ノート(9) 逮捕に向け、いよいよ最高検に身柄を引き渡される
~葛藤編(6)
逮捕当日(続)
USBメモリー
そうこうするうち、僕の執務室に資料課のメンバーがやってきた。前日の9月20日に僕がノートパソコンを提出したベテラン事務官の一人だった。
僕はフロッピーに保存されていたオリジナルの文書データをUSBメモリーにコピーし、そのまま手元に残していた。このことは、前日の内部調査で検事正らに説明していたし、その指示で僕がこれまでのてん末をまとめた「報告書」にも記載していた。
フロッピーのデータを専門業者に依頼して解析しても、単にデータが書き換えられていることや、いつ書き換えられたのかが分かるだけだった。誰がそれを実行したのか、また、故意によるものか過誤によるものかは、データの解析では絶対に確定できないことだった。
僕が提出したパソコンにも、問題のデータを操作した履歴などは残っていなかった。伝聞や再伝聞、風評を含めた様々な証言こそあったものの、僕の改ざん事件では、実行犯が誰なのか、共犯者や協力者はいるのか、故意犯か否かといった、事件の核心部分を証明する客観的な証拠など存在しなかったのだ。
もちろん、内部調査や「報告書」では、僕がデータを検証している中で誤って書き換えた可能性があるという説明をしていた。しかし、誰かをかばうための作り話かもしれず、まずはその前提から疑いの目を持ち、あらゆる可能性を想定して真相を解明するのが捜査だった。
それでも、問題のUSBメモリーがほかでもない僕自身の手元にあり、僕から押収したということであれば、少なくともデータを検証したのが僕だったという「報告書」の記載を裏付ける強力な事実となる。資料課の事務官が僕の執務室にやってきたのも、僕からこのUSBメモリーの提出を受けるためだった。
思ったとおり、最高検は、大阪高検を通じ、逮捕に向けた下準備を大阪地検特捜部にやらせていた。
行確
現にトイレに行くために執務室を出ると、空き部屋だった隣の執務室の扉が全開になっていた。
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