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Z世代の水意識。節水しない。災害用の水は備える。温室効果ガス排出ゼロのためにお金を払う

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
(写真:アフロ)

「節水していない」=65.3%、「節水している」=34.7%

ミツカン水の文化センターが、Z世代の水に関する意識調査を発表した。

同センターは、1995年から「水にかかわる生活意識調査」を実施してきた。今回は26年間のデータの「20代」をピックアップし、世代別の傾向を読み解いている。一般的に「環境への意識が高い」とされるZ世代は水についてどう考えているのか。興味深い結果となった。

※ミツカン水の文化センター「Z世代の水意識」

この調査における世代の定義

X世代=1965年(昭和40)~1980年(昭和55)生まれ

Y世代=1981年(昭和56)~1995年(平成7)生まれ

Z世代=1996年(平成8)~2012年(平成24)生まれ

まず、「水のありがたさを感じる」のはどんなときか。

各世代とも1位は「水を飲んでのどの渇きをいやすとき」で共通。

X世代の2位は「給水制限が行われているとき」で約5.5割。「給水制限が行われているとき」はY世代でも2位だが3〜4割と減少し、Z世代では2割程度になって4位に。

代わってZ世代の2位には「入浴やシャワーを浴びているとき」、3位には「海、川、湖、滝など自然の水に接しているとき」が入った。

関連して節水について。

X世代が20代の頃は、半数以上が「多少は節水している」と回答していたが、2013年以降は「節水していない」が「節水している」を逆転。2018年は「節水していない」が65.3%、「節水している」が34.7%だ。

「意識や行動」の背景には、水に関する出来事の体験と記憶があると考えられる。

1950年代後半から人口増、産業での水使用量の増加により長期渇水が続き、前回の東京オリンピックが開催された1964年には大渇水が発生。都内は砂ぼこりが舞い、メディアは「東京砂漠」と報じた。

東京都の水道水配水量の変遷(東京都水道局の資料を元に著者作成)
東京都の水道水配水量の変遷(東京都水道局の資料を元に著者作成)

上図のように、1940年代後半から70代にかけて東京の水使用量は激増する。1957年に1日約185万立方メートルだった水の配水量は、1972年には約456万立方メートルになっている。高度経済成長にともない首都圏に人口と産業が集中したためだ。

その一方で、1960~1962年の平均降雨量は平年の半分以下。当時の東京の水源は、主に多摩川の上流域である。奥多摩にある小河内ダムの貯水率は0.5%、村山・山口貯水池は干上がって湖底はひび割れた。

1967年、1973年、1978年、1984年、1985年、1994年には全国的な渇水が発生しているが、その後は減少傾向にある。渇水は毎年どこかで発生しているが、限定的である。

こうした体験と記憶が意識や行動に影響を与えているのだろう。

Z世代は55%がハザードマップを知っている

一方で、災害時の備えとして市販のペットボトル水を買い置きしている人は、Z世代に多かった。4人に1人は水を1週間分買い置きしている。

ハザードマップの認知度もY世代の「知っている」が36%程度なのに対し、Z世代の「知っている」は55%程度に上昇している。

豪雨災害は毎年のように日本各地で発生している。気象庁「全国(アメダス)1時間降水量50mm以上の年間発生回数」を見ると、2011年~2020年の平均年間発生回数は、1976年~1985年の平均年間発生回数の1.5倍に増加し、災害につながっている。

近年発生した主な豪雨災害を以下にまとめた。

平成26年8月豪雨……同年7月30日から8月26日にかけて、台風12号、11号および前線と暖湿流によって広範囲で災害が発生。京都府福知山市では大規模な洪水被害が、兵庫県丹波市や広島県広島市では大規模な土砂災害が発生。

平成27年9月関東・東北豪雨……同年9月9日から11日にかけて関東・東北地方で記録的な大雨。鬼怒川、渋井川などで堤防が決壊し、周辺の住宅地が冠水。

平成28年8月北海道豪雨……同年8月7日から30日にかけ、4つの台風が北海道に上陸、接近、刺激された前線によって集中豪雨が発生し、農産物に大きな被害。

平成29年7月九州北部豪雨……同年7月5日、6日に九州北部にバックビルディング型の線状降水帯が形成され、福岡県や大分県を中心に記録的な大雨が降った。朝倉(福岡県)と日田(大分県)の日降水量は、観測史上1位を記録。

平成30年7月豪雨……同年6月28日から7月8日にかけ、西日本を中心に北海道や中部地方を含む広い範囲で発生。特に7月3日から8日にかけては、台風7号の接近や梅雨前線が停滞したことによって長時間豪雨が降り、河川の氾濫や浸水害、土砂災害が多発し、死者数が200人を超えた。

令和元年東日本台風(台風第19号)……関東地方や甲信地方、東北地方などで記録的な大雨となり、甚大な被害をもたらした。

令和2年7月豪雨……7月3日から31日にかけて、日本付近に停滞した前線の影響で、暖かく湿った空気が継続して流れ込み、各地で大雨となった。九州南部、九州北部、東海および東北の多くの地点で、24、48、72時間降水量が観測史上1位の値を超えた。

令和3年7月伊豆山土砂災害……梅雨前線による大雨に伴い、7月3日10時30分頃に静岡県熱海市伊豆山の逢初川で土石流が発生。逢初川の上流部、標高約390m地点で発生した崩壊が土石流化し、下流で甚大な被害が発生。

こうした災害の体験や記憶が影響していると考えられる。

「地球温暖化に伴う気候変動への危機意識」について、Z世代は4割を下回った。体験や記憶が意識や行動を変えると仮定するならば、「日本は諸外国に比べ、いまのところ温暖化の影響を受けていない」と考えているのかもしれないし、目の前で発生する豪雨災害と地球温暖化が結びついていないのかもしれない。

その一方で、「温室効果ガス排出ゼロを実現するために毎月払える金額」は全体平均が1265円のところ、20代は1470円ともっとも高い。自分自身への影響という意味での「危機意識」は低くても、地球規模での温暖化を抑制するアクションには積極的に携わる意思があるということだろう。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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