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『バンドリ!』の人気バンドRoselia 富士急ハイランドでリアル高校生と“共演”

河嶌太郎ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)
ライブでオープニングアクトを務めた大谷高校軽音楽部(ブシロードミュージック提供)

 音楽活動に青春を燃やす女子高生達を描いた『BanG Dream!』(バンドリ!)。総合エンターテイメント企業・ブシロードグループのメディアコンテンツで、アニメやゲーム、そして音楽ライブなど多岐にわたって展開しています。

 作中には主に7つのバンドが登場(2022年3月現在)し、このうちPoppin'Party(ポッピンパーティ)、Roselia(ロゼリア)、RAISE A SUILEN(レイズアスイレン)、Morfonica(モルフォニカ)の4つは、声優自身が楽器を演奏し、リアルバンドとしても活動しています。音楽バンドとしての人気も非常に高く、出したCDが各種売上チャートで一桁上位を取ることも珍しくありません。例えば、5月18日に発売したRoseliaのミニAlbum「ROZEN HORIZON」は、デイリーランキング1位に輝いています。

Roseliaの5人のメンバーと、「ROZEN HORIZON」のアルバムジャケット
Roseliaの5人のメンバーと、「ROZEN HORIZON」のアルバムジャケット

「頂点を目指す」バンドRoselia

 7つの音楽バンドの中でも、異彩を放っているのがRoseliaです。Roseliaはボーカル担当の湊友希那、ギター担当の氷川紗夜、ベースギター担当の今井リサ、ドラム担当の宇田川あこ、キーボード担当の白金燐子の5人のキャラクターからなるガールズバンドで、「頂点を目指す」ことを基本方針としています。そのため、作中屈指の高い技術を持つバンドとして描かれています。

 しかし、この「頂点を目指す」はメンバー一人一人のコンプレックスの裏返しでもあるのが、Roseliaの魅力の一つと言えるでしょう。例えば、リーダーの湊友希那はプロミュージシャンだった父の無念を晴らすため、氷川紗夜は何事も上手くできてしまう天才の双子の妹に負けたくないという明確な動機があります。そして、作中で一人一人がその当初のコンプレックスを乗り越えていくドラマがきちんと描かれています。

 こうしたドラマは多くの読者や視聴者の共感を呼んでおり、これがメンバー一人一人の魅力を最大限に引き出し、Roseliaを完成させているといっても過言ではありません。これが、Roseliaの人気に繋がっています。

5月に行われた富士急ハイランドでの野外ライブの様子(ブシロードミュージック提供)
5月に行われた富士急ハイランドでの野外ライブの様子(ブシロードミュージック提供)

高校生バンドが”共演”

 5月21日(土)と22日(日)には、山梨県富士吉田市の富士急ハイランド・コニファーフォレストで単独ライブ「Episode of Roselia」も開かれました。Roseliaのこれまでのドラマを振り返る「DAY1 : Weißklee(ヴァイスクレー)」と、これからの展望も示す「DAY2 : Rose(ローゼ)」がライブのコンセプトになっています。「Episode of Roselia」というタイトルは、2021年4月と6月に前後編で全国公開された劇場版アニメ作品のタイトルでもあり、劇場作品に登場した楽曲も多く披露されました。

 21日のライブの開演前には、京都市の私立大谷高校軽音楽部による演奏も披露され、会場を沸かせました。2021年12月26日に大阪で開かれた「第1回全国高校軽音楽部大会 we are SNEAKER AGES(「スニーカーエイジ」)」で、大谷高校軽音楽部が優勝したことから出場しています。この高校生の軽音楽大会「スニーカーエイジ」は『バンドリ!』とのコラボを続けており、Roseliaの湊友希那役を務める、歌手で声優の相羽あいなさんが第1回全国大会の選考員を務めています。

 『バンドリ!』の影響で軽音楽を始めたという中高生は少なくなく、こうした生徒にとってはまさに夢の舞台とも言えます。ライブのオープニングを飾った大谷高校の軽音楽部の生徒達も公演後、涙ながらに感想を話す場面もみられました。

「スニーカーエイジ」第1回全国大会の選考員を務めた相羽あいな(左から2番目)と彼女が演じる湊友希那(画面中央・ブシロードミュージック提供)
「スニーカーエイジ」第1回全国大会の選考員を務めた相羽あいな(左から2番目)と彼女が演じる湊友希那(画面中央・ブシロードミュージック提供)

作品公式と大会がコラボする意義

 作品が公式に現実の大会とコラボすることは、非常に意義深いことだと言えます。例えば軽音楽という分野では、『バンドリ!』より以前に社会現象になった作品があります。2009年と10年に京都アニメーションによってテレビアニメ化された『けいおん!』です。

 『けいおん!』は軽音楽部に入部した女子高生の3年間の高校生活を描いた作品で、アニメ主題歌を歌った作中のバンド「放課後ティータイム」はまたたく間にネット上を中心に人気を集めます。2009年7月に発売されたアルバムでは、アニメのキャラクター名義で発売されたCDとして史上初のオリコンチャート1位を獲得する、アニメ史に残る金字塔を打ち立てました。

 『けいおん!』は当時の中高生にも大きな影響を与え、軽音楽ブームをもたらしました。主人公達の通う高校の校舎の舞台モデルとされている、滋賀県豊郷町の豊郷小学校旧校舎群では、2011年から「とよさと軽音楽甲子園」という大会も毎年豊郷町商工会の主催で開かれています。

『けいおん!』のアニメの舞台モデルとなった豊郷小学校旧校舎群(2019年・筆者撮影)
『けいおん!』のアニメの舞台モデルとなった豊郷小学校旧校舎群(2019年・筆者撮影)

 しかしながら、様々な権利関係の都合上、「とよさと軽音楽甲子園」は『けいおん!』と表だったコラボをできていません。これはアニメ『けいおん!』が放送された2009年当時は、まだアニメ作品が実在する地域やイベントとコラボするノウハウがそれほど蓄積されていなかった時代でもあり、致し方ない面もあると考えています。

 それから13年、今ではアニメ作品が実在する地域やイベントとコラボすることは逆に当たり前になり、さらに作中の音楽グループがリアルでも音楽活動することも当たり前になりました。『バンドリ!』とコラボした軽音楽大会「スニーカーエイジ」は、この時代の流れを象徴する取り組みとも言えます。

3月のイベントでコラボの狙いを話す「スニーカーエイジ」の実行委員長を務める戸田雄己さん(筆者撮影)
3月のイベントでコラボの狙いを話す「スニーカーエイジ」の実行委員長を務める戸田雄己さん(筆者撮影)

リアル軽音楽とのコラボの狙い

 高校生の軽音楽大会と、『バンドリ!』とのコラボの狙いについて、「スニーカーエイジ」の実行委員長を務める戸田雄己さんは、3月19日(土)に東京・秋葉原で開かれた『バンドリ!』のイベントでこう話しています。

「全国の中学・高校の軽音楽部の生徒さんが2017年以降徐々に増え続けており、その数は全国10万人という規模になってきています。この数は高校野球の部員の数に匹敵します。その背景を調べたら、『バンドリ!』という作品の人気にたどり着きました。それで大会としてもコラボをすることで、さらに生徒さんの活躍の場を広げていきたいと考えています」

『バンドリ!』を運営するブシロードの木谷高明会長(筆者撮影)
『バンドリ!』を運営するブシロードの木谷高明会長(筆者撮影)

 また、『バンドリ!』を運営するブシロードの木谷高明会長も「『バンドリ!』をきっかけに、若い人たちに一つの目標を作ることができたことは非常に嬉しい」と手応えを感じています。

 『バンドリ!』と「スニーカーエイジ」のコラボは今回限りではなく、今年の第2回全国大会をはじめ、今後も続けていく方針だといいます。

 『バンドリ!』は9月22日(木)から25日(日)にかけて東京都江東区の有明アリーナで4連日ライブを実施する予定です。「Roselia」のライブは初日の22日に予定されています。今後も、こうしたライブなどでリアル高校生バンドが同じステージに立つことがあるのでしょうか。今後の取り組みが期待されそうです。

2022年9月22日からは有明アリーナで4連日ライブも予定されている
2022年9月22日からは有明アリーナで4連日ライブも予定されている

(C)BanG Dream! Project

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ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「withnews」「AERA dot.」「週刊朝日」「ITmedia」「特選街Web」「乗りものニュース」「アニメ!アニメ!」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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