽古に行く関取に、ほかの部屋の力士たちとの交流についても伺った。

「足が出ていてよかった」9月場所総括

――先場所は、大活躍おめでとうございました。

「はい、ありがとうございました」

――よく出稽古に行かれる関取ですが、場所前も出稽古には行きましたか。

「ずっと行っていました。荒汐部屋に1回、あとは時津風部屋ですね。番付発表直後に荒汐部屋に行ったときは、残念ながら腕を痛めていたからほとんど稽古できなかったんですけど。時津風部屋に行っていたときは腕も大丈夫だったから、ある意味いい調整になったのかなって、勝手に思っています」

――場所を振り返って、よかった取組は。

「全体的に体が動いていたのでよかったです。若隆景戦は、無理やり投げましたが落ち着いて相撲を取れました。悪い相撲がなかった。足が出ていて、少しくらい形が悪くても前に出られたので、それがよかった部分かなと思います」

――調子の良し悪しの差とは、どんなところに表れますか。

「立ち合いで足が出るかどうかじゃないですか。自分ではいいつもりでも足が出ていないとか、動きが悪いときもあるので。時々で違うなと感じます」

――優勝争いへの意識はありましたか。

「まったく。だって、大の里めちゃくちゃ強かったから(笑)。もし当たったら全力でいこうとは思っていましたけど、やりたくなかったし、きっと勝てないと思ってしまいました。それに、最初から2差あったので、最後までずっと気にしなかった。だからこそ、変に意識せず気楽に取れたかなと思います」

――しかし、初の敢闘賞です。

「最後まで優勝争いに名前が載っていたというだけなので、本当は相撲を褒めてほしいけど(笑)、もらえただけでうれしいです。前に殊勲賞は1回取ったことがあるので、じゃあ次は技能賞だ、なんて冗談で言っていたら、師匠に『お前には無理だ』って笑いながら言われました(笑)」

――無理じゃないですよ!今後は三賞コンプリート目指しましょう。今場所の自己採点は。

「とてもよかったと思います。安易に四つに組んだり、ふわっとした立ち合いが1、2回あったりはしましたが、場所の途中はそういった反省も気にしないようにします。全体的にはよかったので、いいと思います」

――場所後は少しゆっくりできましたか。

「いえ、家族サービスがありますから。ドリカムのライブに、ディズニーランド・シーの2日間。歩き疲れました。ディズニーでは、外国の人に『にしきぎですか?応援してます!』って、めっちゃカタコトで声をかけられてびっくりしました(笑)」

普段はメガネがトレードマークの錦木。土俵外では常にかけている
普段はメガネがトレードマークの錦木。土俵外では常にかけている

――普段、体のケアなどどうされていますか。

「治療やマッサージには行くんですが、ほかに何もしていないんですよね。最近疲れが取れなくて。疲れも二日酔いも、治りにくくない?」

――わかる。私もそう。

「そうだよね?前まで二日酔いになんてそもそもそんなにならなかったのに、最近はすぐなる。何かケアをしなきゃいけないのかなと思いつつ、何もできていないんです」

――もし何かいい方法を知ったら私にも教えてください。

普段は話す力士とも「取組では関係ない」

――今回、実は若隆景関との対談を予定していました。若隆景関がケガで巡業を離脱したため、残念ながら実現できませんでしたが、ほかの部屋の関取衆との距離感について、関取はどのように考えていますか。

「普段は普通に喋って、本場所だったら関係なしにガッチリ相撲を取ります。こうして地方巡業ではごはんを食べに行くこともありますし、誰とも分け隔てなく、仲は悪くないと思います。逆に、仲がいいほど取組では燃える。自分も今回、若隆景と対談してみたかったです」

――例えば、この一番で相手が負けたら負け越しの場面で、自分が勝ったらかわいそうだなという優しい気持ちがのぞくことはありますか。

「まったく思ったことないです。むしろ、俺でとどめを刺してやろうというくらいの気持ち」

――最高です。ちなみに、出稽古に行かれた先では、その部屋の若い衆にアドバイスをすることもありますか。

「もちろん。関取は、若い衆に相撲を教えることも仕事のうちです。親方衆もそうだし、それは普通のことかなと思います。聞き入れるかどうかはその子次第なので、自分が教えられることは教えているつもりです」

巡業の稽古で胸を出す。どの部屋に行ってもいろいろな若い力士に声をかけるという
巡業の稽古で胸を出す。どの部屋に行ってもいろいろな若い力士に声をかけるという

――部屋では、甲山親方(元幕内・大碇)の息子である若碇さんが、新十両昇進を決めました。部屋もますます活気づきそうです。

「入門が1年遅い琴手計が頑張っていたので、このままだと先を越されちゃうよって発破かけていたら、同時昇進でしたね。本人は、先に上がりたかったと悔しがっています。これを見て、自分も頑張ろうと思う若い衆がどれくらいいるかですね」

――ありがとうございます。最後に、関取自身の来場所の目標は。

「ケガをせずに、安全第一。勝ち越しは目指すし勝ち負けは大事だけど、ケガして休んだら、そこから先全部が負けになるんですから。ケガしないように無理せず、そのなかで勝ち越しを目指せたらなと思います」

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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