2020年、再び世界一になるために。今井女子委員長が掲げる「なでしこvision」とは?
3月末に新体制発足後、JFA女子委員長に就任した今井純子氏から、2020年東京五輪と、その先の未来に向けた日本女子サッカー発展のための具体的な強化計画について、記者向けのブリーフィングが行われた。
女子サッカー発展のための「なでしこvision」は、昨年改訂されたものから大きな方向性の変化はないが、五輪予選に負けてしまったことと、委員長が変わったことにより新たに発表したのが今回のマスタープラン。
柱となるのは、【普及・代表強化・育成】の3つだ。
なでしこvision
1)サッカーを女性の身近なスポーツにする
2)なでしこジャパンが世界のトップクラスであり続ける
3)世界基準の「個」を育成する(育成/指導者養成)
「五輪予選で負けてしまったことで、強化、普及、マーケティングのピンチになり得る状況ですが、こういった状況だからこそこのピンチをステップにして再びチャンピオンになるために、これまで順調に来ている時は見直せなかったことを大胆に見直し、新しく取り組むことを考えています。FIFAが女子サッカーの発展にフォーカスしていることもあり、大きなチャンスと捉えてスピード感を持ってトライしていきたい。
女子サッカーは社会が小さいこともあり、女子ならではの方向性で普及・強化・育成それぞれを深く関連づけて、一体化させて、統合して大きく発展させていきたい。4年後の東京五輪でチャンピオンになることを最大の目標としていますが、女子サッカーの発展をその先も進めていくために、2020年の先への種まきも今の時期にやりたいと考えています」(今井女子委員長)
【サッカーを女性の身近なスポーツにするーー普及】
普及における大きな目標は
「2030年に登録数20万人を目指す」こと。
現在、JFAに選手登録している女性選手数は49210人(うち、チーム所属の登録選手数は27169人/2015年度)だという。最近になって、約100万人と言われる、男子も含む全国の選手登録数全体の5%を超えた。
※女子サッカー創成期からの選手の登録者数の推移を見ると、日本女子代表が活動を始めた80年代から徐々に選手の数は増え、89年に1万人を突破。Jリーグバブルの機運も手伝い、95年には2万3000人を超えた。そして、アテネ五輪予選の劇的な勝利を経て、「なでしこジャパン」の誕生など、時代とともに右上がりのグラフを描き、2006年に3万5000人、女子W杯優勝後の2012年には4万人を突破。5万人まであと一歩というところまできた。
そして、「2030年には20万人にすること」を目標としているという。
※登録数に関して、現在、4種(12歳以下の年代)では、男女を分けずに一つのカテゴリーとしている。小中学生年代は女子が男子の中で一緒にプレーすることはパフォーマンスを向上させる上でも良く、チームの受け皿が増えるということもあるため。この年代で大切なのは、「どのチームでプレーするか」ではなく、「プレーする選手が増えること」としている。
普及におけるもう一つの大きな目標は
「3種年代(13歳〜15歳)のプレイヤー数減少のギャップに取り組む」こと。
「年齢別の女子選手数」には、現在の女子サッカー界の課題が特徴的に表れている。
年齢別の女子選手数のグラフを見ると、中学生になる13歳で大きく減り、高校生になる16歳でまた増えるという特徴的な形のグラフになっている。これは、中学年代のチーム数(サッカーを続けたい選手の受け皿)が少ないためだ。バレーボールやバスケットボールでは、13歳以下の年代が一番多い。それまで女子サッカーをやっていた選手が活動する場を見つけられず、やむを得ず他の競技に移ってしまうことも一因である。2005年と比べると、プレイヤーの絶対数は大きく増えている(たとえば、11歳では05年に3600人だったのが15年には5600人近くまで上昇)が、グラフの形は変わっていない。つまり、中学年代の受け皿を増やすという課題は変わっていないのだ。
改善のための具体的な施策として以下の4つを挙げている。
1)中学校体育連盟(中体連)加盟を目指す(中学の女子サッカー部を増やす)
中体連は、中学校の女子サッカー部が少ない。そのため、女子サッカー部を増やし、部活動でサッカーが出来る環境を整える。男子のサッカー部に混ざってプレーをする選手も相当するいるが、身近に女子の活動する場がないので仕方なくそういう形を選択するケースも多い。クラブチームやスクールを増やすことも大切だが、子供や親にとって一番身近な環境と思われる部活動を増やすことを重視。チームの顧問の数が足りないことや、熱心な指導者が転勤してしまうなど、中学校が抱える部活動の難しさを、好事例を参考に解決していく。
高体連(高校体育連盟)女子サッカー部ができたように、中体連女子サッカー部ができて、中体連の大会ができるという形を目指す。中体連で全国での大会を始めるためには、全国くまなくチームがある状態という条件がある。5〜6年後を目標に進めていく。
2)国体少年女子カテゴリー創設を目指す(5〜6年後を目標に)
現在、サッカーにおいて国体は「成年男子」「少年男子」「成年女子」の3カテゴリーしかない。たとえばハンドボールや陸上競技、ホッケーなど、女子サッカーより競技人口が少ない競技でも「少年女子」のカテゴリーを持つ競技は多くあるため、サッカー界としてもチャレンジすることが必要だと考える。都道府県のサッカー協会や、体協、自治体などからのマンパワーや強化を進められる強みがあり、この年代を作ることで、各都道府県が県内の少女達の育成をつなげていく動きが出ることが期待できる。国体は大体5年先まで会場も競技数も決まっているので、次に変化が期待できるのは5〜6年後になる。国体カテゴリーの変化により、1)の中体連加盟校の増加も見込めると期待している。
3)Jリーグとの連携
現在、Jリーグクラブのうち女子を持っているのが9チーム。Jリーグの中でも「女子部会」という組織を作って検討し始めている。「クラブが女子チームを持ったいきさつ」「どんなメリットを感じているか」「持つためにどんな課題があるか」など議論を重ねている。13歳〜15歳のギャップという課題も検討した上で、その年代のスクールを作る可能性なども検討している。Jリーグクラブが女子チームを持つことで、女性指導者の受け皿としても期待できる。スクールで女性の指導者を雇用してもらい、フェスティバルや巡回指導やスクールを通じて、女の子達に馴染みやすい場所にもなるのではないか。雇用があるということで、現役選手たちが指導者になっていくキャリアのイメージも持てるのではないか。
4)普及コーディネーターの開始
普及において、都道府県の状況は都市部と地域でも状況が異なる。中央からの共通の施策だけでは形にならないため、地域毎に丁寧にそれを上手く繋げて形にしてくれるエネルギーのある人を大切にしたい。たとえば、フェスティバルを開催し、参加した子供たちが次にどこで何をしたら良いのかということを考える、指導者を上手く配置する、教育委員会に働きかけるなど、地域の状況を知った上でエネルギーを持って繋げる人。3年前から構想があったが、今年10程度の都道府県で試行して、好事例を作って来年47都道府県で女子のクラブを増やしていく予定。男子ではユースダイレクター(都道府県の各年代のリーグ戦を整える、一貫指導を整える課題を克服する人)がいて、その女子版と考えている。女子の場合は普及が一番の課題なので、集中的に取り組み、育成や強化にもつなげていく。
また、「年齢別の女子選手数」グラフから分かるもう一つの課題が、「18歳以降の選手数の減少」だ。
「競技はここ(18歳)まで一生懸命やって、あとは引退してという考え方をする選手もいるのかもしれません。私自身もそうでした」(今井女子委員長)
現役選手が継続することも大切だが、日本では大人になってからサッカーを始める女性もいるため、何歳になっても楽しめるスポーツにしていく環境を整えていく。
【なでしこジャパンが世界のトップクラスであり続けるーー代表強化】
女子サッカーが発展するための2つめの柱が「代表強化」。3つの柱で最もフォーカスされやすく、育成や普及とも切り離せない。女子委員会では、このテーマについてもいくつかの課題と対策を挙げている。
「2020年東京五輪で優勝を目指す」
「なでしこジャパンは2020年東京五輪で優勝を目指すことを目標に高倉麻子監督を代表監督として選出し、全面支援をしたいと考えています」(今井女子委員長)。
そのための施策としては以下の2つを掲げた。
「代表チーム強化の全面支援」と、「選手の日常のプレー環境改善」だ。
【代表チーム強化の全面支援】
1)活動日数の確保
五輪予選で敗退した反省の中で、特に大きな問題点として「活動日数の確保」がある。特に、大事な大会に臨む前にしっかりした日数を確保して良い形で大会に入ることが大切で、そのための日数と試合数はしっかり確保していく必要がある。
たとえばアメリカは、代表の試合を多く行っている。他にも、リーグを短くして代表の活動を集中的にしている国もある。日本はなでしこリーグと代表をどのような組み合わせにしたら活動日数が確保できるか。女子サッカーのサイクルが4年で、2年目にアジアカップ、3年目にW杯、4年目に五輪という均等ではないサイクルがあるため、4年分の計画を立てて今後リーグと調整していく。試合数だけでなく、有効な試合や活動が出来るように精査していく必要がある。
2)サポート体制、情報収集・活用の充実
コーチングスタッフの数やポジションは十分に配置する。代表チームのコーチングスタッフの中だけでなく、スポーツ科学の面や情報収集・分析の面など、外部からのサポートを厚くしていきたい。特に海外の情報収集が、国内で調べるだけでは入りきらない情報もあるので、現地にいる日本人の指導者を上手くネットワークを作って情報を得る。
【選手の日常のプレー環境改善】
1)なでしこリーグのレベルアップを図る
選手のプレー環境を改善するためにできることを考え、議論する。集中してプレーできるような環境を整えていく必要がある。現在、JFAにプロ登録している日本人選手は11人。関連企業に勤めながら競技に集中している選手もいるが、登録の数字には入っていない。プロ選手になった方が良いのか、企業に勤めながらプロに近い形でプレーすることが良いのか。後者は安定性のメリットもあり、好みの問題もある。男子の例を見ても、プロスポーツのあるべき姿は、プロ選手として活動していくことが理想だと考えているが、選手もチームも、どうしたらそう感じることができるかを議論を重ねていきたい。
2)海外のリーグとの研究・交流
若手を中心に海外での活動の促進、支援を行う。今までも、海外強化指定選手制度を作って多くの選手が海外でプレーをし、プレッシャーや海外選手のプレーに触れ、心身の自立を促進し、それらが代表チームに還元されて成果が出た面もある。
制度についてはこれから理事会で議論するが、特に若手が海外でプレーできる環境を確保することで、東京五輪に向けて、世界レベルでの強化を図る。
【世界基準の「個」を育成するーー育成/指導者養成】
そして、3つめの柱が「育成」と「指導者養成」。ここ数年、欧米の強豪国をはじめ、多くの国が女子サッカーの育成に力を入れている。中でも日本の育成はかなり整備されている(筆者の)印象があるが、女子委員会が掲げる今後の課題とは。
「育成ーー勝ち続けるために、育成のさらなる充実を図る」
「女子代表は育成年代も順調に成果を上げて、なでしこジャパンにつながる良い経験はできていると思います。しかし、それはパイ(競技人口)が少ない中で、どんな選手がどこにいるかということが比較的見えている中で順調に行っているということだと思います」(今井女子委員長)。
競技人口を増やし、その中でいかに良い目を持って、「なでしこのサッカーを実現するために必要なクオリティを備えた選手」を発掘・育成するかが重要となる。
そのために施策として以下の4つが掲げられた。
1)ナショナルトレセンコーチのグループの強化
このグループは、選手の直接の発掘・育成だけではなく、地域の指導者にコンセプトや指導を伝えていく大切なグループであり、地域の指導者も含めた発掘・育成をする。また、JFAがやりたいと思っている施策を地域で行うための意図や趣旨を現場で伝える大切な役割を担うため、人数を増やし、質を高める研修を行う。
2)トレセン・エリート〜代表立ち上げへの道筋の精度を高める
現在比較的うまく行っている。
3)タレント選手のフォローアップの仕組み確立
エリート選手の受け皿は多くない。才能豊かな選手は全国にいるが、JFAアカデミーや(日テレ・)メニーナなど、強豪クラブに漏れてしまった選手のその後をフォローアップしたい。そのために、トレセンシステムの中でも把握・追跡し続けること。選手はいろんな刺激を受けていろんなタイミングで成長するものなので、ある時に掬い上げられなくても、それによって網の目から漏れてしまったり、中学年代で他の競技に行ってしまうということを避けたい。いろんなタイミングで伸びるいろんな子達をいろんなタイミングで見ていられるようなネットワークを確立していく。そのための議論をしていく。
4)ブランクの無い育成を目指す
■「国体少年少女」カテゴリーの創設を目指す(「普及」のカテゴリーと共通項)
中学生まで続けられたとしても、中3の後半で引退して高校生になって1年生の前半などはゲーム環境が少なく、良いゲームやトレーニングがしずらい状況がある。しかし、成長を考える上ではすごく大切な年代でもあるため、途切らせないために、男子の方では国体少年の部を18歳から16歳に変更し、都道府県での強化の活動を続けられるようにした。
女子も、現在中3〜高1は受け皿が少なく、本当のエリートは高1の最初から試合に出られる環境があるとも言われるが、もっとパイ(競技人口)が大きくなったら難しくなってくるため、前もって準備して、国体の強化、チームの強化、代表活動が組み合わさった形でこの大切な年代に良い刺激を与え続けたい。
■ワールドカップに直接当たらない年、年代の計画的活動(現在はU-23のみ)
育成年代のW杯はU-17とU-20がある。(各年代代表は)ほぼ2年刻みでチームを立ち上げており、たとえば今年は10月にU-17W杯があるが、そこでは2学年(16歳〜17歳)の選手がフォーカスを当てられる。育成年代では上の学年(17歳)の年の選手の方が多くの機会が得られて、そこに16歳の年代のレベルの高い選手が入る形になるので、2歳刻みで「(経験が)濃い年」「薄い年」が出てしまう。上のカテゴリーも同じで、U-20では20歳以下の中に19歳が入っていくため、同じように上の年代と下の年代で強化の濃さが変わってしまう。生まれた年によって良い機会を与え続けられる学年と、機会に恵まれないまま上に行ってしまう学年がある。それをなくすために、間の学年にも刺激を与えていきたい。
特にアメリカやヨーロッパでは、毎年15・16・17・18・19歳とすべての年に代表チームがあり、活動が行われている。その形は目指さないと、多くのタレントに十分な機会を与えられないのではないか。少しずつでも入れていくために計画している。
「指導者養成ーー女子サッカーに関わる女性指導者・審判の数を増やし、レベルアップを図る」
「現在、女性指導者は3%(女子選手19人当たりに1人)。まだまだ不足しています」(今井女子委員長)
プレイヤーの増加のあとについてくるものだとも考えられるため、今後増加が期待される。女性指導者の数を増やし、質を高めるために、以下の5項目を挙げた。
1)なでしこリーグ現役選手へのC級受講
なでしこリーグプレーしている選手たちはサッカーに対する理解の深さや経験からも、今後指導者として最も期待されるグループになる。しかし、選手は自分が指導者になるというイメージが持てず、資格を取ろうと考えない傾向がある。指導者を仕事にしている人が少ないこともあるが、自信やイメージが持てない。そのため(きっかけを作るために)「騙されたと思って受けて見なさい」ということも必要だと考えている。
現役選手がライセンスを取ることはサッカーを整理する上で良い勉強にもなる。そのため、選手としてのパフォーマンスや選手生命が伸びると実際に受けた選手は話す。
なでしこリーグは1部と2部で(育成を除いて)約500名おり、すべてというわけにはいかないかもしれないが、このグループにC級を受けてもらうことは、指導者養成において大切だと考える。普段は一週間で集中して受けるものだが、オフの時期に選手コースを開催したり、たとえばJリーグではクラブのインストラクターがいるので、クラブの中で日々の練習や試合との日程の兼ね合いをしながら、数ヶ月かかったとしても全カリキュラムを終えることで無理なく取ってもらえるようにサポートする(ライセンスは大学で取ることもできる)。今後、可能な方法をなでしこリーグの各クラブに相談し、JFAからインストラクターも派遣していく予定。
ドイツ協会は現役選手のライセンス取得を推進していて、現役選手が引退するまでにA級を取得しておくような状況を作っている。たとえば、U-20の監督(32歳)・コーチ(30歳)はずっと代表で活躍して、引退してすぐにU-19の代表チームの監督になった。選手のうちに行っておくことで、早くに高いレベルで指導に入ることができる。指導者ライセンスも、体が動くうちに受講することは大切なので、タイミング良く受けることを促進していきたい。
2)OGの指導者資格取得(特に、2011年優勝メンバーへの個別働きかけ)
OGのコースを毎年コンスタントに開催し、OGの仲間から趣旨を説明してもらい積極的に受けてもらう。特に、2011年W杯優勝メンバーには個別に働きかけて、上位級を目指して早めに受講できるように促進したい。知名度においても、女性指導者の活躍の道があると示せる点でもロールモデルになり得るが、それ以上に、彼女達の選手としての経験が優れた指導者になる要素を多く備えていると考える。向き不向きはあると思うが、指導の勉強をしてもらうことが、他の選手に大きな影響を与えると期待される。
飛び級はなく、ステップを踏む必要があるが、良い指導経験を積みながら取れるように丁寧に話し合いをしていく。特別措置としては、「現役選手で代表キャップ20以上」、「なでしこリーグ200試合以上の選手」の特別措置は男子同様にあり、該当する選手はC級をE-ラーニングで受けて、最後に指導実践だけで取得できる(集合する負担を減らせる)。その資格を持つ選手は現在20人程度いるが、指導者養成は周囲の人と一緒に受けることで学べることが多い面もあるので、通えるのであれば通った方が良いのではないかということもある。(受講者が)まとまった数にならないと実施が難しくなるため、「女性コース」に加えて「選手コース」もあれば受けやすいのではないか。
海外にいる選手が海外でのライセンスに挑戦できるような状況も、個別に話をしていく予定。
3)上位級へのチャレンジの促進
現在、C級からB級、B級からA級、A級からS級とチャレンジするためには、男性の方にも応募者が多くいるため、コース毎にセレクションにあたる事前の指導実践を受けて、その成績によって上がるというシステムになっている。そのセレクションが壁になってしまうこともあるため、壁にしないために、上位級へのチャレンジしたい女性コーチ達を事前に集めて、年4回スキルアップを目的とした上位級チャレンジのためのセミナーを開催している。与えられたテーマについて指導してみせる指導実践で、実力アップと自信をつけてもらう。また、各地域や都道府県に前もって「この指導者が受ける」ということを事前に通知する。目標としては、S級ライセンス受講に毎年2〜3人を送り込めるようにしていきたい。現在5人のS級取得者がおり、6人目のS級指導者候補が種田香織さん(元岡山湯郷Belle監督)。ドイツのS級ライセンスも、25人の定員の中でコンスタントに2人ずつぐらい女性が受け続けている。
4)女性インストラクター増
指導者養成の講師を勤める女性インストラクターを増やす。現在。C級とD級で女性が11人(2%)いるが、B級、A級、S級はまだいない。だが、インストラクターになるためにはA級以上のライセンスが必要になるため、上位級の指導者を増やしながら、指導者養成のインストラクターができる女性を増やしていく。
5)女性指導者の海外へのチャレンジを促進。需要に応える
なでしこジャパンは以前からアジアで上位チームだったこともあり、指導者を派遣してほしいというリクエストが多い。また、アジアは宗教や社会の関係で女性指導者を、というリクエストが非常に多い。しかし、日本側に送れる指導者が準備できておらず、ほとんどお断りしている(モルジブで活躍する女性指導者が1人だけいる)。男性が海外に行く場合と違い、年齢や状況、家庭との兼ね合いもあり、より難しい面はあるが、ヨーロッパや世界の強豪国ではそういった女性インストラクターが活躍しているため、日本も海外でチャレンジする女性を増やし、貢献していきたい。そのために、そのような需要があるということを早いうちに女性指導者達に伝えて、短期・中期の機会を作りたい。
※現在の有資格指導者数は、S級5人(全体の1%)、A級19人(1.5%)、B級136人(3.2%)、C級1246人(4.4%)、D級1182人(2.7%。)
【今後の検討課題】
1)フットサル:代表強化・普及・指導者ライセンスの整備
フットサルは、現在AFCの選手権が始まっており、FIFAの大会も始まる予定。女性は宗教の関係もあり、イランなど、屋内のフットサルだけやっている国がある。そういった競技でもあるので、フットサルは女子サッカーにおいてももっと大切にしていこうという動きがある。代表の大会が始まる時に、男子フットサルと同じように先んじて上位に食い込んでいることは大切なので、女子委員会としても、フットサルの強化にも今後は直接関わって行きたい。また、11人集まらないけれど、5人なら集まる場合もあるかもしれない。大人になってから始めやすい競技でもあるので、普及の面でも期待が持てる。
※現在フットサルの登録人口が44057人(全体)のうち、女性が4882人(11.1%)。エンジョイ層も、21114人(全体)のうち、女性が3597人(17.0%)。
まずは楽しむ人(エンジョイ層)を増やし、登録して楽しんでもらうために登録するメリットも考えている。このグループを迎え入れるためにもフットサルに普及の面でも取り組んでいきたい。
2)なでしこOG、大学生などの人材活用
指導者や審判に加え、メディアやプロモーション会社に入ったり、協会の運営に入ったりと、女子サッカーの発展にいろいろな関わり方がある。OGの中でフェスティバルで一緒にプレーするなどの機会はあるが、より女子サッカーの発展に関わりたいというOGも多いが、きっかけがない場合も多いため、なでしこOGのグループと話し合いをして検討を始めている。OGは(女子サッカーを盛り上げたい)思いも強い人が多いので、そういった意見を上手く反映させ、人材としてのパワーを活用して行きたい。大学生も同様で、もっと上手く関わってもらう。運営に携わってもらうだけでなく、企画・運営に責任を持たせる。イングランドなどではユースカウンシルという組織を作って研修もさせ、オーガナイズ・マネージメントをさせた上で活動している。日本はスポーツマネジメントに携わりたい学生が増えているので、マンパワーを発展に向けて上手く活用していきたい。
3)女子サッカーカンファレンスの開催
フットボールカンファレンスという、指導者のカンファレンスは2年に1度行われている。これは指導面のことがほとんどで、女子サッカーは分科会では扱われるが、本体のトピックとして扱われたことがほとんどないため、女子サッカーをメインにしたカンファレンスを開催したい。指導面だけでなく、普及面・プロモーションや、他競技の女性たちにも関わってもらう形で、女子サッカーカンファレンスを行いネットワークの構築や発信をすることを年内を目標に計画中。
質疑応答
※「高校サッカーのレベルが上がったことで、クラブチームではなく高校のサッカー部でプレーする優秀な中学生が増えた。この現状を代表の強化にどう繋げるか」という質問への回答
自分のクラブで育った生え抜きの選手がトップチームに上がることは目指すべきだと考えるが、なでしこリーグのチームにその地力(良い指導者や環境整備)があるところとないところがあり、そういった力をつけることをクラブが目指していくことも大切。一方で、女子高校サッカー選手権が始まったことで女子サッカーを始める高校が増えたことは普及の面で良いことで、指導者や選手の受け皿が増え、プロモーションの面でも効果が大きい。今は「女子サッカーをやりたい」と思う女の子を増やしていくために、普及・プロモーションが大切な段階だと考えている。いずれは、各クラブで理想の育成を積み重ねてトップチームに繋げて行くことは目指していくところだと考えている。代表としては、いろいろな特色のあるチームの中で育った選手の中から常に良いと考える選手をピックアップし、代表活動を重ねる中で勝利を目指す。そのためにも、多くの良いチームが選手を育てて代表チームを強化していくことが、その国の女子サッカーの強さにつながる。
※国内でクラブでプレーする選手たちに対する経済的な支援の可能性を問う質問への回答
JOCで強化指定選手制度があり、どの競技でもトップの選手に対しては一律の支援がある。その他の選手に個々に経済的に支援することによる効果があるかどうかは検討が必要。他国では、代表選手を協会が雇っている国もあるが、長期に渡るリーグをしっかりプレーすることで選手が育って、その中からピックアップした代表選手が世界で戦うというのが一番適した形だと考えているので、個々の選手へのサポートとよりは全体のサポートを考えている。
現在、日本はプロ契約をしてプレーしている選手は少ないが、ドイツでもフランスでもそういう選手は少ない。何が女子サッカーの中で一番持続可能で健全な形かは、常に状況が変化する中で考えていきたい。
アメリカはプロリーグを創設して、やめる、というサイクルを数回繰り返している。続けていくことは大事なことだと考えているので、そのために何が必要かを見極めていきたい。
※ライセンスをとった元現役選手たちが指導者として活躍できるように、積極的に現場とつなげていく考えはあるのか?という質問への回答:
【普及】の項4)の普及コーディネーターが、適切な場に配置する。チームや需要などをJFAと各地普及コーディネーターが考える。Jクラブでも、クラブとJFAがコミュニケーションを取り、需要と供給をつなげていく。大学や中学・高校のチームは増えており、大学や中高一貫の女子校などでも需要はある。一方、海外と同じで紹介する指導者が少ないため、勢いを持って進めて行く。
※結婚・出産を経た女性指導者をどう現場での活躍に結びつけて行くか?という質問への回答
以前、宮本ともみさんが女子代表で結婚と出産をされて、ベビーシッターを代表に帯同させて復帰してもらった経緯がある。今でもオープンで機会があれば続けたいサポートだが、今はそういうケースがない。リーグでもそのケースは少ないため、ロールモデルとなるケースを示して行きたいし、サポートをしていきたい。審判も同様で、結婚・出産後にも復帰してもらうために、育休で活躍している例もあるし、そういったケースをもっと伝えていく必要がある。サッカーはフィジカル面もあるが、経験などの要素が高い競技でもあるので、30代を超えても子供に応援されながら高いレベルでプレーするという状況を作っていきたい。