子どものインフルエンザ重症化 その兆候に早めに気づく
全国的にインフルエンザの流行が続いています。これからクリスマス、忘年会、そして正月帰省などイベントが重なり、世代や地域を越えて感染が拡がる可能性があります。4年ぶりの本格的な流行となりそうです。
新型コロナのパンデミックが発生した2020年春以降、日本では、約4年にわたりインフルエンザの流行がありませんでした。このため、日本社会では集団的な免疫が低下して、インフルエンザが流行しやすく、また流行が持続しやすくなっていると考えられます。
とくに、5歳未満の幼児では、一度もインフルエンザに感染したことがないため、たとえば保育園や幼稚園で、急速に感染が拡がる可能性があります。いわば、新型インフルエンザのような状態とも言えます。
感染対策の考え方は、新型コロナと同じと考えていただいて構いません。換気をしっかりして、クラスや学年を越えて密集するようなイベントを減らすこと。そして、症状のある職員や園児に早めに気づき、休ませるようにしてください。
余談ですが、手洗い場で密集してうがいをさせている光景を(テレビなどで)見かけますが、エアロゾルを発生させているので避けた方がいいと思います。実のところ、うがいには、インフルエンザ予防効果についての確たるエビデンスはありません。文化なので否定しませんが、熱心にやるものでもないと思います。
一方、ワクチンによる予防効果は期待できます。6歳以上の小児についてのレビューでは、有効性(VE)が「64%」との分析結果が出ています(Jefferson T, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2018;(2):CD004879.)。これは、ワクチン接種によって100人の感染のうち64人の感染を防ぐことができるという意味です。
沖縄県では小児2人がすでに死亡
沖縄県は、気候の違いもあってか、全国に先行して流行していました。10月からは減少してきていたのですが、このところ下げ止まっており、正月明けに再流行するのではないかと警戒しているところです。
そうしたなか、今週(12月20日)、沖縄県は、県内在住のお子さん2人がインフルエンザ感染後に死亡していたことを公表しました。いずれも基礎疾患のないお子さんで、インフルエンザ脳症を発症していたことが確認されています。この公表は、感染症法で定められているものではありませんが、ご家族の同意を得たうえで、県民への注意喚起のために行ったと聞いています。
2020年以降の新型コロナの流行において、沖縄県内における小児の新型コロナによる死亡例は1人でした。一方、今回のシーズンだけで、すでにインフルエンザで2人がお亡くなりになっています。本当に痛ましいことです。
インフルエンザでは、普通の風邪と異なり、高熱や頭痛、関節痛、筋肉痛など全身の症状が強く現れます。さらに、脳症や心筋炎などを合併して、重症化することもあります。小児にとっては、新型コロナよりも怖い感染症かもしれません。
急速に進行することが特徴
高齢者であれば、インフルエンザ症状が数日続いた後に細菌性肺炎の合併などで重症化することが一般的です。一方、子どもの場合には、体に入ってきたウイルスを攻撃する免疫が過剰に働いて、脳や心臓などに激しい炎症が起きることが重症化の原因となります。つまり、一種のアレルギー反応であり、一般的には数時間~1日以内と急速な経過をとることが特徴です。
2009年の新型インフルエンザの流行において、各自治体は、日本国内で亡くなられた38人のお子さんの臨床経過を個別に公表しています。厚生労働省は、これらを収集して報道発表しています。この大切な資料から、典型的と考えられる2人のお子さんの経過について紹介させていただきます。
10代前半・女児 夜から38度台の発熱と嘔吐があり、近隣の医療機関を受診した。インフルエンザの抗原検査は陰性であり、解熱剤など症状を緩和する薬を処方されて帰宅した。翌朝、39度台にまで上昇し、呼吸が早くなってきたため再受診した。そこで肺炎が疑われたため、他の医療機関を受診するように勧められた。1時間後、紹介先の病院を受診したが、待合室で心肺停止となった。すぐに蘇生措置が行われたが反応はなく、2時間後に死亡が確認された。のちにPCR検査でインフルエンザA型が確定し、病理解剖が行われてウイルス性心筋炎が死因と診断された。
5歳未満・男児 起床時に体温が39.9度あったため、午前中に近隣の医療機関を受診した。会話は可能であり、発熱以外の症状は認めず、解熱剤のみ処方されて帰宅した。同日の午後1時、呼吸停止しているところを保護者が発見した。すぐに救急搬送されたが蘇生措置には反応なく、死亡が確認された。このとき、インフルエンザの迅速抗原検査で陽性を確認した。病理解剖は行われなかった。
子どもがインフルエンザで重症化するときは、このように経過が速いことが特徴です。亡くなられた38人のお子さんでは、発症当日に亡くなられたのが3人で、翌日に亡くなられたのが最も多く11人でした。そして、半数以上にあたる20人が2日以内に亡くなられています。
直接の死因としては、脳症がトップで11人(28.9%)、肺炎で6人(15.8%)、多臓器不全と心筋炎がそれぞれ4人(10.5%)でした。心筋炎の場合、急激にショックになり死亡することがありますが、小児では病理解剖となることが少ないため、心筋炎の診断に至らないまま多臓器不全とされている症例が多いと考えられます。
なお、気管支喘息など基礎疾患があるお子さんが15人(39.5%)でしたが、逆に、23人(60.5%)は基礎疾患のないお子さんでした(高山義浩,他:日本における患者発生動向.ICUとCCU,34(10):169-174,2010.)。
重症化の兆候に早めに気づく
こうした合併症を家庭で早期に見抜くためには、どうしたら良いのでしょうか? 経過が急速であることを踏まえ、とりわけ発症当日には注意深く観察してください。なるべくお子さんをひとりにせず、定期的に状態を見守ることが大切です。
お子さんを見守るうえでの観察ポイントは、意識と呼吸、そして脱水の状態の3つに分けられます。
意識状態の危険兆候
1)手足を突っ張る、眼が上を向くなど、けいれん症状がある。
2)ぼんやりして視線が合わない、呼びかけに答えない。
3)意味のないことを言うなど、普段とは異なる言動がある。
呼吸状態の危険兆候
4)呼吸が早くて、息切れしたり、息苦しそうにしている。
5)ゼーゼーしている、肩や全身を使って呼吸をしている。
6)顔色が悪く(土気色、青白い)、唇が紫色をしている。
脱水状態の危険兆候
7)水分がとれておらず、半日以上おしっこが出ていない。
8)嘔吐や下痢がつづいていて、水分補給が間に合わない。
9)元気がなく、ぐったりしていて、水分がとれていない。
以上のような症状を認めるときは、とくに緊急性が高いと考えてください。
インフルエンザと診断されて安心しないこと。タミフルもらったから大丈夫と思わないこと。すでに診察を受けていても、改めて早めに受診してください。急ぐべきと直感したら、躊躇なく救急車を呼びましょう。2009年に亡くなられたお子さんのうち、実は34人(89.5%)が発症翌日までに初回受診をしていましたが、その後に急変されています。
インフルエンザに罹った子どものケア
このような注意さえ払っていただければ、インフルエンザは特別な対応をしなければならない病気ではありません。穏やかに眠っているのであれば、夜中に起こして救急受診させる必要もありません。
寒がっているときは、布団を重ねるなどして体を温めてあげましょう。暑がって汗をかきはじめたら、体を拭うなどして風通しを良くします。ただし、寒冷と乾燥は鼻炎や咽頭痛の大敵です。適度な室温と湿度は保つようにしてください。なお、小さじ一杯のハチミツで咳を穏やかにする効果が期待できます(Hibatullah Abuelgasim, et al. Review BMJ Evid Based Med. 2021 Apr;26(2):57-64.)。
発熱や痛みに対して、市販の解熱剤(アセトアミノフェン)の使用を躊躇しなくてよいです。楽になるなら積極的に内服させてあげましょう。逆に、発熱だけで元気にしているなら、あえて内服させる必要はありません。ほとんどのお子さんは、ゆっくり休んでいれば回復してゆかれます。