余った食材を食品ロスにせず、餃子・酢豚・焼きめし・天津飯・あんかけ焼きそばなど500人前を無償で提供
阪神大震災当日に餃子を提供した副店長の経験と思い
豪雪のため、多くの車両が立ち往生している福井県坂井市。国道8号沿いにある「餃子の王将」丸岡店が、2月7日、トラックなどの運転手たちに無償で500人分の料理を届けたと報道された(朝日新聞2018年2月7日付)。
積雪のため、店は2月6日・7日の両日とも臨時休業だった。余っている食材で、酢豚や、焼きめし、天津飯、餃子、あんかけ焼きそばなどを作ったという。
朝日新聞の記事によれば、副店長の中山さんは、1995年の阪神大震災の時、「餃子の王将」多田店(兵庫県川西市)でアルバイトしていたそうだ。当時の店長の発案で、震災の当日に無理やりお店を開けて、餃子を出した。その時のお客さんの顔が忘れられない。だから、こういう時には人のためにやらないとと思い、料理を作ったのだという。義務感でなく、心から「困っている人のために」と思って、料理を作られたのだろう。心が温まる思いだ。
山崎製パンは82,000個を配布
2月6日から2日間以上、立ち往生している車両の中には、山崎製パンの配送トラック18台も含まれていた。本来の納品先には届けられないと判断し、営業所にあったパンと合わせて82,000個を避難所や立ち往生の車両の運転手に配ったという(朝日新聞 2018年2月8日付)。
毎日新聞(2018年2月8日付)によれば、福井県坂井市のオーカワパンも、パンを提供している。
「餃子の王将」丸岡店の場合、突発的に発生した積雪により臨時休業し、食材が余っていた。このまま放置すれば、もしかすると食品ロスになったかもしれない。(食品ロスとは、充分に食べられるにも関わらず、賞味期限接近など何らかの理由で廃棄される食品を指す)
山崎製パンの立ち往生したトラック18台も、もう動けないからどうしようもない。美味しさの目安である「賞味期限」表示のパンだけでなく、日持ちが5日以内のものに表示される「消費期限」のパンも積んでいたかもしれない。そのまま置いておけば、期限が切れてしまう。
両者のケースとも、あやうく「食品ロス」になりかねなかった食べ物を、ロスにせず、困っている人たちに食べていただくことができたと言えよう。
2014年2月、首都圏全域の大雪の時も、山崎製パンのトラックがパンを配布
ここで思い出すのが、2014年2月、首都圏全域を襲った2週間連続の大雪の時のことだ。談合坂SA(サービスエリア)の規制解除待機中、山崎製パンの100%子会社「ヤマザキ物流」の運転手が、上司の了解を得た上で、トラックに積んでいたパンを、足止めされていた一般運転手たちに無償で提供した(2014年2月17日付、日本証券新聞2面より)。
この行為が広がったきっかけは、2014年2月16日に、談合坂SAで規制解除を待っている男性が投稿した、次のツイートだったという(2014年2月19日付、日刊スポーツ 東京日刊より)。
山崎製パンは、この一件の前から、天候や災害で配送できない場合、総合的に判断した上で、食料支援に切り替えることを行なってきたそうだ(2014年2月19日付 日刊スポーツ 東京日刊より)。本社広報担当は「パンをお店にお届けできず、取引先にご迷惑をおかけしている」と、報道関係者にお詫びを伝えた。
結局はお店で働く人の人間力が問われる
2014年の大雪での山崎製パンの対応について、株式会社イー・ロジットの代表取締役兼チーフコンサルタントの角井亮一氏は、月刊誌「販売革新」(2014年4月1日発行号、株式会社商業界)で、「最後は、お店で働く人の人間力だな」と語っている。
ヤマダストアーの人間力
2018年2月3日、兵庫県のスーパー、ヤマダストアーが出した、恵方巻の大量販売を「もうやめにしよう」という広告が共感を呼んだのは、人間らしさがあったからではないか。
「売上至上主義に、最近違和感を感じる」
という言葉をはじめ、
「海産資源を大事にしたい」
「今年も1本1本心を込めて(恵方巻を)巻いた」
「最後の1本までお客様に愛されますように」
といったように、人情味や人の温かさを感じる言葉が並んでいる。スーパーの広告にしては、珍しいと思う。
組織>個人(個人より組織の意向で動く)
恵方巻廃棄の記事で触れたが、筆者が食品企業に勤めている時、個人の感情を押し殺して「組織人」として振る舞う場面が多くあった。そういう振る舞いこそが、食品ロスを助長しているようにも思える。
メッセージ力は相手の心を動かす力
筆者の好きな本の一つに『MBB:「思い」のマネジメント』一條和生・徳岡晃一郎・野中郁次郎(東洋経済新報社)がある。続編とも言える、同じ題名の『MBB:「思い」のマネジメント 実践ハンドブック』(東洋経済新報社)があり、次のような言葉が書いてある。
ある意味空虚な「インスタ映え」
大盛り料理やスイーツをYouTubeやインスタグラムに投稿し、結局食べずに捨ててしまう行為は空虚と言える。インスタ映えする食品を求め、写真を投稿し、見栄えだけよく見せて、最終的には捨てる。そこには食べ物に対する愛がない。
豪雪での食料配布の臨機応変な各事例を見るに、企業は、数字を追う前に「思い」を持つことが大事で、それはきっと、食品ロスの少ない社会につながると信じている。