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またもソシャゲ業界でトラブル、今何が起こっているのか

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

新年明けてから「オンラン賭博時代の幕開け!?宝くじのオンライン販売スタート」、「オンラインで息を吹き返す公営競技業界」という2つの記事を書いた流れで、次は風営7号業種(パチンコ、雀荘等)のネット展開について論考する原稿を準備していたわけですが、ここ数日でソシャゲ業界が引き起こした騒動によってほぼ全面記事の書き換えです。どうしてくれるんだ、コノヤロウ。

まずは、ここ数日で噴出した事案をご紹介。

一つ目の事案が、年末年始に「グラブる?」という印象的な造語で大量TVCMを投入したサイゲームズ社によるグランブルーファンタジーです。ことの発端はCM投入に合わせて同ゲーム内で行われていたガチャインベントにおいて「出現率がUPする」と謳われていたレアキャラのうち一部のキャラクターの出現率が他キャラと比べて異常に下げられているという疑惑から始まったもの。これが景品表示法の定める「有利誤認」(消費者に取引条件を実際よりも有利なものと誤認させる行為)にあたるのではないかとして炎上が始まりました。

【参考】ガチャ炎上中の「グランブルーファンタジー」が謝罪 ユーザーからは「謝罪になってない」「そこじゃない」などの声も

http://news.nicovideo.jp/watch/nw1979271

更に最悪だったのが、実はグランブルーファンタジーは年末年始のガチャイベントの対象キャラクターのうち、異なる複数のキャラを揃えることによって後のゲームの進行を有利にすることが出来る特殊イベントが発生するとして、ガチャの販売促進を行ってしましました。

この行為は、同じく景品表示法の中で禁止される「絵合わせ」による販促行為にあたる可能性が高く、未だ記憶に新しい2012年の「コンプガチャ」問題と原理的には全く差異のないものであります。コンプガチャ問題が噴出した当時、消費者庁はオンラインゲームにおける禁止される絵合わせ行為を詳細解説するwebページまで作成して業界全体に注意喚起を行ってきたわけですが、あの業界全体を巻き込んだ大騒動を再現するかのような状況が再び発生しておりまして、「そこに反省はなかったのか?」ともはや意味不明であります。

【参考】インターネット上の取引と「カード合わせ」に関するQ&A(消費者庁)

http://www.caa.go.jp/representation/keihyo/qa/cardqa.html#Q7

そして、昨日から急な大炎上が始まったのが「単車の虎」などのスマッシュヒットを持つソシャゲメーカーであるDonuts社によるRMTアプリのリリースであります。

RMT(Real Money Trade)とは、ゲーム内で取得できるアイテムやゲーム内通貨を現金取引する行為のこと。ソシャゲも含めたオンラインゲームにおけるこのようなRMT行為は、使い方によっては著しくプレイヤーの射幸心をそそる賭博的なサービスの提供を可能としてしまうものであり、以前より一部では問題視がなされていました。一方、多くのオンラインゲームの提供企業は「ゲーム規約においてゲーム内アイテムによる現金授受を禁止し、適切な監視も行っている→よって自らの提供するゲーム機能は賭博的には使用され得ない」という説明に基づいて、一部から上がってくる懸念を交わし続けてきたのが実態であります。

ところが、です。今回、Donuts社は自社の提供するゲーム内で獲得できるデジタルアイテムも含め、あらゆるゲームのアイテムをプレイヤー同士が取引できるRMT市場アプリをリリース。更には、このアプリの機能をAPIとしてゲーム内に直接取り込めるような仕様とし、自社ゲームはもとより他社に対してもゲーム内公式RMT市場の採用を推奨しました。すなわち、これまで多くのゲームメーカーによる「ゲーム機能が賭博的には利用され得ない」としてきた論拠を根底から覆し、ゲーム内アイテムの現物資産としての価値を認めた上で、その現金取引を公式に勧めてしまったワケです。

例えば、このような機能が日本のソシャゲ業界特有のガチャによるアイテム獲得などとヒモ付いた場合、ランダム抽選の結果提供されるアイテムをプレイヤーが延々と購買し、それを公式のRMT市場において売り捌く形で現金化する消費者が出てくる。一方で、ゲーム提供側は前出のグラブルーが行って問題化したように、高額取引がなされうるレアアイテムの確率を弄り、消費者の射幸心を煽りまくって販促を行うといった構図が成立してしまうワケです。

状況としては、メダルプッシャー(いわゆる「コイン落とし」ゲーム)を提供しているゲームセンターが、便宜上は「このメダルはゲームの為に使うものですよ」と謳いながら、一方で自社の運営するメダル売買所を施設内で運営しているような状況。もしくはパチンコ店がゲーム結果に基づいて提供する賞品を自社が関与する第三者に買い取らせる行為にも似た状況にあり、もしこれがリアル店舗で行われている営業行為ならば、最低でも風営法違反、その営業の在り方次第では刑法賭博罪でしょっ引かれるレベルの事案であります。

ところが、実際の法の適用はどうかというと、この種のオンラインサービスに対する取り扱いは非常に難しいのが現状です。我が国における射幸性のあるゲームの規制を行っている法律としては、刑法と風俗営業法という二つの法律が分野を別けながら規制を行っているのですが、それぞれの統制範囲というのは以下の図のようになっています。

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まず風営法でありますが、実はこの法律に基づくゲーム系の規制は「設備を設けて業を営むもの」として店舗を構えて営業を行う者のみが規制の対象となっておりまして、無店舗で営業を行うネット上の類似サービス業者に関しては規制が及びません。それ故に冒頭でご紹介したようなソシャゲ業者がムチャクチャな営業を行ったとしても、そこに風営法の規制をもって切り込むことが出来ないのが実情です。

一方、刑法が定める「賭博および富くじに関する罪」というのは、賭博場開帳図利罪のみは昨年少し扱いが違う裁判例が出ましたが(参照)、基本的にはリアルorネットにかかわらず規制の網をかけるものであります。ただし、これを例えば今回ご紹介したような賭博なのか、賭博ではないのかの判断がギリギリの案件に対して適用するのもそれなりにシンドイ部分もあるんですね。

【参考】景品交換できるパチスロゲーム ミリオンゲームDX

http://mgdx.jp/

例えば、上記のように実はすでにオンライン上では「景品交換できるパチスロ」などと謳いパチンコ店とほぼ同じスタイルの営業を行っているような事業者が現れているワケですが、ここに刑法賭博罪をもって切り込んでしまうと、それをリアル側で風営法の規制下で営業を行っているパチンコ店にも同様の法適用をしなければならなくなります。そうなると風営法と刑法の間で、同一の業態を巡って法適用の対立が起こってしまいますから、それはそれで安易にこの分野に刑法の適用ができないワケです。

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かくして、このネット上での賭博と言えるのか言えないのか微妙なレベルの射幸性を伴うゲーム提供、もしくはその使い方によっては客の射幸心を煽ることのできてしまうゲームの提供というのは、完全に法的な真空地帯になってしまっているのが現状であり、逆にそこが真空地帯になっているが故に2012年のコンプガチャ問題から始まり、このエリアで度々問題が噴出してしまっているのが実情であります。

そうなってくると、当局側からは現在真空地帯となっている分野に改めて法の網をかけようとする動きが起こるワケですが、2012年のコンプガチャ問題の時には、寸でのところでそれを回避したにも関わらず、その「熱さ」が未だ喉元を過ぎぬうちにサイゲームスとDonutsがまたヤラカシテしまったワケで、ネットゲーム業界はこれからどこに向かって進んでゆくんでしょう?

風営法を無店舗型営業にまで拡張するような法改正を行うか、ネットゲームを規制する新法を制定するなど、いくつかの方法は考えられますが、いずれにしましてもこれまで自由を謳歌してきたネットゲーム業界にとっては喜ばしいことであるハズもなく、関係者の皆様には謹んで哀悼の意を表さざるを得ません。

【2016/01/16追記】

本記事中にご紹介したDonuts社より以下の文面を頂いております。

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上記記事で取り上げられているDonuts社の者です。

記事中の「更には、このアプリの機能をAPIとしてゲーム内に直接取り込めるような仕様とし、自社ゲームはもとより他社に対してもゲーム内公式RMT市場の採用を推奨しました。」について、サービスサイト上はAPIで連携できる旨が記載されていましたが、この機能は当初計画にはあったものの実際には実装を取りやめており、サイト上には誤って記載されていた情報です。この点について、追記・削除等お願いできれば幸いです。

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以上、要請に基づいてここに追記します。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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