ノート(8) 強制捜査に向け、逮捕状や捜索差押許可状はどうやって取るのか
~葛藤編(5)
逮捕当日(続)
逮捕の準備
最高検察庁が徹底捜査を宣言したと言っても、「最高」の検事がそろっているわけではなかった。そのメンバーは各地検の検事正になる一歩手前か、そのまま務め上げて退職するといった、現場の第一線から離れて久しい検事がほとんどだった。
取調べ室で被疑者を取り調べたのも昔の話であり、長年のカンや経験に基づいて現場に指示は出しても、自ら汗をかこうとはしない者ばかりだった。
司法試験合格時の年齢の高さや検事としての能力の低さ、不倫やセクハラ、不祥事など、様々な事情から検事正になれず、あるいは検事が数名しかいない小規模地検の検事正を務めただけでキャリアを終える者もかなり含まれていた。
そうした最高検が、自ら逮捕や捜索に向けて一から書類を作成し、令状請求の準備をするとは考えにくかった。
特捜部長を経験するなど特捜経験の抱負な検事が中心となって事件のストーリーを描き、東京高検や東京地検から中堅、若手といった働き盛りの検事を応援として取り、手足として使うのだろうと思われた。
その上で、大阪の事件なので、まずは大阪高検を通じて大阪地検、具体的には逮捕や捜索に手馴れている特捜部に下準備をやらせるのだろうと考えた。
逮捕には、現に罪を行い、または行い終わったばかりの者に対する「現行犯逮捕」や、死刑、無期、長期3年以上の懲役・禁錮に当たるような重大事件でひとまず身柄拘束を先行し、後から逮捕状を取る「緊急逮捕」もある。
しかし、検察が独自に事件を立件して捜査する場合、逮捕といえば先に逮捕状を取る「通常逮捕」と呼ばれるやり方を意味していた。
同時に、検察がわざわざ逮捕状を取って逮捕するということは、検事総長を含めた幹部の決裁や了承を得ているものであり、勾留までした上で、最終的にそのまま起訴するということをも意味していた。
逮捕状の取り方
検察の隠語では、逮捕状は“キップ”とか“おふだ”と呼ばれ、捜索差押許可状は“ガサ状”と呼ばれる。裁判官にこうした令状の発付を請求する際、あらかじめ用意しておかなければならないのは、以下のようなものだ。
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