「あの時ドラえもんがいてくれたら…」 いつかきっと開発を AIで感性を読み解く研究者・坂本真樹さん
「もふもふ」「サラサラ」といった質感などのオノマトペを通じ、人間の豊かな感性をAI(人工知能)で読み解く研究の第一人者、電気通信大学(東京)の副学長で情報理工学研究科教授の坂本真樹さん。
子ども時代のいじめや対人恐怖症の経験から言葉に興味を持ち、次第にAIの研究へとのめり込んでいった。
坂本さんの掲げる理念や展望について尋ねた。
(前編「おはようが言えなくて… 高校時代の対人恐怖症が研究の原点 感性を読み解くAI研究者、坂本真樹さん」)
文理の壁を越えて
坂本さんの研究モットーは「素朴な疑問を常に大切にする」。感性といったあいまいなものを拒まず、好奇に感じ、オノマトペの研究を続けてきた。AIの研究者は圧倒的に理系出身が多い中、文系出身だった坂本さん。言葉の不思議を探究してきた経験に基づく研究は「ナンバーワンというよりオンリーワン」と評価されてもいる。
「あいまいで混沌としているものを、すべて1本にきれいにモデル化する」という研究姿勢や理念は、東大駒場キャンパスで培われた。
また、研究成果をきちんと社会に役立て、還元しようとする視点も堅持している。「技術ありきで、技術の応用先を考えるのではなく、人間の能力の神秘、人間社会の課題解決ありきで、新しい技術開発を目指したい」
空気を読むAIがいてくれたら
そんな坂本さんが今力を入れるのが空気感を読むAIの研究だ。コミュニケーションの分野におけるAIの利活用は、コロナ禍に伴うオンライン会議の増加など、対面のやり取りが難しくなった現代にあって、一層重要度が増している。
ただ、坂本さんはコロナ禍以前から、一貫してコミュニケーションへのAIの活用を強く意識して研究を進めてきた。根底にあるのは、やはり子どものころから抱いてきた対人関係へのコンプレックスだ。それを克服したいという意志、熱意が原動力ともなっている。
「今思えば、コミュニケーションが大の苦手だった10代、高校時代の経験が、今につながっている。コミュニケーションを支援するAIとか空気を読むAIとか、そんな便利なツールがあったら、どんなにありがたかったか」。そうした思いもあり、自身の特許技術を産業応用するべく起業した「感性AI株式会社」を通して、コミュニケーションの問題を解決するツールをサービス展開までしている。
いじめ問題を耳にすると、共感しながら心を痛める。「いつか本当に、いじめられっ子の救いになるような、ドラえもんのようなAIのロボットを――」
AI研究の最前線に立ち、日々格闘する研究者であるからこそ、一足飛びにドラえもんが開発できないことは自身がよく知っている。
夢を胸に秘めつつ、地道に研究を続ける。
坂本真樹(さかもと・まき)
電気通信大副学長、情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社取締役COO。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。東京外国語大外国語学部卒、東京大大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程修了。http://www.sakamoto-lab.hc.uec.ac.jp/
(画像はいずれも坂本さん提供)