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「メッシ、独立リーグなら退団」報道が明らかにした、カタルーニャ独立とバルセロナのネジレ

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
メッシはバルセロナの象徴だが、カタルーニャの象徴にはなり得ない(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

最初に断っておくが、この文章で触れる「メッシ、独立リーグならバルセロナ退団」報道は1月5日『エル・ムンド』紙の独占スクープであり、誤報の可能性もある。だが、たとえ誤報であったとしても、これをきっかけに日本のみなさんがカタルーニャ独立問題について興味を持ってくれれば、それだけで十分価値がある。

同紙によれば、昨年更新したばかりのメッシの契約書に「仮にカタルーニャ独立後、バルセロナが欧州の一流リーグに所属しなかった場合は違約金(7億ユーロ)を払わなくして自動的に退団が決まる」という付帯条項がある、という。

独立は誕生すらしておらず、メッシはもう30歳

このニュースを語る大前提として、カタルーニャ独立への道が非常に険しいことは知っておくべきだろう。

現状をまとめておく。

昨年10月1日の住民投票で独立派が勝利し独立宣言までしたが、中央政府はこれを憲法違反として無効とした。独立派の党幹部が逮捕されカタルーニャ州議会は解散。12月21日に解散総選挙が行われた。その結果、独立派が議席数で議会の過半数を占めたが、得票数で上回ったのは反独立派だった。これによりカタルーニャ州政府は独立派主導で進むものの、今住民投票が行われれば反独立派が勝利するという、比例代表制特有のネジレ現象が起きることになった。

前代未聞の事態はまだある。

例えば、州政府首相に就任確実なのは逮捕を逃れ逃亡先のベルギーから選挙活動をした前任者なのだが、スペインに帰国すれば即逮捕という彼と中央政府首相の会談はいったいどこで行えばいいのだろう?

さらに、仮に住民投票を経て独立が成立したとしても、カタルーニャが独立国としての機能を備え、国際社会が国として承認するためには何年もかかるし、スペインがカタルーニャを承認しない限り、法的にはバルセロナはスペインサッカー連盟とリーガエスパニョーラに所属し続けられる。

よって、たとえ報道が事実であったとしても現在30歳のメッシは、カタルーニャ共和国の成立時にはすでに現役を引退しているはず。退団うんぬんは取り越し苦労というものだ。

グローバルな経済と反グローバルな政治の対立

にもかかわらず、スペインでは大騒動になっている。なぜか?

独立とサッカーの間にはもう一つのネジレがあることを、このニュースが明らかにしてくれるからだ。

筋から言えば、独立すればバルセロナは独立リーグに所属すべきである。だが、バルセロナもメッシもそれを望んでいない。カタルーニャリーグでは放映権収入とスポンサー収入は激減、タレントは流失、クラブ衰退が必至だからだ。

独立後もサッカーだけは今まで通りリーガエスパニョーラに留まるか、お隣のフランスのリーグ1かイングランドの世界最強プレミアリーグへ引っ越すという案が、今回のメッシのニュースで蒸し返された。それに反独立派が「虫が良過ぎる!」と一斉に猛反発しているのが、大騒動の真相である。

独立にはリスクがある。その1つが経済的なダメージだ。

スペインというお得意先、カタルーニャというお得意先をお互いが失うだけでなく、独立派と反独立派の緊張関係による政情不安は投資家を遠ざける。10月1日の住民投票から1月5日までに約3200の企業が、本社をカタルーニャからスペインの他地域へ移している。

経済のグローバル化の波に乗って、日本のファンも魅了する世界ブランドに成長したバルセロナが、今さらローカルブランドに戻れるわけがない。「世界のメッシ」が「カタルーニャのメッシ」と同じ価値を持つわけがない。“ソフト”(心情)が許しても“ハード”(ビジネス)が許さない。

国境を無くそうとする経済と、国境を作ろうとする政治。並び立たない両者の対立に、カタルーニャとバルセロナが無傷でいるのは不可能だ。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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