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JR東海が富士山をテーマにした“聖地巡礼”プランを展開中 担当者明かす狙いは?

河嶌太郎ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)
淡島ホテルなどの輸送に使われている『ラブライブ!』仕様の渡し船と富士山

 古来より多くの作品に描かれてきている富士山。江戸期の浮世絵をはじめ、その流れを汲む漫画、アニメ作品にも多く登場しています。近年でも、静岡県が舞台となり、地域とのコラボも進んでいるアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』や『ゆるキャン△』でも、富士山はキービジュアル等で象徴的に描かれています。

 そんな富士山をテーマにした観光キャンペーン「もれなく富士山キャンペーン」が、現在展開中です。展開しているのはJR東海で、これまで様々なアニメ作品とのコラボも展開してきています。

「もれなく富士山キャンペーン」とは?

JR東海N700Sと富士山(JR東海提供)
JR東海N700Sと富士山(JR東海提供)

 「もれなく富士山キャンペーン」は「富士山×〇〇」をテーマに展開する、静岡県の観光キャンペーンです。第1弾が2023年12月から24年4月にかけて展開され、この時は静岡県三島駅から修善寺駅間を結ぶ伊豆箱根鉄道駿豆線の電車の運転や、車掌の体験ができるプラン、カーシェアリングサービスの「タイムズカー」とのコラボキャンペーンなどが実施されました。

 そして24年9月27日から25年3月31日にかけて、この第2弾が現在実施中です。第2弾では、第1弾を超える規模の、約50種類のプランが展開されています。この中には、アニメ「聖地」に滞在できるプランもあります。

 「もれなく富士山キャンペーン」でしか体験できないプランも多くあります。第2弾で代表的と言えるのが、久能山東照宮(静岡市)の禁足地に特別拝観できるプランです。

創建400年で初解禁のプラン

静岡県唯一の国宝に指定されている、久能山東照宮の社殿(JR東海提供)
静岡県唯一の国宝に指定されている、久能山東照宮の社殿(JR東海提供)

 久能山東照宮は徳川家康死後の1617年創建。日光東照宮よりも先に出来た、東照宮の第一号(根本大社)の聖地として400年以上の歴史があります。権現造の社殿は静岡県内唯一の国宝にも指定されています。

 久能山東照宮へのアクセスは、神社の麓にある「久能山下」まで静岡駅からバスで行き、1159段の階段を上って参拝する方法と、日本平まで静岡駅からバスで行き、ロープウェイで下る2つの方法があります。

日本平駅では、『鉄道むすめ』の音羽ないろ(左)と久能あいら(右)の等身大パネルがお出迎えしてくれる。両者共に静鉄グループ勤務の設定だ
日本平駅では、『鉄道むすめ』の音羽ないろ(左)と久能あいら(右)の等身大パネルがお出迎えしてくれる。両者共に静鉄グループ勤務の設定だ

 このプランでは、12時45分に久能山東照宮社務所前に現地集合し、そこから国宝の社殿にて正式参拝し、精神修養します。その後、境内から外れ禁足地に入山し、久能山の山頂にある「末社愛宕神社」に登り、参拝できるものになっています。400年以上の歴史の中でも、久能山東照宮の禁足地に一般人を入れるのは初めてのことだといいます。

社殿の装飾には、漆や金箔などが多用されている
社殿の装飾には、漆や金箔などが多用されている

 なぜ、禁足地の“解禁”に踏み切ったのでしょうか。久能山東照宮の権禰宜(ごんねぎ)を務める、齋藤曜さんはこう説明します。

「久能山東照宮では50年に1度、社殿の漆を塗り替える大修復工事を執り行ってきました。江戸時代は幕府により、戦前は別格官幣社として国費によって運営されており、その費用に困ることはありませんでした。しかし、戦後になって自分たちで賄わなければならず、その存続が課題となっています」

社殿の装飾には、漆や金箔などが多用されている
社殿の装飾には、漆や金箔などが多用されている

 修繕は国産の漆によって行っていますが、国内に漆の木が少なくなってきており、その費用も高くなってきています。

「前回の2001年から09年にかけて行われた『平成の大修復』では、修繕費用が約22億円かかりました。次回の『令和の大修復』では、物資などの高騰から50億円以上かかると見込んでいます。そのため、神社として一人でも多くの参拝者による支えが必要です。より多くの人に久能山東照宮を知ってもらうべく、今回初めて禁足地をツアーに取り入れました」(齋藤権禰宜)

禁足地には戦国時代以前の、山城時代の土塁などの人工的な構造も残っている
禁足地には戦国時代以前の、山城時代の土塁などの人工的な構造も残っている

 ツアーの参加費用は7000円(税込)で、料金の一部は久能山東照宮の文化財の保存管理費にも使われます。禁足地には戦国時代以前の、山城時代の土塁などの構造も残っており、その点でも貴重なツアーとも言えます。

久能山山頂にある「末社愛宕神社」
久能山山頂にある「末社愛宕神社」

 プランの催行日は24年12月14日(土)、25年1月25日(土)、3月2日(日)の3日間を予定していますが、既に完売となっています。しかし、今後も催行日が増える可能性も考えられます。

「聖地」を味わえるプランも

淡島ホテル(左手前)と富士山(右奥)。淡島ホテルは『ラブライブ!サンシャイン!!』の「聖地」としてファンも訪れる(JR東海提供)
淡島ホテル(左手前)と富士山(右奥)。淡島ホテルは『ラブライブ!サンシャイン!!』の「聖地」としてファンも訪れる(JR東海提供)

 宗教上の聖地以外にも、アニメの「聖地」も訪れられるプランを提供しているのも特徴です。例えば沼津市にある無人島、淡島にある「淡島ホテル」に宿泊できるプランも提供しています。淡島ホテルは富士山の景勝地でもあり、全室ではありませんが、多くの客室から富士山を望むことができます。

淡島ホテルには、ファンが寄贈していった『ラブライブ!』のグッズを展示する一室もある
淡島ホテルには、ファンが寄贈していった『ラブライブ!』のグッズを展示する一室もある

 この淡島ホテルは、沼津市を舞台にしたアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』に登場する9人の主人公の1人、小原鞠莉の実家という設定で、ファンの多くが訪れています。同じく淡島には、淡島神社や水族館施設の淡島マリンパークがあり、これらも多くのファンが訪れる場所となっています。

淡島には『ラブライブ!』仕様の渡し船で上陸することになる
淡島には『ラブライブ!』仕様の渡し船で上陸することになる

 淡島へは、対岸の本土から船で渡る形となっており、この船は淡島マリンパークと共通で、『ラブライブ!』仕様になっています。船内には声優(キャスト)によるサインも見ることができます。

船内には『ラブライブ!』声優によるサインもある。写真は小原鞠莉役の鈴木愛奈さんのサイン
船内には『ラブライブ!』声優によるサインもある。写真は小原鞠莉役の鈴木愛奈さんのサイン

 淡島ホテルの宿泊者は滞在中、淡島マリンパークのエリアを含む島内全域を散策できるようになっており、淡島を満喫することが可能です。

淡島ホテルの表札も、「ホテルオハラ」という『ラブライブ!サンシャイン!!』の作中の施設名も常時併記されている
淡島ホテルの表札も、「ホテルオハラ」という『ラブライブ!サンシャイン!!』の作中の施設名も常時併記されている

 「もれなく富士山キャンペーン」では、朝食のみのプランと、夕朝食付きの2つのプランを展開しています。夕食はフランス料理と和食から選べます。価格は1泊1人で、朝食のみのプランが2万1450円~3万2450円、夕朝食付きのプランがいずれも2万6950円~3万5200円となっています(いずれも税込価格)。

淡島の山頂に位置する淡島神社には、ファンが寄贈していった絵馬が大量に奉納されている
淡島の山頂に位置する淡島神社には、ファンが寄贈していった絵馬が大量に奉納されている

 他にも「もれなく富士山キャンペーン」の『ラブライブ!サンシャイン!!』に関する施設のプランとしては、沼津市中心部の沼津リバーサイドホテルに宿泊できるプラン、伊豆・三津シーパラダイスの入場券プラン、修善寺虹の郷の入園券(ミニSL乗車券付き)プラン、ふじさん駿河湾フェリー(清水港~土肥港)片道乗船券プランなどを提供しています。

富士山をテーマにした狙い

ジェット機をチャーターして富士山を上から眺めるプランもある(JR東海提供)
ジェット機をチャーターして富士山を上から眺めるプランもある(JR東海提供)

 「もれなく富士山キャンペーン」では、他にも静岡空港の制限エリアに入れるプラン、静岡市に本社を置く航空会社「フジドリームエアラインズ」のチャーター便に乗って、ジェット機で遊覧飛行を楽しめるプラン、焼津でのカツオの藁焼き体験など、通常の観光では体験できないプランを提供しています。

 なぜ、富士山をテーマにしたのか。「もれなく富士山キャンペーン」を企画したJR東海の担当者はこう話します。

沼津市の香貫山山頂から見た沼津市街地と富士山(右奥)。静岡県側の富士山は標高差がある分、雄大に見える特徴がある
沼津市の香貫山山頂から見た沼津市街地と富士山(右奥)。静岡県側の富士山は標高差がある分、雄大に見える特徴がある

「静岡県は首都圏からの観光客は伊豆をはじめ多いのですが、関西圏からの観光客が少ない課題がありました。そこで関西以西でも有力な観光資源は何かを探っていったら、富士山に辿り着いた経緯があります」

 一方で、首都圏からの観光者にとっても、富士山ならではの課題があったといいます。

「首都圏の人は、富士山を観光しに行こうとすると河口湖など山梨県側に行ってしまう傾向があります。そこで、首都圏向けにも静岡県側の富士山の魅力をアピールすることで、静岡の観光地をより知ってもらいたい狙いがあります」(同)

首都圏発だと、富士山は山梨県側のほうが行きやすい状況にある。写真は山中湖から見た富士山
首都圏発だと、富士山は山梨県側のほうが行きやすい状況にある。写真は山中湖から見た富士山

 外国人旅行者の目線で見ても富士山は人気観光地です。しかし富士山の撮影スポットを求めて、あるコンビニに旅行者が殺到してしまい、富士山を見えなくする暗幕を設置する事態が一時期ありました。このコンビニも山梨県側の富士河口湖町にあり、オーバーツーリズムの観点で見ても、富士山目当ての旅行者を静岡県側に分散させる狙いは有用だと筆者は考えます。

暗幕が設置されていた山梨県富士河口湖のローソン。オーバーツーリズムの典型例にもなっている。現在では状況が改善し、暗幕は撤去されている
暗幕が設置されていた山梨県富士河口湖のローソン。オーバーツーリズムの典型例にもなっている。現在では状況が改善し、暗幕は撤去されている写真:ロイター/アフロ

 静岡県は『ラブライブ!サンシャイン!!』や『ゆるキャン△』以外にも多くのアニメの舞台となっており、その目線でもとても多くの知られざる観光資源があります。既存の観光資源を掘り起こすことで、今日本中で起きているオーバーツーリズムの対処にもつながればいいなと思います。

『ゆるキャン△』と『ラブライブ!サンシャイン!!』という、静岡を代表する2大コンテンツのコラボスタンプラリーでも富士山はセンターに描かれた。その特別さを象徴している(miraithings提供)
『ゆるキャン△』と『ラブライブ!サンシャイン!!』という、静岡を代表する2大コンテンツのコラボスタンプラリーでも富士山はセンターに描かれた。その特別さを象徴している(miraithings提供)

(クレジットのない写真は筆者撮影)

ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「withnews」「AERA dot.」「週刊朝日」「ITmedia」「特選街Web」「乗りものニュース」「アニメ!アニメ!」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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