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米国の「善意」に期待し、「華麗な誘惑」に惑わされたのは金総書記本人! 核武力政策を憲法に定めた北朝鮮

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
トランプ大統領と金正恩総書記(労働新聞から)

 北朝鮮がとうとう核武力政策を憲法に明記してしまった。

 今月26日から2日間の日程で開催された日本の国会にあたる最高人民会議(第14期第9回会議)で憲法修正が議題に取り上げられ、「核保有国として国の生存権と発展権を保証して戦争を抑止し、地域と世界の平和と安定を守るために核兵器の発展を高度化する」ことが新たに盛り込まれた。

 憲法の序文にはすでに「核保有国」であることが明記されていたが、核戦力政策を「近代的な核戦力建設と共和国武装力の時代的使命に関する国家活動の原則として憲法に固着させた」「労働新聞)のはこれが初めてである。

 これにより、社会主義憲法が改正されない限り、あるいは北朝鮮の現体制が永続する限り、北朝鮮が自ら核を放棄することはゼロに等しく、北朝鮮の非核化を前提とした米朝及び南北対話もあるいは日米中ロの周辺国を加えた多国間会議も不可能となった。

 最高人民会議で演説に立った金正恩(キム・ジョンウン)総書記は「共和国の核戦力建設政策がいかなる者も、何をもってしても手出しできないように国家の基本法として永久化されたのは核戦力が含まれた国家防衛力を非常に強化し、それに頼った安全保証と国益守護の制度的・法律的基盤を打ち固め、朝鮮式社会主義の全面的発展を促すことのできる強力かつ威力ある政治的武器をもたらした歴史的な出来事である」と豪語していた。

 また、「仮に帝国主義者がしつこく宣伝する取るに足らない「善意」と華麗な誘惑に幻想を抱いて核保有路線を決断できなかったのならそしてスタートを切った困難な道で立ち止まり退いたのなら、必ず久しい前に核惨禍と絶滅の災難を免れなかったであろうし、敵の横暴非道な挑戦と圧迫に断固対応して国家の威厳と威力を宣揚し、世界の正義を先導する今日の誇らしい現実を想像すらできなかっただろう」と述べ、自身の決断が「最も至当であったことを立証した」と胸を張っていた。

 しかし、後者の発言については疑問符が付く。「帝国主義者がしつこく宣伝する取るに足らない善意と華麗な誘惑」に幻想を抱き、核保有路線を一時的にも中断、あるいは放棄を示唆していたのは他ならぬ金総書記自身であったからだ。その「証左」を金総書記の発言及び側近の発言から挙げてみることにする。

 ▲2018年3月5日 訪朝した韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の特使らとの会見での発言

 「非核化は先代の遺訓である。軍事的緊張が解消され、体制安全が保障されれば、核を保有する理由はない。非核化と関係正常化のため米国と虚心坦懐話す用意がある」

 ▲2018年3月26日 訪中した際の習近平主席との会談での発言

 「金日成(キム・イルソン)主席と金正日(キム・ジョンイル)総書記の遺訓に従って朝鮮半島の非核化実現に力を尽くすのは我々の変わらない立場だ。平和的な雰囲気を作ることで問題は解決できる」 

 ▲2018年4月21日 労働党中央委第7期第3次全員会議での報告

 「我々にはいかなる核実験、中・長距離ミサイル、ICBM発射も必要なくなった。北部核実験場も使命を終えた。核実験中止は世界的核軍縮のための重要な過程である。我が強国は核実験の全面中止のための国際的志向と努力に加わる」

 ▲2018年4月27日 第3回南北首脳会談での「板門店宣言」

 「完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島を実現する」

 ▲2018年5月7日 2回目の訪中での習近平主席との首脳会談での発言

 「朝鮮半島の非核化実現は我が国の確固不動かつ明白な立場である」

 ▲2018年6月12日シンガポールでの第1回米朝首脳会談での発言

 「私も父親でもあり夫でもある。私にも子供らがいる。私は子供らが核を持ったまま生涯生きることを望んでいない」「米国が米朝関係改善のための真の信頼構築措置を取れば、我々も(非核化に向け)それに相応する善意の追加措置を取る」

 ▲2018年7月30日 金総書記からトランプ大統領宛ての親書

 「初の首脳会談で始まった我々の立派な会談に対する確固たる信頼と歴史的な日の約束を守ろうと努力していることに深く感謝します。待ち望んでいた戦争終結宣言が抜けていたのが残念だが、貴方のような強力で傑出した政治家と良い関係を築けて非常に嬉しい」

 ▲2018年9月6日 金総書記からトランプ大統領宛ての親書

 「我々は段階的方式で、一つ一つ意味のあるステップを踏んでいきたい。例えば、核兵器施設又は衛星発射地区の完全なる閉鎖、核物質生産施設の不可逆的な閉鎖などで」

 ▲2018年9月19日 第5回南北首脳会談での「平壌宣言」

 「米国が『6.12米朝共同声明』の精神に従い、相応の措置を取れば、寧辺の核施設の永久的廃棄のような追加的措置を取る用意があることを表明する」

 ▲2018年12月25日 金総書記からトランプ大統領宛ての親書

 「今でも全世界が大きな関心と希望を持って見守る中、美しく聖なる場所で閣下の手を固く握った歴史的瞬間を忘れられず、その日の栄光の再現を願っている。ファンタスティック映画の一場面を彷彿させる私と閣下のもう一つの歴史的出会いがそう間もない未来に全世界が再び見ることになるであろう」

 ▲2019年1月1日 2019年の金正恩委員長の新年辞

 「我々はすでにこれ以上核兵器を造らず、実験もせず、使用しないことも、伝播しないこともすでに内外に宣言し、様々な実践的措置を取った。完全な非核化に向かうのは我が党と共和国政府の不変な立場であり、私の確固とした意志でもある」

 ▲2019年2月29日 ハノイでの米朝首脳会談会談決裂後の李容浩(リ・ヨンホ)外相(当時)の記者会見

 「我々が要求したのは全面的な制裁の解除ではなく、国連制裁決議の計11件のうち2016年から17年までに採択された5件で、民間経済と人民の生活に支障を与える項目だった」

 ▲2019年3月15日 崔善姫(チェ・ソンヒ)外務第一次次官(当時)の平壌での記者会見

 「金正恩(国務)委員長は故国に戻る途中『一体何のためにこんな汽車旅行をしなければならないのか』と語られた。というのも人民と軍、軍需工業の当局者数千人が金委員長に『決して核開発を放棄しないように』との請願書を送るなど米国との非核化交渉に反対していたからだ」

 極め付きは2020年1月10日に朝鮮中央テレビが放映した「自主の旗、自力富強の進路に従い前進した年」と題する記録映画で伝えたハノイ会談後の金総書記の以下の発言である。

 「我々は対話と交渉を通じた問題解決を重視し、一日も早い真の平和の到来を望んだが、一方的に要求を押し付ける米国式対話方法に応じることはできない。平和を対話テーブルで哀願するようなことはしたくはない」

 「当時、米国が強要した制裁で我が国民の苦痛は憤怒に変わった。もう制裁解除に執着しない。唯一、我々の力で復興の前途を歩むことにする」

 一連の発言をみれば、トランプ政権の所謂「取るに足らない善意」に大いに期待をかけ、「華麗な誘惑」に惑わされたのは他の誰よりも金総書記自身であったことは否定し難い事実である。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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