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「もふもふ」は穏やかでやわらか 「まふまふ」は? オノマトペをAIで読み解く

南龍太記者
もふもふした犬(写真:CavanImages/イメージマート)

さらさら、ふんわり、もふもふ、ばたん――数えきれないほど多く存在し、新たに生み出されてもいく擬音語などのオノマトペ。その言葉の持つ印象を、AI(人工知能)によって解き明かそうとする研究が進んでいる。医療や商品開発の現場など、応用が期待される範囲は広い。

同分野の第一人者、電気通信大学副学長で情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授の坂本真樹さんにインタビューで話を聞いた。

オノマトペを数値化

坂本さんは「さらさら」や「ざらざら」、「さらり」、「ぽろり」などのオノマトペがまとっている「滑らかさ/粗さ」「きれい/汚い」「強い/弱い」といった印象を、AIを通じて定量的に評価する研究に取り組んできた。「外界の情報を知覚し、感じる能力」、感性に基づくデータを数値化するという。

開発したシステムで任意のオノマトペを入力すると、その言葉の子音や母音、音素や反復などをAIが機械的に読み解き、「明るい/暗い」や「凸凹な/平らな」、「つやの有/無」といった数十の感性のパラメーターごとに0~1の範囲で自動的に解析し、数値化できる。

「ふわふわ」の入力結果
「ふわふわ」の入力結果

例えば、「ふわふわ」の場合、「やわらかい」が0.74、「薄い」が0.05といった具合だ。一方、「もふもふ」と入力すると、「やわらかい」は0.82、「薄い」は-0.45、つまり「厚い」0.45という結果が導き出される。

「もふもふ」の入力結果
「もふもふ」の入力結果

このシステムを用いると、例えば「ジョガジョガ」のような聞き慣れない、創作的なオノマトペが抱かせる印象を数値化することも可能となる。「ジョガジョガ」は「落ち着きのない」「動的な」「粗い」といった項目で高い値を示した。

社会に実装する

AIを活用したオノマトペの研究を実社会に生かせる余地は大きそうだ。

例えば医療の現場で、患者が感じる痛みを「頭がずきずきする」とか「がんがんする」とか「ちくっとした」、「ひりひりする」などと表したとする。その場合、まずそれぞれのオノマトペが与える印象を、先ほどと同様に数値化する。続いて、英語や中国語など各言語の語彙でその数値に合致するような表現に置き換えれば、異なる言語を話す医師と患者の間の円滑なコミュニケーションにつながると期待される。

また、ディープラーニング(深層学習)による画像認識を介した研究も進む。例えば、岩の画像を入力し、AIが認識したデータに基づき、「ごつごつ」などのオノマトペとして出力されるといった仕組みだ。

この技術をさらに応用し、画像から関連付けられた文章を、AIが生成することも可能となっている。人間の創作活動にインスピレーションをもたらしそうだ。

画像に基づいてAIが自動で文章を生成するモデル
画像に基づいてAIが自動で文章を生成するモデル

商品開発に活路

坂本さんの研究は既に商用段階に進み、パッケージ化したサービスとして展開している。

坂本さんが京王電鉄と立ち上げたベンチャー「感性AI」(東京都調布市)は、6月1日からオノマトペとAIを駆使したマーケティング向けサービスを提供する。

その1つ「感性AIアナリティクス」は、商品のネーミングやキャッチコピーが消費者に与える印象を、AIが瞬時に定量評価し、商品の持つ感性価値を解析するサービスだ。まさに坂本さんの研究の集大成ともいえる。

同時に提供を始めるもう一つのサービス、「感性AIブレスト」は反対に、消費者に与えたい印象から逆算して、好ましいネーミングやキャッチコピー、パッケージの候補となるアイデアをAIが複数提案する。

いずれのサービスも商品開発の現場などで役立ててもらうことを想定している。

* * * * *

今若者を中心に人気を誇る歌手のまふまふさん。オノマトペっぽくもあるその名前を感性の数値化システムに入力した結果は、下記のようであった。まふまふさんのキャラクター「まふねこ」の印象と考え合わせると興味深い。

「まふまふ」の入力結果
「まふまふ」の入力結果

もふもふのように、一昔前はなかったオノマトペが、いつの間にか市民権を得て、さらに「もふってる」のように派生していく例は珍しくない。こうした新しい言葉を、AIの場合は幾度も試行錯誤を繰り返して生成していくが、「人間は頭の中にある知識や経験などのデータベースから瞬時に適切な音を組み合わせる、素晴らしい能力を持っている」と坂本さんは話す。

今後、社会における自然発生的な新オノマトペの創出に加え、AIが人間の感性に訴えるオノマトペを生成する機会も出てくるかもしれない。

坂本真樹さかもと・まき

電気通信大副学長、情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。東京外国語大外国語学部卒、東京大大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程修了。http://www.sakamoto-lab.hc.uec.ac.jp/

(画像はいずれも坂本さん提供)

記者

執筆テーマはAIやBMIのICT、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、今年度刊行予定『未来学の世界(仮)』、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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